第一〇一話 王女救出の案
ブルームの発した一言に宰相とレイドは目を丸くさせた。
だがアマクダリ王は、玉座に肘を付けたまま、申し上げてみよ、と続きを促す。
「今も言ってたようにや、あの森はダークエルフの魔法がかけられとってまともには進めへん。だけどな、それは当然表の人間がって意味や。裏の人間、つまりアルカトライズに住むもんなら、ダークエルフから特別なルートを教えてもらっとるから森を抜ける事が出来る。でないと奴らも外へ出られへんからな」
そんな事当然だろう、と宰相が呆れたように言う。
「そうや、当たり前。だけどそれが光明や。わいは生まれも育ちもアルカトライズや。今でこそ表のギルドに世話になっとるが、当然昔からのツテもある。森を抜けるルートを調べるぐらい、朝飯まえや」
その発言に、ほぉ、と王が軽く目を見開く。
「そこまで言ったら判るやろ? 王女奪還はわいが先頭を切って行ってやるわ。わいはアルカトライズの内情にもそこらのもんより詳しいからのう」
「ふむ――」
王は一つ頷き、ブルームの瞳をじっと見据えた。
「しかし、そこにはお主一人で向かう気か?」
「いや、流石にそれはち~と無茶やな。じゃけどだからって八十人も用意するような無茶もせぇへんが」
その発言に、レイド将軍の眼が光る。だが、睨めつけられていようと、知った事かとブルームが話を続けた。
「じゃからここは、そこに並んでる皆にも協力してもらう事になるのう。わいの考えでは五人程度で向かうのがベストやと思うしな」
「……なるほどな」
アマクダリ王は一応の納得を示しているようだが。
「王よ、ぶしつけながら申し上げますが、この者の言ってる事は少々無理があります。先ずそこに並んでいるものと言いますが、彼らのレベルはそこまで高いとは思えません。一方私が揃えた者達はレベル50を越える猛者たちです。百歩譲って森を抜ける五人を選ぶにしても、そうですな……そこのミャウに関しては私もよくしっているので同行させるにしても、残りは私と、軍の騎士で構成すべきです」
そこまで言って、ブルームに身体を向け直し。
「とは言え、彼の知ってる森を抜ける方法というのが役に立つのも確かでしょう。……アルカトライズ出身というのが少し気になりますが、まぁ頼ってみてもいいでしょうな。ここは彼から抜け道を聞き出し、我らで」
「アホかい」
ブルームは将軍の話の腰を折る。
「全くしゃあないやっちゃ。軍や軍や言うけどな。アルカトライズちゅうのは情報収集能力も人一倍高いもんがそろっとる都市や。当然あんたのいう精鋭部隊の情報なんかもとっくに漏れとるやろ。王国軍の人間なんかが出向いたら即効でバレるわ」
首を左右に振りながら、ブルームが言葉を続ける。
「それにレベルに関してはここにいるような、低くも高くもないぐらいの方が丁度えぇ」
「随分な言い草だねぇ」
ミルクが腕を組み、不満そうに述べる。
「何せ先に言ったように、アルカトライズは結界もはられとって、表ギルド所属で高レベルの冒険者なんかが入り込んだら即効でバレる。しかしここの面子ならレベルで引っかかる事はまぁないじゃろうし、それにこいつらはレベル以上の物を隠し持っとる。王女奪還にこれほど適した人選はおらんわ」
ブルームの発言に、ふん判ってるじゃないか、とミルクが打って変わって機嫌を良くした。
そして王は、考えを説明してみせたブルームと一向に視線を巡らせていく。
「王よ、この者の言ってる事は妄言です。そもそも結界など問題はありません。私の精鋭部隊であれば」
「無駄やで」
再びブルームが口を挟む。
「さっきもいうたけど、それじゃあ無駄死にや。はっきり言うたる。八十人といわず、例え王国軍とやらが全軍で総攻撃をかけたとしても奴らが本気になればあっさり全滅するやろな」
この発言に、流石に宰相も怒りが収まらないのか、指を突きつけ喚き出す、
「この無礼者が! よりにもよってアルカトライズごときに我が王国軍が全滅するなど! 不敬! 貴様! 不敬もいいとこであるぞ!」
「まぁ待て。で、その方はなぜそう言い切れる?」
宰相を抑え、王が問う。
「そんなん簡単や。まず今アルカトライズの首領気取っとるエビスっちゅうのは、今回の四大勇者を復活させた連中の仲間や」
ブルームの言葉に宰相の顔が驚きに変わる。どうやらそこまでの情報は知らなかったようだ。
「そんで、その四大勇者を復活させた奴らも恐らくあの勇者たちに負けんぐらいの化け物や。わいも対峙したからようわかる」
ブルームは両手を広げ、首を軽く傾けたあと、更に話を紡げる。
「相手はそんな奴らや。もしそこの将軍とやらが言うとる作戦なんて実行してみぃ。ヘタしたらそいつらが一斉にアルカトライズに集結するわ。あの実力なら転移魔法なんて使わんでも、瞬時に移動できる筈やからな。そしたら王国軍がいくらいたって無駄や。ゴミくずみたいに扱われて殲滅するのが落ちやで」
「ゴミクズとは随分な言い草だな」
「わいは嘘も平気でつくけどのう、こういうことは思ったままを言うんや。第一そこのスガモンちゅうギルドマスターかて、あの勇者達の前では逃げの一手に走るしかなかったんや。相手はそれぐらい強大っちゅうこった」
「耳が痛いのう」
スガモンが白髭を擦りながら呟く。
