墓はなくなりました
トカゲ王の城で様々な事件が起きている一方、ジジの城では…
ジジは城の大広間でテンを待っていた。
いくら待っても来ないのでジジの怒りはどんどん高まっていった。
叫びだして暴れだそになるほどにジジの怒りが高まったところでようやくテンは姿を現した。
すぐに唾をたくさん撒き散らしながらジジが怒鳴りつける。
「きさま!連絡もよこさずに一体今まで何をしていたんだ!?例のドロンを罠にはめるという作戦は一体どうなったのだ?」
テンがドロンの元に寝返ったということもありうる。
妙な仕草を見せればすぐに八つ裂きにしてやろう、そうジジは考えていた。
「色々不慮の出来事がございましてな…。責めは何でも受けますよ。しかしそれをするのは私の話を聞いてからにしていただきたい…」
「なんだ?一体何を話すというのだ…?」
予想とは違ったテンの態度に多少ジジも戸惑っていた。
ジジを恐れているのとは違うが、しかし余裕があるというわけでもない。
どちらかといえばどうしようもなくて途方にくれているような、困り果てているような、そんな様子であった。
テンは谷で遭遇した出来事について全て話した。
つまり、作戦はほとんどうまくいきかけていたが見知らぬ2匹のトカゲと見たこともないほど巨大な化け物があらわれて全ておじゃんになってしまったということについて話したのである。
特に、化け物の恐ろしさについては事細かに話した。
何しろ後ちょっとでテンは握りつぶされてしまうところだったのである。
テンは巧妙で頭が良く、命が危険にさらされる状況に自分を追い込むことはほとんどなかった。
だからなおさら化け物が自分に与えた恐怖が強くテンの心に刻み込まれてしまったのである。
さて、このテンの話を聞いてジジはどういう反応を見せたか?
テン以上に恐怖に感じ、顔をぐしゃぐしゃにしてぶるぶると震えてしまったのである。
「トカゲよりもはるかに巨大な化け物」と聞いて、ジジはかつてトカゲの集落を襲った大トカゲや鰐のことを思い出していたのである。
(化け物とは…?大トカゲは確かに地面にわしがこの手で埋めた。復活する見込みなどまずない。すると…鰐か。鰐がやってきたのだ!例の谷は北の土地につながっていたと聞く。鰐がその道を通ってあの谷からやってきたとしても不思議ではない…!)
ジジはトカゲ達を食らい、殺した鰐の姿を思い出していた。
唾に濡れた鋭い牙、汚れた爪でばらばらにされていった親しい友達、ゴミためのような狭く食らい場所での逃亡生活…ありとあらゆる不快で恐ろしいあの頃の出来事を思い出していた。
そしてその記憶にジジは耐えられず、へたへたと座っていた椅子からすり落ちそうになった。
テンがあわてて近づいてきて支えたのでなんとか持ちこたえたが、顔は依然として恐怖でぐしゃぐしゃになっていた。
「一体どうしたのです。急にこんなに動揺なされて…」
「おいテンよ。お前が見たという化け物は、ごつごつとした硬そうな皮を持っていたか?」
「いや、つるつるとやわらかそうな肌でしたな。おまけにぬるぬるとしてました…」
「するどい牙や爪を持っていたか?」
「いえ…特に印象に残るようなものではありませんでした。しかし力はものすごいもので、つかまれた時は、とても自力で逃れることはできませんでした。」
それを聞いて、どうやら鰐ではなさそうだ、とジジは判断した。
しかしその化け物が鰐や大トカゲのように強大な力を持っている可能性はある。
決して油断はできない、とジジは思った。
「その化け物は、ドロンの側についたということなんだな?」
「私は途中で解放され、その場を離れるように言われ、それから一目散に逃げてきましたので、詳しいことはわかりませんが、どうも見知らぬトカゲの一方がドロンの知り合いのようでしたので…おそらくそうかと。」
「ふーむ…これは厄介なことになったな。その化け物がどのくらいの力を秘めているのかわからないことにはうかつに墓に手を出すことはできなくなったぞ…」
「私としましては正直、奴と向かい合うのは二度とごめんですな。あの時のことを思い返すと今でも食べた物を全て吐き出してしまいそうになります。」
「ふん…」
しかしジジはこの目で見てみるまではわからない、とも心のどこかで思っていた。
この証言自体がテンの何かの策略の一部かもしれないのだ…
その時、大広間に一匹のトカゲが入ってきてこんなことをジジとテンに伝えた。
「墓から使者が参っております!至急ジジさまに面会したいとのことです!」
大広間に入ってきたのはアタリとカンであった。
ジジとテンは自分たちの身の回りを屈強な側近で固め、万が一のことがないようにした。
