面会
ドロンとカンは面会場所へ移動する途中、色々な話をした。そしてついに面会場所である建物がある山にたどり着いた。
ドロンとカンは緩やかな坂を特に苦もなく登っていき、やがて頂上までたどり着いた。
目の前には2階建てのこぢんまりとしてはいるがなかなか凝った装飾の施された建物が建っている。
ここでジジとの面会がなされるのであった。
ドロンとジジは、頂上についた瞬間、そこに多くのトカゲの気配があったことにすぐ気付いた。
敵だけではなく、味方もかなりいる。
まあ仕方あるまい。
「護衛はいらない」という言葉を素直にきくような奴らではないのだ。
しかし大丈夫。
何も問題が起きなければ、兵も動くことはないのだ、とドロンは思った。
ドロンは先に堂の中に入っていることにした。
階段を上がり、2階の部屋へ。
部屋の真ん中に机が置かれ、それをはさむようにして長いすが2脚置かれていた。
ドロンはその椅子に腰掛け、カンは椅子のそばに立って控えた。
そこに立つと、カンは窓から外の様子を眺めることができた。
やがて、屈強なトカゲの戦士の一団が頂上へと至る坂を登ってくるのがカンには見えた。
トカゲは100匹くらいはいるだろうか。
中心の一際屈強なトカゲ達は何か箱のようなものを担いでいた。
頂上までやってくるとトカゲ達はその箱を、振動を与えないようにゆっくりと降ろした。
するとその箱の扉がゆっくりと開かれ、中からジジが姿を現した。
何匹かのトカゲがジジの周りを護衛するように取り囲んだ。
その取り囲んだトカゲの内の一匹、とりわけジジによりそうようにしているトカゲの顔を見て、カンは驚いた。
それはカンの兄のテンであった。
しかしすぐにカンは動揺を飲み込んだ。
テンはジジの寵愛を受けている。
側近として面会についてきたとしても不思議ではないのだ。
どうやらテンを含む何匹かの精鋭がジジを護衛しつつ堂の中へと入ってくるようだった。
カンは改めて気を引き締めた。
他のトカゲは頂上のあちこちに立って有事に備えているようだった。
何かが起きたとして、カンは味方のトカゲだけで本当にドロンを守りきることができるだろうか、そんなことをカンは少しだけ考えた。
やがて、2階へジジ達が上がってきた。
テンに体を支えられながらジジはドロンの向かいの椅子に腰を降ろした。
そしてそのままそれが当然とでもいうかのようにテンがその横に腰を降ろす。
他のトカゲ達はジジを守るようにそれぞれの配置につく。
皆カンよりも体格が大きく、力も強そうであった。
カンは緊張で自分の顔がこわばっていくのを感じた。
しばらくの沈黙の後、ジジが口を開いた。
「ドロンさんお久しぶりです。本当はもっと早くに顔をみせたかったのですが、なんせ城の方でゴタゴタが続いていたものですから。」
と言って、ジジは頭を下げた。
「いや、いいんだ。元気な顔を見せてくれればそれでいいんだ。」
ドロンはジジに頭をあげるよう促した。
それに従い、ゆっくりゆっくりと、ジジは頭をあげていく。
そしてドロンの目を見た。
「ドロンさんには迷惑をかけて申し訳ないと思っています。城から逃げ出したトカゲが大分墓へと逃げ込んでいるという話しを聞いています。急激にトカゲの数が増えてさぞお困りでしょう…」
「そんなことはないさ。それなりにうまくやっているよ。」
「そうですか。…なんなら墓で収容しきれないトカゲを城の方で引き取ってもいいとわしは考えておったのですが。いかがですかな?」
「大丈夫さ…。俺はトカゲ王を慕ってやってきたトカゲ達を見捨てたりはしないよ。」
トカゲ王、という言葉を聞いてジジは少し表情を変えた。
「ほっほっほ。今でもドロンさんは毎日「大トカゲ」に対するお祈りを欠かしていないと聞いています。ご苦労なことです。…わしはどうも祈るということが苦手なんですなあ。そういうふわふわとした、よくわからないことをするよりは私は楽しく遊んだり、物を食べたりといったことをしたいと思っているのですな。」
