盗み聞き
トンが捕まえたトカゲから衝撃の計画を聞かされたカンはその真偽を確かめるために墓へと急ぐ…
カンは墓までやってきた。
そして、墓の上の方の階の、かなり広いある部屋にこっそりと入っていった。
そこがズナの居住する部屋だったのだ。
カンは部屋を見渡し、適当な中身が空の壷を見つけたのでそこに潜むことにした。
壷に体を入れ、蓋をしめる。
しばらく時間がたつと、部屋へと誰かが入ってくる音が聞こえた。
カンは蓋をほんのちょっとだけずらし、部屋の様子を伺った。
入ってきたトカゲはズナであった。
ズナは部屋に入ってくるなり水瓶から柄杓で水をすくって飲み、一息ついてから椅子に座り、机にひじをついた。
椅子も机も木製で、ぴかぴかに磨き上げられていた。
墓の中で暮らす一流の職人が作った特注品なのだろう。
さすがに門番ともなれば部屋の調度も、その生活も一般のトカゲとは比べ物にならないほど豪華になるのだな、と改めてカンは思った。
ズナはしばらくそのまま何をするでもなくただぼーっと座って目の前の壁を眺め続けていた。
何か不穏なことが起きる気配は何もなかった。
何もないならそれでいいのだ。
あるいはトンが捕まえたトカゲが、口から出まかせを言っていただけかもしれない。
ズナが裏切り者ではないのならここにこうして隠れている必要もない。
よし、ズナが部屋を出ていったらこっそり自分も部屋を出ようとカンが考え始めた時、不意にズナが立ち上がり、こっちを向いて「そこにいるのは誰だ!」と、叫んだ。
一瞬カンは驚いたが、すぐに平静を取り戻した。
自分は決して気付かれるようなヘマは犯していない。
気付かれたのは自分ではないと思いなおし、ただじっと息を潜めていた。
やがて物音が聞こえてきて、ズナの目の前に1匹のトカゲが現れた。
それはひどく冷たい目をしたトカゲで、雰囲気がトンが捕まえたトカゲと良く似ていた。
目の前にしたトカゲの異様な雰囲気にも関わらず、ズナはむしろ緊張を解いたようであった。
まるでそれが顔見知りであるかのように。
まずズナが口を開く。
「…あんたか。随分久しぶりだな。私はてっきり、城のトカゲ達は私のことを見捨ててしまったのかと思っていたよ。城の方でも結構ごたごたが続いていたみたいだしな…」
「いえいえ、そんなことはございません。ジジさまは今まで墓の情報を城へ流し続けてきてくれたズナさまの多大な貢献を忘れたことはございません。いつか城の中へ戻ってきた暁には、ズナさまの望むどんな地位でも授けるとジジさまはおっしゃっておられます。」
「それは本当なのだろうな…。ふん、まあいい。ところで何をしにきた?今はお前に与えられる情報は特に持っていないぞ。」
「いえいえ、今回は情報を頂きに参ったのではございません。指令を届けに参ったのでございます。」
「指令だと?…まさか…。」
「はい、いよいよ反乱を起こしてドロンを殺害し、墓を制圧する準備が整ったのでございます。つきましてはズナさまにその反乱軍の総指揮官となっていただきたいのでございます。」
それを聞いて、さすがに壷の中のカンは身を強張らせた。
しかしさすがに心得ていて、物音1つ立てない。
「そうか。ついにか…。しかしよいのか?反乱して、制圧できるほど多くの内通者が墓にいるとは思えないのだが…」
「ズナさまとは別に我々も独自に工作をしてまいりました。その甲斐もあって、門番のトカゲ達はアタリ以外は全て我々の味方となっていてございます。それらの勢力と、ズナさまが今まで地道に築き上げてきた寝返りの勢力をあわせれば、十分に墓を制圧してドロンを殺すことは可能でございます。」
「なんと…しかし…」
ここでズナと話しているトカゲは大きく声を張り上げた。
