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初めに竜があった  作者: 最黒福三
トカゲの時代
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地下空洞へ

トカゲ王は兵を引き連れジジの城の前へやってくる

 




 トカゲ王はその後大量の護衛兵を引き連れてジジと会見をするために出発した。

 アタリとカンが鍛え、工房で開発された武具を備えた兵たちである。

 その身は屈強で、とてもただの護衛とはいえないような雰囲気を皆漂わせていた。

 主に兵を指揮しているのはアタリで、ドロンとトカゲ王は兵たちが担ぐ箱に乗せられ運ばれていた。




 ジジは城の最上階から多くの兵を引き連れてやってくるトカゲ王を見てわなわなと体を震わせた。


「ほれ!やっぱり来やがった。しかしそんなことは予想できたことだ…。この日のためにわしらは最強とも言えるトカゲ兵の軍団を作り上げてきたんじゃ。…テンよ!本当に大丈夫なのだろうな?わしらの兵は奴らの兵よりも強いのであろうな?」


 強がりつつも不安げに訊ねるジジにテンが答える。


「大丈夫です。偵察のトカゲを何度も派遣して奴らの兵の強さを確認しましたから。あの程度の強さならば今の我々が負けることはないでしょう」


 そうジジの手前言い切ったが、実のところテンは不安であった。

 普通の兵同士が戦うだけならジジの軍勢の方が勝つだろう。

 それについては確認できている。

 それだけの過酷な訓練を自らの配下の兵に施してきたという自信はあった。

 しかし気になるのはやはりあの巨大な化け物である。

 テンは身をもってあの化け物の恐ろしさを知っていた。

 あの化け物がどうしているのか?この戦いに果たして参加するのか…。

 テンは色々と調べていたが確たる情報を掴むことはできなかった。

 

 今相手の兵を見る限りでは化け物はいないようだ。

 しかしあいつが現れたら…たとえいくらこちらが優勢に戦いを進めていたとしてもどうなるかはわからない。

 それぐらいにテンは化け物を恐れていた。




 アカはクララと共に物陰に身を潜めながらジジの城へと近づいていた。

 戦況をこっそりと眺めて一番効果的なところで飛び出すためである。

 2匹丈高く伸びた草むらに身を横たえて戦いの推移を見守ることにした。

 

「しかし…お前が出て行くまでもなくトカゲ王の兵がジジの兵を打ち負かしてしまうということもあるんじゃないか?」


「うーんどうだろうね…。僕はそうはならないと思うけどね…」


「どうしてだ?」


「僕は結構暇だったからね。実はちょくちょくジジの城の近くまで行って敵の兵がどれくらいの強さが見に行っていたりしていたのさ」


「そんなことしていたのか…。見つからなかったのか?」


「そんなヘマはしないよ。それにこの辺りの地域はとてもたくさんの地下通路があるみたいだ。そしてそれらは複雑につながりあっている。そこをうまく利用することができれば僕のこのでかい体でも簡単に見つかることはないよ。こんなこというのはなんだけどまあ所詮相手はトカゲだからね…」


「そうなのか…?いや、確かにこの辺りには地下通路がところどころにあることは知っていたが…」


「まあとにかく僕らはしばらくここに隠れて様子をみることにしよう。…きっと僕の見立ては正しい。トカゲ王はいずれ僕の力を必要とすることになると思うよ…」




「テンよ、動員できる兵はこれで全部なのか?」


 自軍の兵を改めて見渡してからジジが言った。


「はい、これでほぼ全部です。もう城には地下の空洞を守る兵と、少数の我々の護衛兵以外は一匹たりも…」


「なんだいるじゃないか!その地下空洞の兵も地上での先頭に回すんだ。とにかくなんとしてでも、総力をあげてドロンの息の根をとめるんだ!」


「しかし…地下空洞には抜け穴があり、そこから敵兵が侵入してくるという可能性もあるので…」


「ふん!敵の兵はほとんど今わしらの目の前に並んでいるのだろう?奇襲に兵をまわしていたとしても極少数じゃ。その程度の奴らが城に侵入したとして一体何ができるというんだ?この城はこのあたりで一番頑丈な木材でしっかりと補強されているのだ…。生半可なことでは破壊されたりはせんよ…」


「ジジさまがそうおっしゃられるのであれば…」


「そうだそうだ。そして我らの護衛兵を地下空洞と城との間の守りに配置すればいいのじゃ。そうすれば何の問題もないだろう?」


「しかし…そうなると我々は?」


「わしらも戦場に行き、直接指揮をするのじゃ…この目でドロンの首が体から離れるところを見てやるぞい…」



 テンは言いつけどおり、地下空洞を守備していた兵も地上の守りにまわした。

 テンは兵をほとんど全て城の前に布陣させ、トカゲ王の兵と対峙させた。


(ん…?)