「別に祈りたくない奴は祈る必要はないさ。どうせトカゲ王の復活は近いんだ。王が復活すればもう墓も城もなくなる。全てが劇的に変わるんだ。そうなれば俺もジジも、荒野でみじめに暮らしている哀れなトカゲも、みんな同じになるのさ。」
「まあトカゲ王が「いつか」復活してトカゲの世界は何もかもが変わるというのはドロンさんが昔から言っていることですな。しかし復活が近い、とはどういうことですかな?今まではドロンさんはそういうことをおっしゃらなかったように思うのじゃが。」
「俺にはわかるのさ。ただそれだけだ。」
「ふむ…」
というとジジは椅子によりかかり、目を閉じた。
そしてしばらくそのまま、何かを深く考え込んでいた。
「実は、今回久々に面会を申し込んだ理由のひとつがそれなんですな。最近ドロンさんがしきりに「復活が近い」ということ言っているという情報は、すでに手にしていたのです。どこからその情報を手に入れたか?ということはまあこの際いいではないですか…。やはりわしらも墓の内情についても色々と知っておきたいのですよ。決してやましい気持ちからではございません…。で、それでですな、わしも考えたのですな。ドロンさんはでたらめにそういう思わせぶりなことを言うような方ではない。これはきっと何かあてがあるのだ、と。空からあの光る玉が降り注ぎ、大地を変えてしまった時と同じような異変が、近々また起きるという情報を何かドロンさんは察知したのではないか?わしはそう考えたのです。」
ドロンは黙ったまま、ただジジの目を見つめている。
「きっと聡明なドロンさんのことだから、その異変がいつ起きてもいいように準備をしていいらっしゃるのでしょう。いやいやきっとそうに違いありません。わしにはわかるのです。なんせかつては一緒になって強力な敵と戦った仲間ですからな、わしらは。だからわかるのです…。まあ、ドロンさんは異変に対する準備をすでにすませたからいいでしょう。しかしわしの方はそうではありません。はっきりいってわしに反感を抱いているトカゲというのは多いです。今だってこうして城を空けているのは不安なのです。こうしている間にも誰かが反乱を起こすのではないかと、気が気ではないのです。何も起きていない状態でもそうなのですから、ちょっと何か異変が起きれば、きっとわしに反感を抱いているトカゲたちはきっと何か行動を起こすに違いありません。もちろんわしだって色々と作戦はたててありますが、それにしたって、どんな異変が起きるのかわからないんじゃ対策を立てるのにも限界があります。もう最近ではそれが怖くて夜も十分に眠ることができないくらいなのです。…そこでドロンさんに、是非教えてもらいたいのです。どんな異変が起きるのかということを、「トカゲ王が復活する」という思わせぶりな言葉は、一体何を指し示しているのかということを…」
「別に何かを指し示しているわけじゃないよ。ただトカゲ王が復活するということがなんとなくわかる。それだけのことさ。根拠なんてなにもないし、それで何かをほのめかしているわけでもないのさ。」
と、ドロンは軽く微笑みを浮かべながら言った。
ジジには、それが自分を嘲笑しているように見えた。
ジジは内心腹を立てた。
「どうしても教えてはくださらんのですな。…まあいいでしょう。言いたくないということを無理に言わせるということは出来ませんからな。」
そういうと、ジジは自分の話しは終わったとでも言わんばかりに、テンの方を向いた。
するとテンが身を乗り出し、ドロンにいくつかの質問をした。
細々とした様々なことについてテンが質問してくるが、ドロンはその全てにすらすらと答えた。
カンはその光景を見て、改めてドロンの聡明さを思い知った。
毎日祈っているばかりのように見えても、考えるべきことについては考えているのだ。
やがて話しは終わり、ドロンとジジは最後に挨拶をした。
先にジジがたちあがり、護衛とテンを連れて階段を降り、堂を出ていった。
テンは結局一度もカンの方に視線をむけることはなかった。
しかし、そのことが逆にテンがカンのことを意識しているということを示しているように思えた。