一方でアタリとカンは余裕のある表情でジジとテンの前に控えていた。
カンはしっかりとジジの目を見つめ、時にはテンの顔も見たが、テンは決してカンの顔を見ようとはしなかった。
ジジはかなりいらいらとしていた。
アタリとカンがあまりにもふてぶてしく自らの目の前に座っていたからである。
「墓の使者が一体何の用だというのだ!きさまらごときに面会してやっているだけでもありがたいと思うんだな。今回は特別に会ってやっているんだ。今度何か言いたいことがあるのなら直接言いに来いとドロンに伝えておけ!で、今日の用件は何だ?早く言って早く帰れ!わしらは今とっても忙しいのじゃ…」
アタリは一つ咳払いをしてからこう言った。
「ふむ、まあ私としてはジジさまに色々と言いたいことはあるのですがね。今日は公の任務のためにこうして来ているわけですから、まああれこれ言うのは差し控えさせていただきますよ。…単刀直入に言わせてもらいますが…墓はなくなりました。」
予想もしていなかったアタリの言葉にジジもテンも目を丸くした。
何か冗談を言っているのではないかとジジは一瞬思ったが、決してアタリはそんな雰囲気ではなかった。
ジジは戸惑いながらも詳しく説明を求めた。
「つまり…どういうことだ?」
「どうもこうもございません。墓はその役割を終えたので、もう存在する必要がなくなった。それだけのことです。」
「だからそれはつまりどういうことなのかと聞いているんだ!もっとわかるように言え!」
「トカゲ王が帰還し復活したので、もう墓は必要ないとそういうことです。王の復活を待ち、祈り続けるための場所が墓なのですから、王が復活した以上墓が必要なくなるのは当然です。つまり、王の帰還を持って墓は王の城となったのですよ。」
「トカゲ王だと?おい、お前。わしをからかうのもいい加減にするのだぞ。でないと温厚なわしも最後には怒ってしまうからな…五体満足でこの城から出て行くことを保証できなくなるぞ…うう…」
それだけ言うとジジは椅子の中でうずくまってしまった。
先ほどから興奮を繰り返していたためにすっかりくたびれてしまったのである。
「アタリさん。こういう悪ふざけはやめにしてもらいたいものです。墓の中でも特別の地位についているあなただからこそジジさまとの面会を許可したのに…」
見かねたテンがそのように口を挟んだ。
しかしテンが口を開いた瞬間にカンがテンの目をしっかりと見据えたので思わずテンはたじろいでしまった。
「テン兄さん。ところが悪ふざけなんかじゃないんだ。本当にトカゲ王が帰還したんだ。兄さんも見ただろう?あの谷で。僕を助けてくれた見知らぬ2匹のトカゲの内の一匹が、トカゲ王だったんだ。僕の傷を治してくれたあの方さ!ドロンさまは王が帰還したので墓を王の城として明け渡し、自身は王の忠実なしもべとして働くことを誓ったんだ。他のトカゲ達と一緒にね。」
「なんだと…?あんな、普通のトカゲとなんら違いのない奴が、トカゲ王だと?一体何を根拠にそんなことを言っているんだ?」
「根拠などいらないのさ。」
アタリが言った。
「自らがトカゲ王であることを王自らが宣言した。それで十分なのさ。我々が最もお慕いあげる存在であるドロンさまが王だと言い、王自らもそれを認めている。我々としてはそれで十分なのさ…。まあいいさ。とにかく重要なのはこれからだ。つまり、王が帰還した以上、トカゲ達は王の下に皆平等だ。この意味がわかりますか?ジジさま。」
「お前らは…まさか…」
「そうです。王が帰還したのだから、ここも王の城ということになります。ジジさまには近い内にこの城を明け渡し、そして忠実な王のしもべとして働くことを誓っていただかなければなりません。ドロンさまや私やカンのように。」
ジジはそこまで聞くと椅子を倒して立ち上がり、アタリに殴りかかろうとした。
それは側近がかろうじて止め、カンもアタリの前に立ちふさがっていたのでなんとか衝突はさけることができた。
「言うに事欠いてきさま!しもべだと?どの口がそんなことを言うんだ。きさま、八つ裂きにしてやる!わしは王など認めんぞ!」
「これはもう認める認めないの話ではないのです。…まあ近い内に王自らがこの城へと挨拶をしにやってきます。王の姿を直に見ればきっとジジさまも考えを変えることと思いますよ…」
それだけ言うとアタリは立ち上がった。
カンも立ち上がり、2匹とも部屋を出ていった。
ドロンは2匹が広間から姿を消してもまだ怒りがおさまらず、それどころかどんどん興奮していってついには気を失ってしまった。
慌ててジジを介抱する屈強な側近たちを冷たい目で眺めながら、テンはぼそりと呟いた。
「大変なことになった…」




