第一〇七話 ダークエルフ
倒れ完全に動かなくなったオーガの姿を見ながら、ふぅ、とミャウが息をついた。
「それにしても……こんなにあっさり倒せちゃうなんて思わなかったわね」
戦い終え、零れたミャウの感情は意外という思いだった。新しい付与を試したりもしたが、ここまで上手くいくとも思っていなかったのだろう。
「オーガの推定レベルは30程度はあるからのう。確かに以前のあんさんらやったら厳しかったかもしれへんが、やっぱ前の仕事が糧となってるんやろな」
ブルームの返しに、一度頷き耳も広げるも、すぐ顎を下げ、耳も垂らす。王女と勇者の事を思い出したのであろう。
「ミャウちゃんや。少なくとも王女の事はわしらがこれから頑張れば、解決できる話しじゃ。そう落ち込む事もないのじゃ」
ゼンカイの言葉にミャウも、そうね、と微笑を浮かべた。
確かにこんなところで落ち込んでいても何も解決はしない。
「ゼンカイ様の言うとおりですわ! ただ――」
ミルクも何時もどおりゼンカイのいうことに同調して見せつつ、辺りを見回した。
「……そうね。オーガを倒したと言っても肝心の問題が残っているわよね」
「と、とにかく、こ、ここを、で、出てしまわないと」
ミャウとヨイの発言に、ブルームが顎を指で押さえ考えこむ。
「じゃが、これはもしかしたらやが――」
そうブルームが何かを呟いた時だった。
「へ~、オーガを倒すなんてやるやんか」
突如響いた見知らぬ声に、誰!? とミャウが誰何する。
「フフッ……」
どこかから不敵な笑い声が響き渡る。すると、辺りの霧が少し薄れ、同時にブルーム側の正面に、何かの姿が浮かび上がっていった。
「これは……」
「ダークエルフやな」
ミャウの零した声に、ブルームが言を重ねた。
その視線の先に現れたのは、褐色の肌を有する少女。
彼女の耳はとても長く、更に先が尖っており、それこそがこの少女がダークエルフである事の証明でもある。
少女は耳に掛かる程度に伸びた髪を有し、その色は肌とは真逆の白。上背はミャウよりも低いか。更にクリクリっとした瞳のせいか、随分と幼くも感じる。
装備はミャウに近いようで、黒色の短めのスカートと一体化したようなチュニック。その上からやはり黒のクイラスを装着していた。
そしてその右手には武器としてクロスボウが握りしめられている。
「お、おおぉお……」
そしてこれはゼンカイにとって最も大事な事ではあるが。
「ふぉおぉおお……」
そう、少女は見た目には幼いながらもそこに潜むは。
「おおおぉおおぉおおお!」
そう正しくやんごとなき巨大なおっぱいが二つ実っていたのであり。勿論ここで久々に出るは。
「おっぱいじゃぁああぁああぁあ!」
ゼンカイ! 久方ぶりのバーサクモード突入! その姿に皆も唖然。あまりに久しぶりの変貌にミャウの反応も間に合わず。
カタパルトから射出された音速ジェット機も何のそのな勢いで、その黒い谷間めがけ突撃する!