「……確かにスガモンの魔術師としての実力は認めよう。伊達にスペルマスターのジョブも持っていないしな。だがそれでも全盛期はとっくに過ぎている。かつて勇者と共に行動を共にした頃ならともかく、今の実力では四大勇者を前にして怖気づくのも仕方ないであろう。勿論それはスガモンが悪いのではない。全て老いが招いた結果だ」
「……あんさんしつこいのう。全く往生際の悪いやっちゃ」
「当然だ。この件はお前ら冒険者風情ごときだけで――」
「まぁ待て」
アマクダリ王がレイドの口を止めた。
「そこのブルームという者のいってる事は中々筋が通っておる。それに四大勇者の事を考えれば、寧ろ精鋭部隊を裂いてまでレイド将軍が王国から離れるのは得策ではないだろう。エビスというものがその仲間というなら尚更だ」
ギシリと玉座がなった。王が背もたれにもたれ掛かったからだ。
「……そういうわけだしな。娘の件はこの者達に任せよう」
王の発言に隣の宰相が目を見開く。
「本気ですか王よ! このような者達に――」
「私の判断に何か文句があるのか?」
ギロリと睨めつけると、いえ! そのような! と宰相が平伏してみせた。
「レイド将軍。そなたも良いな?」
「……王がそう申されるなら。しかし、彼らが失敗した時の為の準備は進めさせて頂きます」
レイドの発言は、まるで失敗することが前提のようだ。
「それで構わん。ブルームと言ったな。その方も問題ないか?」
「わいの方から言ってる事やからな。勿論問題ないで」
「ふむ、で、いつ出発する気だ?」
「そんなのは勿論今日や。既に情報も掴んでおるからのう」
ブルームは中々抜け目の無い男であった。
「そうか……ではここからの事はスガモンに任せる。あとの報告も宜しく頼んだぞ」
王の言葉にスガモンが、承知いたしました、と返し、そして一行はその部屋を後にした。
「しかしお前も、将軍に向かってよくあんな口を聞けたものじゃのう」
スガモンがブルームにそう言うが、顔には笑みが溢れている。咎めというよりは、よくやったという感情のほうが顕になっていた。
「別に将軍やらなんやら、そんなんわいには関係ないしのう」
両腕を後ろに回しプルームは軽く言いのける。あまり相手の地位などに頓着がないのだろう。
「しかし早速今日出発とはな。随分と急な話じゃ」
「そうかのう? すこしでも早いほうがえぇやろ。あぁそうや、爺さん森の前までは転移魔法でスパッと頼むで」
「そんな師匠をタクシーみたいに……」
師匠の横で聞いていたヒカルが思わず呟いた。ただタクシーと言われてもこの世界の人々には通じないだろう。
「ところで五人って言ってたけど誰と誰のつもりだい?」
ミルクがブルームに問いかけた。確かに今の面子だと五人よりは少し多い。
「うん? あぁそうじゃな。勿論まずはわい、そしてヨイちゃん、爺さん、ミャウ、あとはミルクあんたや」
そのブルームの返しにヒカルはホッと胸を撫で下ろし、タンショウは不満顔だ。
「あたしはゼンカイ様と一緒にいけるのは嬉しいけど、タンショウは何で駄目なんだい?」
これにはタンショウも興味深そうだ。
「当たり前や。そいつはガタイがデカすぎやし、それにトロい。今回のような作戦にはむかんわ」
ブルームの発言にタンショウが項垂れた。
「まぁでもこればっかりは仕方ないわね」
ミャウが苦笑いをみせる。
「ついでにいうとくと、ヒカルも肥えすぎやし気が弱い面がある――」
余計なお世話だ! とヒカルが怒ってみせるが、構わず話を続けている。
「後は魔法使いとなると体力の面も心配や。一方でミャウは動きが素早くて、ミルクは素早さはミャウほどじゃないんやが、その分体力に優れているしのう。ヨイちゃんは体力はお世辞にもあると言えんが、回復魔法が使えるのは大きい。チートもな。あとは爺さんだが――」
「おお! 勿論勇者ヒロシがいない今、わしこそが勇者として活躍するに値すると、そういう事じゃな!」
「いや、全然ちゃう。というかわいにもようわからんのやけど、なんかおまん、妙な物もっとるからな。それに期待っちゅうところや」
「ズコーーーーーー!」
爺さん、ズッコける。その姿は正しく昭和のソレである。
「なんじゃい! わしは変わりもんとでもいうんかい」
「うん。お爺ちゃんは確かにそうだね」
「何を言う! ゼンカイ様こそ真の勇者に相応しい御方! あたしは知っておりますので」
唯一ミルクだけはゼンカイの事を信じて疑わない。頬に手を当て、顔も赤らめている。
「そ、それで、す、すぐ、い、今から、し、出発ですか?」
ヨイが尋ねると、そうじゃのう、とブルームが返し。
「ミャウとミルクはもうレベル30超えとるやろ? やったら行く前に転職を済ませておいたほうがえぇな。それに色々準備もあるやろ」
ブルームの言葉に、あ、本当だ! とミルクとミャウが驚く。
「そういえば確認してなかった……」
「あたしもだよ。でもよくわかったな」
驚いたように尋ねてくるミルクに、まぁなんとなくわかるんや、と彼が応えた。
「とにかくそんなにボヤボヤともしてられん。そうやな出発は一時間後や。それまでに準備は進めて、その後は……ギルドでえぇかな爺さん」
ブルームがスガモンにそう確認を取ると、あぁ判ったわい、と白髭を揺らしながら頷いた。
こうして王女救出に向かう為、一行は其々準備を進めていくことになったのだった――。




