別れ
ドロンとカンはテンの罠にかかり、行き止まりに追い込まれてしまった。しかしそこに3匹の謎の生物が現れて…
「ドロンさん。あなたこんなところで一体何をしているのですか?」
クララ、と呼ばれたトカゲが言った。
「…話せば長くなる。とにかく今は助けが必要なんだ。協力してくれ。」
「そのようですね…」
クララはあたりを見渡す。
胸に深い傷を受けて横たわっているトカゲもいれば、老いたトカゲに馬乗りになって首を絞めているトカゲもいる。
みんな呆然として、新たに現れたクララたちを見つめていた。
そんな彼らにクララは大声で話しかける。
「…あなたたちが何者で、どういう事情で争っているのかということは知らない。しかしこの俺の目の前で争うのはやめてもらおうか。…とりあえずそこの爺さんの首を絞めているお前、爺さんから離れろ!」
こう言われて首を絞めていたトカゲ、すなわちテンはクララたちをにらんだが、一際大きな化け物に睨み返され、実力の差を悟ってトンから離れた。
「後は…死にそうなトカゲがいるな。おいお前、これを食べるんだ。傷を治す効果のあるいい薬だ…」
そういってクララはカンに近づいていって、袋から取り出した団子を食べさせた。
するとみるみる内にカンの傷口はふさがっていった。
トンもテンも、その光景を驚愕の表情で見つめていた。
「…うむ、毎度ながらすばらしい効果だ。」
「当たり前だ。なんといっても俺が調合したのだからな…」
クララの傍らにいたもう一匹のトカゲが誇らしげに言った。
「ああ、そうだな。俺も何度この薬に助けられたことかわからんよ。こんなすばらしいものは世の珍しい植物を見る度にその性質をこと細かに研究していたお前にしか作れないものだよ。」
そう言ってクララは傍らのトカゲの肩をばんばんと叩いた。
そのトカゲは「当然だ」といわんばかりの誇らしげな表情でその賞賛を受けていた。
「…さて、では一体ここで何があったのか、ということについてでも聞きましょうかね。ドロンさん。墓や城の現状がどうなっているのかということについても聞きたいです。何しろ俺はずっと旅をしていましたからね、何も知らないんですよ…」
と、クララがドロンに話しかけたが、ドロンはクララではなく、クララの傍らにいたトカゲの顔をじーっと見つめていた。
話しかけられて初めて我に返ったようにクララに向き直った。
「確かにそうだな…いや、俺もお前に色々と話を聞きたいのだが…まあ俺の方から話すとするか。」
ドロンは草木が大地に生えてからの墓と城の状況や、墓で反乱が起きたということ、それを察知してカンがドロンをつれて逃げたが、それはカンの父と兄であるトンとテンの罠であったこと、などをかいつまんで話した。
例の巨大な化け物は最初はふんふんと話を聞いていたが、段々と顔が険しくなってきた。
そして話に一通りの区切りがついたところでその化け物はすっと立ち上がり、すたすたとテンとトンの近くまで歩いていった。
かと思うといきなりむんずで両の手でそれぞれトンとテンを握り締めた。
彼らは谷中にとどろくかと思われるような悲鳴をあげた。
「お前たちはなんてひどい奴なんだ!このトンとかいうのはカンの父親で、カンがずっと面倒を見てきてくれたのに欲に目がくらんで裏切った!こっちのテンは兄なのにカンを罠にかけて殺そうとした!しかもトンを利用してあげくに最後はトンまで殺そうとした!こんなに胸糞悪い奴らは蛇や鰐以来だ!僕はこういう奴らが世界で一番許せないんだ!こんな奴ら生きていたってどうせろくなことをしないだろうからここで殺してしまおう!」
そういって化け物はトンとテンを握り締める手に力をこめた。
トンとテンはさらに悲痛な鳴き声をあげた。
「おい、赤蛙、落ち着けよ…」
と、クララが化け物を赤蛙という名前で呼んでなだめたが、一向に落ち着く気配を見せなかった。
そんな赤蛙を沈静させたのはカンの声であった。
「申し訳ございません。…どうか父と兄を助けてあげてください。」
そう地面に額をこすりつけて懇願するカンの姿を見て、ようやく赤蛙は落ち着きを取り戻した。