「ひゃっほおおおおぉおおおう!」
ちょ! お爺ちゃん! というミャウの静止などは当然聞いていない。というよりはその声が聞こえた時にはゼンカイの頭は、谷間に向かって完全ダイブ! を完了させていた、かのように思えたのだが――
ドン! という破鐘を叩いたかのような音が鳴り響き、ゼンカイの身がピン! と一文字に固まったまま、ズリズリと地面に落下した。そして後にはゼンカイの頭の後がくっきりと残った巨木が残る。
当然だがそこにダークエルフの姿は無い。
「あはははっははは! 馬鹿なお爺ちゃんやねぇ。全くおかしすぎて腹よじれるわ」
再び霧の中に少女の声が木霊した。ミャウとブルームは耳を欹て、声から位置を探ろうとするが、あちらこちらから反響する声のせいで、判別がつかない。
「チッ! 姿なんか消して随分と卑怯な奴だね!」
叫ぶミルクの声には、挑発めいた感情も織り交ざっている。
「ふふん。だったらえぇよ。うちの姿しっかりその目に焼き付けるんやね」
再び少女の奇妙な声が響いたかと思えば、今度はミャウの後ろにその姿が浮かび上がり。
「え?」
ミャウが少女の姿を一瞥したあと、疑問の声を発した。
そしてそれは他の皆も同じ気持のようであり――
「どうなってるんだいこれは」
「ダ、ダークエルフの、す、姿が、な、何体も」
「……妙な技を持っとるようやのう」
四人が忙しく黒目を動かし、辺りに現れたダークエルフの姿に着目する。
それはミャウの背後から、ミルクの前方、プルームの頭上にある枝の上など、あらゆる場所に姿をみせはじめた。
そしてその見姿は、全て同じダークエルフのソレであった。
「う~~~~ん――」
ゼンカイが頭を擦りようやく起き上がった。
そして、その視線の先で繰り広げられている光景を目にし、なんと! と声を張り上げる。
「ふふん。どうだい? これこそがうちの得意とする――」
「なんてことじゃあああぁああぁ!」
ダークエルフが全てを言い切る前に、素っ頓狂な声をゼンカイが上げたため、ダークエルフの視線が一斉にゼンカイに向く。
そして――。
「まさかダークエルフちゃんの姉妹がこんなにおるとは!」
「なんでやねん!」
言下にダークエルフのツッコミが入ったのだ。
「何いうてんねん! アホかい! これのどこが姉妹やねん! 全員同じ顔やろが! なんや! これ全部○つ子ってやつか! 今軽く16体はおるから……16つ子か! あるかいんなもん! 母体の腹いてまうわ! 冗談も大概にせぇよあほんだら!」
「…………」
霧に包まれた空間にしばしの沈黙。だが――。
「しゃべろや! なんやお前ら! 人にこない突っ込ませといて黙るってなんやねん! 放置か? 放置プレイか! お前らがボケたからうちが突っ込んだんやろが! 責任取って拾えや! うちが滑ったみたいやんか!」
「……ねぇもしかしてあんたの姉とか妹とか?」
「なんでやねん!」
ミャウが思わずブルームに聞くが、ホウキ頭は不機嫌そうに怒鳴る。だが、その口調からして疑われても仕方ないだろう。
「クッ! やってもうたわ。思わず素がでてもうたわ~。なんやあんたらやるな~ほんまに~」
「いや、お前が勝手にしゃべり続けてるんだろ」
ミルクが冷静につっこんだ、
「ふん。なんや胸はデカイくせにつまらん女やなぁ」
「ほっとけ」
ミルクは中々冷静である。
「フンッだ。まぁえぇわぁ。どっちにしろうちのスキルにかかったらあんたらもう抜けれへんで? というか終わりやわ。そう……終わり――や!」
突如語気が強まったかと思えば、ミルクの側のダークエルフが矢を射った。
「チッ! こんなもの!」
だがミルクは、迫る矢を躱し、目の前のダークエルフ目掛け、【ブレイクシュート】をお見舞いする。
が、その攻撃があたった瞬間、ダークエルフの身体はその場に霧散した。
「チッ! 偽物かよ!」
ミルクが悔しそうに歯噛みする。
「だったら……あたしが全てかき消してあげるわよ!」
叫びあげミャウが跳躍し、【ハリケーンスラッシュ】と剣を振るいスキルを発動させる。
その瞬間、斬撃より発生した旋風が周囲に広がり、ダークエルフの身体を次々に切り裂いていった。
「おお! 流石ミャウちゃんじゃ!」
ゼンカイが興奮したように声を上げる。
だが、消えたと思えたダークエルフの姿は、すぐに新たな場所に浮かび上がっていく。
「ムダや。幻影をどんなに消したところで、何度でも復活させてくるやろ。魔力を無駄に浪費するだけや」
ブルームが言うと同時に、ミャウが地面に着地した。その表情には不快さが滲み出ている。
「だったらどうしろっていうのよ」
ミャウの問いにブルームは応えず、周囲をみやる。
「あはははっ! いくら考えたかて無駄やわ~。うちの戦法を破ったものなんてこれまで誰もおらんさかいな」
「だとしたら、これまでの相手が只のアホやって事やな」
ブルームの顔が急に自信に満ちたものにかわり、そして相手を挑発するような言葉を吐き出す。
「な、何言うとんねん! だったらあんた、この状況をなんとか出来るいうんか!」
その声音からは若干の怒りがにじみ出ていたが――。
「勿論や。もうとっくにこの技の弱点を見つけたで」
そうはっきりとブルームが宣言するのだった。




