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初めに竜があった  作者: 最黒福三
トカゲの時代
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新しい道具

アタリとカンがジジの城を訪問し、トカゲ王が帰還したことを伝えた。またアタリはジジにこの城を明け渡し、早急にトカゲ王にしもべとして忠誠を誓えとも伝えた。ジジは激怒し、アタリとカンを追い返した…





 トカゲ王の城へ戻ってきたアタリとカンはジジの様子を王と、その傍らに控えるドロンに報告した。

 王はふんふんと頷き、それから答える。


「まあとにかく会いに行けばいいんだろう?どういう風に話が転ぶにしてもまずは話をしてみないことには始まらないからな。…それじゃあこれで話は終わりか?それならもう俺は工房に戻りたい。開発中の新しい道具があるんだ。もうちょっとでうまくいきそうなんだ。」


「よろしいでしょう。必要な時にはまたお呼びに行きます」


 それを聞くと返事もそぞろに王は部屋を出て行った。

 後にはドロンとアタリとカンが残された。

 ドロンがアタリに向かって言う。


「しかしそうなるとジジをうまく挑発することはできたということだな。」


「ええ、ジジはもう顔を真っ赤にして怒っていましたよ。”しもべ”という言葉に異常ともいえるほどに反応していましたね」


 と、アタリが言った。


「奴は俺よりもはるかに長く生きている。ずっと昔の時代にはかなりみじめな生活を強いられていたようだ。しもべという言葉はその時のことを思いださせるんだろう。…しかしそれだけ怒っているのなら王の訪問を兵を出して迎えるのは確実だろうな?」


「ええ、おそらくは」


「うむ、ご苦労だった。…お前らも下がっていいぞ。長旅で疲れたことだろうからな。」


 そう言うとドロンも部屋を出ていってしまった。

 カンがアタリに話しかける。


「しかしあんな風にジジさまを怒らせてよかったのでしょうか?無用な争いを生むだけでは…」


「いや、いずれ争いは起きるさ。なら起きるのはできるだけ早い方がいい。城とか墓とか、そういう区別は古いものなんだってことを多少手荒にでも奴らにわからせなくてはな」


「…」


「お前の気持ちはわかるぞ。城にはテンがいるからな。…あれだけのことをされてもまだお前はテンのことを心配している。違うか?」


「それは…やはり家族ですから」


「お前がいくら奴のことを考えてやっても奴はそんなの屁とも思わないさ。…まあ好きにするがいいさ。先んじて奴を助けるのは勝手さ。しかし我々な作戦の妨害をすることは許されないぞ」


「それはわかっております。みなさんの迷惑になるようなことは決していたしません。いざとなれば兄さんをこの手にかける覚悟はできています。…それ以上に、この戦いで城のトカゲ達が大勢命を落とすと思うと…」


「…お前が気に病むようなことじゃないさ。なんといっても我々はトカゲ王の命令で動くのだからな。我々は王のしもべとして徹底的に王に服従する。代わりに王は全てを引き受ける…ドロンさんが言っていたことさ。…ま、私はそろそろ休ませてもらうことにするよ」


 カンは頭を下げ、部屋を出て行くアタリを見送った。

 カン自身は他に誰もいなくなったその部屋に残り、しばらくそのまま動かずに立ち尽くしていた。




 ドロンはトカゲ王の城の中でも一際大きな部屋を訪れていたところであった。

 部屋の中に入り、そこにいた巨大な体格を持つ者に話しかける。

 それはアカであった。


「赤蛙さま。少しお話があるのですがよろしいでしょうか?」


「話?話なら大歓迎だよ。なんせここに来てから話というものを全然しなくなっちゃったからね。トカゲ達は全然近づいてこないし、トカゲ王は工房に入り浸って相手してくれないし、クララは全然尋ねてきてくれないし…。退屈していたところなんだ。ところで話とはなんだい?」


 ドロンはクララに、王や赤蛙にあまり近づかないようによく言い含めていた。

 しかしもちろんドロンは赤蛙にそんなことは言わない。

 ドロンは口を開く。


「実はトカゲ王には兵を率いてここから遠く離れたところにある城を訪問してもらおうと思うのです。それに赤蛙さまも同行してもらえないかと思いまして。…彼らにとってトカゲ王の登場はやはり一大事件ですからな。なんというか、その…」


「小競り合いがあるかもしれないから万が一のことがある時には僕に敵を蹴散らしてほしいということでしょ?まあ別にいいけどね…気が進まないなあ…」


「しかし、トカゲ王にもしものことがあったら…」


「正直なことを言うとだね、僕はもうトカゲ達の世界というものにうんざりし始めてきているんだよ。なんだか細かいことをぐちぐちと気にしているし、僕からすれば同じ程度の顔、同じ程度の知能、同じ程度の力しか持たないのにどちらが上か下か気にしているし…今回だって城に攻め込もうとしているけれど、その目的っていうのがなんなのかよくわからないんだよなあ。トカゲ王を受け入れないって向こうが言うならそれでいいじゃないか。なんでわざわざ王の存在を認めさせる必要があるんだ?」