トンとテンはアカの巨大な手から解放されたが、ぐったりとしたままであった。
赤蛙は不服そうな表情でカンを見て言った。
「君はこいつらに裏切られ、ひどい目にあわされたじゃないか。こいつらの命乞いを君がする必要はないと思うんだけど。」
「…何をされても、私は自らの家族を心の底から、つまり殺したいと思えるほど憎むことはできません。もしあなたが私のために父と兄を殺そうとしているのなら、どうか私はそれを望んでいないということをご理解いただきたいと思うのです。」
「うーん…まあ君がそういうならまあこいつらを許してやらないこともないけど…」
「…しかし私はよいのですが、父と兄のせいでドロンさままでもが命の危険にさらされてしまいました。ドロンさまが父と兄のことは許せないというのなら、私には何も言う資格はございません。父と兄を愛しているのは確かですが、私はまたドロンさまにも恩義があるのです。そこをないがしろにすることは、墓に忠誠を誓ったものとして、できません。」
「…だ、そうですが、ドロンさん。どうなんです、あなたはどう考えているんですか?」
と、クララがドロンに尋ねた。
ドロンは軽く笑みを浮かべて答えた。
「俺は初めからこんな奴らのことなんか気にしちゃいないよ。殺すまでもないことさ。」
そしてさらにドロンはカンの方を振り返って言った。
「…ただしカンよ。もうトンと一緒には暮らすな。こやつは狡猾で、いつ何時またお前のことを裏切るかわからないからな。…どうしても父と共に暮らしたいというのならお前も墓を去れ。」
ドロンは毅然とした態度でそう言った。
カンはしばらくうつむき、何かを考えているようだった。
しかしやがて決意の気持ちを込めた目でドロンの顔を見て、そして言った。
「私は…」
「ふん、こんなところはこりごりだ。出来の悪い子供たちにもうんざりした。俺は一人で気ままにくらす。誰の力も借りるつもりはないさ。」
カンの言いかけた言葉を遮り、トンは立ち上がってそう言った。
ふらふらで足元は覚束なかった。
カンが思わず立ち上がってトンの体を支えようとしたが、トンはそれも拒否した。
「父さん…」
「もう父じゃない。お前は勝手にやればいいさ。お前は最後の最後まで俺の思うような育ち方をしなかったぜ。じゃあな、もう会うこともないだろうよ…」
そう言ってトンはどこかへ姿を消してしまった。
カンはトンの姿が見えなくなるまで頭を下げ続けていた。
「なんだいあの言い草は。これが長年面倒を見てきてくれた子供にかける言葉かね。」
赤蛙はまた怒りがこみあげてきたようだったが、クララになだめられて落ち着きを取り戻した。
そして今度はテンの方を向いて言った。
「こいつはどうするんだ!?」
今まで聞いたこともないような大声にすっかり縮み上がってしまったテンに、ドロンが言った。
「テン。お前は城に戻ってジジに伝えるんだ。こんな小細工はやめて、ちゃんと言いたいことがあるなら話しをしろとな。俺は話ならなんでも聞くつもりだし、要望があるならできるかぎり答える、とな。」
テンは立ち上がり、ドロンをにらみつけてから、配下のトカゲたちを引き連れてどこかへ行ってしまった。
やはりまだ赤蛙の怒りはしずまらないようで、毒づきは終わらなかった。
「ああいう奴らは許してやるんじゃなくて殺してしまうのが一番いいと思うんだけれどね。…生きているかぎりああいう奴らってのはこんなことを繰り返すものなんだからね。」
「まあまあもういいじゃないか。とりあえず終わったことなんだから…」
クララじゃない方のトカゲが赤蛙の体をぽんぽんと叩きながらなだめた。
ドロンはトカゲ王の像をしきりになでながら、そのトカゲの姿を真剣なまなざしで見つめていた。
それからドロンはクララの方を向いて話しかけた。
「俺たちのゴタゴタはこれで片がついた。…今度はお前たちの話を聞かせてもらおうか。…聞きたい話が山ほどあるんだ。」
ドロンはそう言いながら、ぎゅっとトカゲ王の像を握り締めた。