 改めて敵兵の様子を眺めて、テンはあることに気づいた。


「カンの姿が見当たらない…?」




 カンはジジの城の地下空洞につながるという洞窟の手前にきていた。

 引き連れてきたトカゲの兵はわずかだったが、彼らは皆奇妙な道具を携えていた。

 それは木の棒の先端に葉や皮をまきつけたようなもので、何のために使うのかは全くわからなかった。


 カンはてっきり自分もアタリと共に兵の先頭に立って指揮をする役を命ぜられるものと考えていた。

 しかし実際には少数の兵だけ引き連れて別の道からジジの城の地下空洞を目指せと命令されたのだ。

 

 カンは疑問を感じながらも命令に従った。

 しかしやはりこの別働隊には謎が多かった。

 なにしろ…


「おいヤミよ、例の物は大丈夫なんだろうな?」


「問題ないですよドロンさん。命令されればいつでも差し出すことができるようになってますから…。安心して火の管理は私にお任せください…。そんなに心配なさらないで」


 ドロンと、それから工房から来たという怪しげなトカゲがさっきからこそこそと会話を続けていた。

 …ドロンはこの別働隊に参加していた。

 ジジの城の前の本隊のところにいるジジは偽者なのだ。

 なぜそんなまわりくどいことをしてまでドロン自らがこの別働隊に参加しているのかということはカンには見当もつかなかった。

 

「カンよ」


 ドロンがカンを呼びつける。

 

「なんでしょうか?」


「足の速いトカゲはどれだ?」


「はい。こちらに控えているトカゲ達がそれです」


「うむ…。言いつけたとおり、兵たちの中で一番速い者たちを選りすぐっただろうな?」


「はい、それはもう…。速さだけで言えば私ですら敵わないトカゲばかりですので…」


「うむ、ではまずそこのトカゲ」


 と、ドロンはその内の1匹を指差した。


「お前は一旦わしらと一緒にこの洞窟のもう少し奥まで行って道を確認したらこの入り口付近まで戻ってくるんだ。そしてそこで待っているんだ…このトカゲと一緒にな」


 と、ドロンはまた別のトカゲの腕を引いて連れてきながら言った。

 それはあまりカンには見覚えのないトカゲであった。

 どうやら主にドロンの下で動いている直属のトカゲのようであった。


「このトカゲが合図をしたらお前は全速力で洞窟に中に向かって走るんだ。…途中で別のトカゲに会うまでな…。」


「なるほど、それで洞窟の中にトカゲ達を配置し、彼らに伝言させるというわけですな」


 と、カンが言った。


「伝言、というほどのことでもない。伝えさせることはたった一つだけだ…。戦いの状況を見てトカゲ王はあることを判断することになっている。戦場からここまでの間にはトカゲが配置されていて、その判断を下したという合図をここまで送ることができるようになっている。洞窟の入り口、つまりここで信号を受け取ったらトカゲ達が走って最終的に地下空洞に待機している俺たちにそれを伝える、というわけだな」


「その判断、とは何なのですか?」


「…お前は今はそのことについて考える必要はない。その時がきたら俺の指示に従えばいい。…まあお前にしてもらうことはとにかく地下空洞や、そこから城につながる道にまだ残っているかもしれないジジの兵たちを倒してもらうことだ。今はとにかくそのことだけを考えてくれればいいさ…。心配するな、俺も戦う…。少数の兵なんて蹴散らすことができるさ…」



 そう言うとドロンは舌で自らの口のまわりをベロリと舐めた。

 今までには決して見せなかった恐ろしげなドロンの表情を見て、カンは背筋に冷たい物が走っていったような感覚にとらわれた。

 とにもかくにも命令に従い、自分のするべきことを果たそう。

 そう自分に言い聞かせてカンは余計なことは考えないようにした。


「では、洞窟の中に入るぞ…」


 ドロンがそう言って真っ先に薄暗い洞窟の中へと入っていった…




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