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初めに竜があった  作者: 最黒福三
トカゲの時代
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名もなきトカゲ




 トカゲ王は戦場を目指して歩いている。急いで戦場へ行かなければいけないことはわかっていたが足取りは重かった。自分の決断は正しかったのか?そんなことばかりが頭をよぎる。



 際限のない思考が強烈な感覚によって中断させられてしまう。

 見ると、自らの腹から剣が突き出ている。いつのまにか背後に忍び寄ってきていた誰かに背中から一突きされたことは明白だった。


 トカゲ王はその場に倒れ込む。力を振り絞ってなんとか頭を上げて自分を突き刺した者の突き止めようとする。それはなんとところどころに黒焦げになって、目を血走らせているジジであった。



 ジジは実は自分しか知らない抜け穴にいくつも用意していて、城に飛び込んで死んだと見せかけて実は戦場から遠く離れた平原へと抜け出していたのである。

 とは言ってもどこへ行くというあてもなかった。呆然としながら歩いていたところ、トカゲ王を見つけたのである。

 ジジはトカゲ王の後ろから忍び寄り、無我夢中で握っていた剣をトカゲ王につきたてた…というのが事の次第であった。





 ジジは何かをトカゲ王に向かってがなり立てていたが、トカゲ王には言葉の意味を理解することは出来なかった。トカゲ王の意識が朦朧としているからなのか、それともジジがもう意味のある言葉をしゃべることが出来なくなってしまったからなのかということはわからなかった。




 一通り叫び終えるとジジは急に静かになってしまった。それから辺りをきょろきょろと見渡しながら、まるで自分がどこにいるのか、自分は果たして誰なのかということもわからないようなおぼつかない足取りでどこかへと去っていってしまった。



 トカゲ王は薄れゆく意識の中で色々なことについて考えた。やはり自分はクララたちと一緒に戦場へ離れるべきだったのだろうか?しかしすぐに思いなおす。何度あの場面に立ち返ったとしても、自分はきっと戦場に戻ることを選んだだろう。王という名前のために。かつての自分と同じように名前の持たない無数のトカゲたちのために。




 しかしやはり最後にトカゲ王の頭をよぎったのはクララや赤蛙と一緒にあてもなく、無限に広い世界を放浪した時のことだった。竜に会ったこと、その時から世界の風景が一変したこと。世界を歩き回って様々な道具を発明したこと。そういったことを楽しく思い返しながらトカゲ王は息を引き取り、最初と同じ名もなきトカゲに戻った。




---------




 地下空洞。カンはテンと向き合っていた。もう長い時間、2匹は何もしゃべっていなかった。



 最初に口を開いたのはテンの方だった。



「もういいだろう。俺はドロンやアタリのところへ行くつもりはない。殺すならここで殺してくれ」



「兄さんを殺すことなんて僕には出来ないよ」



 そしてまた2匹は黙り込んでしまった。



 やがてカンは立ち上がり、テンの縛めを解いた。何の感情もこもっていない表情でテンは自由になった自分の手足、体を見つめ、それからカンの顔を見た。



「ドロンさんの目が届かないほど遠くへ離れて、そこで生きるんだ。兄さんならきっと1人でも、全く別の場所で全く新しい世界を作ることが出来るはずだ」



 テンは何も言わなかった。



「じゃあ、僕は戦場へ戻るよ」



 カンはそう言って振り返り、地上を目指して歩いていった。


 しばらく進んだところで気配を感じて振り返った。テンが決死の表情で剣を握ってカンに向かってきていた。ぎりぎりのところでカンはテンの攻撃を避ける。それでもテンはひるまずに第二、第三の攻撃をしかけてきて、それは全くやむ気配がなかった。やむなくカンは隙を見つけてテンに胸に剣を突き刺した。倒れ込んだテンは血を吐きながらこう呟き、そして果てた。



「俺を…愚弄するな」



 カンはテンの死体の前にひざまずき、しばらく涙を流し続けていた。







-----------



 戦場。



 アタリ。辺りを見渡す。兵たちはあらかた逃げるか死ぬかしてしまい、残ったのは降伏した兵たちを含めてもわずかである。最早ドロンもいない。ジジもいない。トカゲ王もいないのだ。あれほどの栄華を誇ったジジの城も今は崩れ落ち、そしてその残骸は今もまだ燃え続けている。アタリは改めてこの戦いに意味があったのかどうか考えるようになった。



 しかしじっくりと考えることは今はアタリには許されなかった。今兵たちが頼りにしているのはアタリだけだった。自らを頼りにしてくれるこの兵たちを見捨てることは出来ない、とアタリは思った。


 アタリは残った兵を集め、そしてこの苦い思い出のつまった戦場を離れ、全く別の世界を目指して流浪の旅に出ることを決意した。それに反対するトカゲはいなかった。


 出発する直前、カンが戻ってきた。アタリは何も言わず、ただ受け入れた。アタリが何も聞かなかったことが、ただただありがたい、とカンは思った。




 アタリは出発する直前、こう呟いた。

「もう戦いはこりごりだよ」

 そして戦場には誰もいなくなった。城はまだ燃え続けていて、その火の勢いはまだまだ鈍りそうにはなかった。



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