「もちろんおわかりのこととは思いますが、決起の時が来るまでは決して他の門番たちとこのことについてはお話になりませんように。どこに誰の目があるかわかりません。下手に誰かと話をした結果反乱のことについて未然に察知され、計画が失敗したとなったらこれまで頑張ってきた我々諜報部隊も報われませぬ…」
「う、うむ。それもそうだな…」
「いざという時にはまずズナさまが率先して兵を率い、反乱を起こしてください。他の内通者の方々には、ズナさまが墓に攻撃をしかけるのを合図に蜂起をするよう申し合わせております。是非思い切りやってください。ズナさまが躊躇なされたりすると土壇場で反乱を取りやめるトカゲも大勢出てくるかもしれません。この作戦の鍵はズナさまなのです。全て、ズナさまにかかっているのでございます…」
向かい合ったトカゲの話を聞くにつれ、ズナはその気になってきたようであった。
ズナは拳を固くにぎり、鼻息を荒くして言った。
「ようし。わかった。私はやってやるぞ。今まで墓でじっと我慢してやってきたんだ。私の力を見せ付ける時がやってきたんだ!」
その後相手のトカゲはズナといくつか話をしてから部屋を出ていった。
ズナは、部屋に1匹になってからも興奮は冷めないようで、椅子から立ち上がったり、座ったりを繰り返してから、猛然とした様子で部屋を出て行った。
脱出する機会だと思ったカンは一瞬で壷から抜け出し、部屋を出て走っていった。
「ズナの裏切りは本当だった…このままではドロンさまが殺される!」
カンは額からだらだらと流れる汗をぬぐうことも忘れて、ひたすらに走り続けた。
カンは墓を出て、一直線にカンとトンが暮らす家へと向かった。
中にはトンがいて、座って天井を見ていた。
「おお…カンか。」
全速力で走ってきて相当疲れているのにも関わらず、カンはすぐに話し始めた。
「お父さん。お父さんの言うとおりでした。僕はこの目で見ました。ズナが敵のスパイらしきトカゲと反乱を起こす話し合いをしているところを。その話によれば、確かに墓はもう駄目なようです。門番は皆アタリさま以外は城に寝返っているとのことです。このままでは反乱が起きて、ドロンさまが殺されてしまいます。一体どうすればいいのでしょう?」
カンの声は震え、明らかに動揺していた。
トンはカンの肩に手を置き震えを押さえ、諭すように言った。
「落ち着くんだカン。たとえ反乱が起きてもドロンさえいればまた墓を再興することは可能だ。そのためにもドロンだけは逃がさなくてはならない。そしてそれができるのはお前だけだ。いいかよく聞け、俺はいざという時に見つけておいた北の大地に出る抜け道を知っている。水の枯れた谷で、全体が木々に覆われていてその存在をしらない者には気づかれる心配はまったくない。お前はドロンを連れてそこを通り、なんとか北へ逃げるんだ。そして機会を見つけてまた必ず帰ってくるんだ。」
「は、はい。あの、お父さんはどうするのですか?」
「俺はそんな長旅はできない。ここでなるようになるのを待つさ…」
父は死ぬつもりなのだ、と思ったカンは思わず涙をこぼした。
カンはトンの体を抱きしめ、声にならない声で別れの言葉を告げた。
カンは涙を流し鼻水を流し、顔をぐちゃぐちゃにゆがめて頭に思いついた言葉を片っ端から話していたので、トンにはカンが何と言っているのか聞き取ることは全くできなかった。
しかしもちろんトンはわかっているような振りをしてうんうんと頷いていた。
トンは最後にカンに抜け道の場所を教え、最後に1つポンと肩を叩いてやると、もう行けとでも言うかのように背を向けた。
カンは何度も名残惜しそうに振り返りつつ、また墓に向かって走っていった…