「それは、そういう約束だったのです。ジジとの。王が復活すればトカゲの集落は全て王に返還するという。そういう約束で俺もジジも墓や城の長ということで収まっていたのです。…王が帰ってきた以上、約束は果たされなければならないのです。つまりジジは城を必ず明け渡さなくてはならないのです。そしてそのためにはあなたのお力が…」


「わかったわーかった。いいよいいよやるよ。ちょちょっと力をそいつらに見せ付ければいいんだよね?いいよ、曲りなりにも君達には世話になったしね。その分のお礼はさせてもらうよ。ただし…」


「ただし?」


「この仕事が終わったら僕は本気で王さまやクララに相談してみることにするよ」


「なにを…ですか?」


「このトカゲの世界を抜け出して、また旅に戻ることをさ」


「なんと!それは困ります。…ええ、それは困ります…王がいなくなるのは…」


「困ることなんて何もないよ。僕達がいなくなっても君がいるじゃないか。君はずっと今まで1匹で多くのトカゲ達を従えてきたんだろう?従えるトカゲがちょっと増えるだけのことじゃないか。大丈夫、君はきっとうまくやることができるよ。というか、君だって本当はそれを望んでいるんだろう?トカゲ達を余すところなく従えるために王さまという圧倒的な力の持ち主が必要だっただけのことだろう?」


「そんな、それは違います。俺は…俺は今まで王に対する申し訳ないという気持ちだけを支えとして生きてきて…」


「あー、うるさいうるさい。なんでもいいよ。君の気持ちなんてものはね。とにかく戦いに協力はするよ。ただしそれが終わったら王さまに旅に出ないか聞いてみる…そういうことでいいね?そうだ、なんだったら君自身が王さまになればいいんじゃないか。今の王さまからその地位を引き継ぐという形でね」


「そんな…」


「いずれにしてもそれは先のことだ。今は目の前の戦いのことに集中しようよ!さあもう部屋を出て行ってよ。なんだか眠くなっちゃったんだ。ほらほら早く。…言うこと聞かないと食べちゃうぞ!なんてね」


 半ば押し出されるようにしてドロンはアカの部屋から追い出された。

 ドロンはしばらく部屋の前で何事か思案するように立ち尽くしていたが、やがてどこかへと姿を消してしまった。





 一方、工房では王さまは嬉々として物作りにいそしんでいた。

 この頃は工房で働いていたトカゲ達はすっかりとトカゲ王のことを信頼し、なんでも相談するようになっていた。

 トカゲ王も気さくに工房のどんなトカゲにも話しかけるので、工房はいつも和気あいあいと、活気で満ち溢れていた。


 トカゲ王と協力して何かを1つ発明するたびにトカゲたちは抱き合って喜んだ。その日もよく飛ぶ弓矢を発明したとかなんとかで皆が歓声をあげているところであった。



 工房中がそんな風に騒がしかったので、工房の片隅の、もう長いこと開かれていなかった扉が開かれて、中から一匹のトカゲが姿を現したことには誰も気づかなかった。

 そのトカゲはゆっくりと歩いて、群衆から少し離れたところにおかれていた椅子に腰を下ろした。

 彼の存在に一番最初に気づいたのはやはりトカゲ王だった。


「ヤミじゃないか。お前はずっとあんな暗く狭い部屋に引きこもって…。確かにお前の能力は俺も認める。しかしだな、他のみんな話をすることによって新しい発想が生まれるということもある…ん、何を持っているんだ?」


 ヤミと呼ばれたトカゲは右手に棒を握っていた。

 それはただの棒でなく、先端にはゆらゆらと蠢く赤い何かがまとわりついていた。

 それはたえず形を変え、動き続けていた。

 不思議と、いつまでも見ていても飽きない、そんな不思議な何かだった。


 トカゲ王は思わず近づき、その赤い何かに触れてみようとした。

 しかし手を近づけた瞬間ものすごい痛みを感じ、手を思わず引っ込めてしまった。

 それは正確には痛みとは少しだけ違っていた。

 なんだろう、もっと広く、鈍く、じわじわと染みこんでくるような辛さを手に感じたのだ。

 トカゲ王はその感覚を言葉で言い表すことができなかった。

 それは今までに経験したことのない感覚だったからだ。


「おい、これは一体なんなんだ?」


 興味津々になって問いかけるトカゲ王にまず不敵な笑みで答えてからヤミは言った。


「これですか?これはね…火、というんですよ。」

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