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初めに竜があった  作者: 最黒福三
トカゲの時代
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捕獲

テンは極秘にトンと接触し、何やら話を持ちかけたが…




 カンは仕事を終え、家へと戻ってきた。

 珍しく父のトンは立ち上がって窓から外を見ていた。


「お父さん。立ち上がっても大丈夫なのでございますか?」


「問題ないさ。俺だってまだまだ若いんだからな…」


 そういうとトンは床に腰を下ろした。

 カンも腰を下ろし、トンと向き合って座る。


「どうだったドロンとジジの面会は?お前はうまく仕事を果たすことができたのか?」


「はい。特に何の問題もなく面会は終了しました。かといって何か収穫があったわけでもなかったのですが…」


「そうか。しかし何も起きなかったのならお前の腕を皆に見せる機会もなかったということだな。せっかく出世のチャンスだったのに、残念だな。」


「いやそんな。平和が一番ですよ。それに、今回の護衛の仕事で僕はドロンさまに気に入られたようで、これからも護衛としてついているように言われました。僕の何をドロンさまが気に入ったのかはわかりませんが…。それにしても光栄なことです。」


「そうか。それなら素晴らしいことだ。他に何か、面会で変わったことはなかったか?」


「はい、それが…その。」


「なんだ?言いにくいことなのか?なんでもいいから話してくれよ。」


「はい、面会の時テン兄さんと会いました。」


「…。」


 テンという名前をカンが口にした時、トンは目をそらした。


「兄さんはジジさまの一番の側近として、傍らにぴったりとついていらっしゃいました。…話す機会もなかったのですが。」


「…ふん。なんといっても私を裏切ってのし上がっていったのだからな。それぐらいの地位にはついていてもらってないと困るわい。…テンのことなどどうでもいいわ。私にはお前がついているのだからな…」


 カンは嬉しいような困ったような、複雑な表情でトンのことを見た。

 トンは相変わらずカンから目をそらし、天井を見つめていた。

 その後しばらく2匹の間には沈黙が広がった。

 その空気に耐えかねて少し外に出てこようと立ち上がったカンを制し、トンが言った。


「ところで、お前に見せたいものがある。ついてこい。」



 それからトンは立ち上がり、家の外へ出て行った。

 トンがカンをどこかに連れていくなどということはこれまでになかったことだ。

 カンは不思議に思いながらも、言われるがままについていった。

 丘を降り、深い繁みの中にわけいっていく。

 そして草むらにまぎれてその入り口がわからなくなっている洞窟の前でトンは立ち止まった。

 ここはカンとトンだけがその存在を知っている洞窟で、彼らはここを倉庫として利用していたのだ。

 カンが口を開く。


「ここは倉庫ではございませんか?見せたいものとは一体…?」


「うむ。まあ見てくれればわかる。」


 そう言ってトンは中へと入っていった。

 カンも後について、曲がりくねった道をいく。

 ところどころに家を修理するための材料や食料が置いてある。

 やがて2匹は洞窟の一番奥へとたどり着いた。

 そこにあったものを見て、カンは小さな声を上げた。


「これは…」


 そこあったのは、いや、いたのは一匹のトカゲであった。

 見たことのないトカゲが、両手両足を蔓によってしばられ、洞窟の奥に横たえられていたのだ。


「一体どういうことなのですか?お父さん。」


 カンは縛られて横たわっているトカゲにちらりと目をやり、言った。

 そのトカゲは大分衰弱しているようで、カン達の方を見ることもせず、身動きもせず、ただじっとそこに横たわっていた。


「うむ…私が家で休んでいるといきなり扉を開け、このトカゲが侵入してきたのだ。食料をよこせと言ってな。私は従う振りをして、一瞬の隙をついてこやつの頭を殴り気絶させた。…私も衰えてはいるが、気を集中すればそれぐらいのことはできるのだ。私は蔓でこやつを縛り、身動きをとれなくしてからこの倉庫へと連れてきた。そしてこやつを拷問にかけ、何者なのかということを吐かせた。なかなか口を割りはしなかったが、拷問は私が城にいたころの得意技だった。少し本気を出したらさすがに口を割ったよ。そしてこいつは驚くべきことを口にしたんだ。こいつは城から墓へと極秘に送り込まれた諜報部隊で、墓にすでに送り込まれたスパイと情報交換をするために送り込まれたというのじゃ。」


「ふむ…。墓にスパイがいるとは僕も薄々とは感じてはいましたが…」


「いや、いるなんてものじゃない。特に上層部、すなわち門番のトカゲ達は軒並み城に寝返っているとのことじゃ。…門番の一員にズナというトカゲがいるな?」


「はい。ずっと昔は城にいたという…」


「特に奴が中心となって工作活動を続けていたとのことだ。…もう合図があればいつでも一気に反乱を起こし、ドロンさまを殺すことができる。そういう状況に墓はあるとのことだ。なんということだ…」


「そんな馬鹿な。にわかには信じられないことですが…」


「もちろんこいつが適当にでたらめなことを言っているという可能性もある。そこで私はさらにこいつを拷問し、ある情報を入手した。すなわち今日、そのズナにこいつの仲間の城の諜報部隊が接触して話をするとのことだ。カンよ、お前はズナの元に行き、ズナが本当に裏切り者かどうか確認してくるのだ。ズナは元は墓のトカゲだったとはいえ門番の中でも1、2位を争うほどの古株。奴が城に寝返っているのなら、門番の奴らはほとんど敵と考えてもよいだろう。」


「確かに…確認した方がいいですね。そうと決まったら早速出かけてきます。」


 カンは振り返り、走り出しかけた。

 その背中にトンは声をかける。


「あるいは巧妙に仕組まれた罠かもしれん。危ないと思ったらすぐに逃げろよ。今の私にはお前の命以上に大事なものはないのだからな。」


 カンはトンのその優しい言葉をかみ締め、深く礼をしてから全速力で走り去っていった。

 

 トンはカンが洞窟を出て、草むらをぬけて墓の方に向かって走っていくのを確認してから、また洞窟の奥へ戻っていった。

 そしてそこに横たわっているトカゲの手足を縛っていた蔓を外した。

 そのトカゲはすっと立ち上がり、硬直した体をほぐすようにある程度体を動かした。

 するとたちまちさっきまでの衰弱した様子は消えうせてしまった。

 それからそのトカゲはトンの方を見て、小さいがしっかりとした声でこう言った。


「では、今後も手はずどおりに…」


 トンは多少緊張した面持ちでゆっくりと頷いた。

 しかし顔を下げ、上げた時にはもうそのトカゲの姿は消えていた。



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