劇的な変化
竜がその残った力を費やして世界中に撒いた小さな卵は、世界の景色を一変させた。
クララとトカゲとアカはしばらく竜の楽園の周りをうろうろとしていたが、やがて当初の予定通りトカゲの集落目指して旅を始めた。
しかしなかなか一行の旅ははかどらなかった。
世界中に生えた棒のおかげであたりの景色は一変していて、寄り道してみたい場所がいっぱいあったからだ。
それに今まで長く孤独な旅を続けてきた3匹にとっては、仲間がいる、ということだけで旅は楽しかった。
だからただでさえ長い時間がかかる旅路を、その何倍もの時間をかけて行ったのである。
その長い時間の間に、トカゲの集落は以前とは比べようもないほどに変化していた。
世界中に生えた棒を一番上手に使ったのは、やはり絶対的に数の多かったトカゲ達であった。
トカゲ達はまず棒に名前をつけた。
初めの内は名前も様々だったけれど、段々と決められた言い方に統一されていった。
あまり名前がたくさんあると混乱してしまうからだろう。
あちこちに生えていた棒の内、細く背丈の短いものは草、太く背丈の高いものは木と呼ばれるようになった。
誰が言い出したのかはわからない。
なぜその呼び方が広まったのかもわからない。
ただなんとなく語感がよかったとか、その程度の理由だろう。
棒の先端に生えていた翼は葉と呼ばれるようになった。
また、時々草木はその先端に何やら色鮮やかな葉の組み合わさったものを咲かせた。
そこから小さな卵が生まれ、地面に落ちてまた草木が生えるのだが、トカゲ達はこの色鮮やかな部分を花と呼んだ。
花は様々な色をしていた。
血の色をしたもの、空の色をしたもの、自分たちの体と同じ色をしたもの、また、それらを組み合わせた色をしたもの…トカゲ達は色というものにも興味を持つようになった。
草木を食べることができるということにも、トカゲ達はかなり早い段階から気付いていた。
別に誰が言い出したというわけでもない。
あるいは、鰐や大トカゲがばくばくトカゲ達を食べ、どんどん強大になっていったことが強烈な記憶として焼きついていたせいかもしれない。
とにかくトカゲは草をむしゃむしゃ食べていった。
草木の内、太くて固い木は食べにくかったので、専ら食べるのは柔らかい草だったのだ。
どんどん食べていってもどんどん草は増えていくので全く減ることはなかった。
草をいっぱい食べれば、体力がつくので交尾をして卵を産んでもトカゲ達は死ぬことがなくなった。
そうはいっても卵を産むことが重労働であることに変わりはなかったので何個も生めば衰弱して死んでいった。それでも1度交尾をして卵を1個生めばつがいのトカゲが2匹とも死んでいた前の時代に比べて、どんどんトカゲの数が増えていったのはいうまでもない。
増えていったトカゲ達は今まで誰も住んでいなかった土地に進出し、瞬く間にかつて始祖のトカゲたちが住んでいた北の果ての集落までがトカゲでいっぱいになった。
あまりトカゲが増えると寝床をめぐって争いが起きそうなものだけれど、初めの内はそういうことは起きなかった。
なぜならトカゲ達は木を使って自ら家を作るようになったからである。
木は食べることはできなかったが様々な用途に使うことができた。
特に家を作るための材料として木はふんだんに使われた。
あちこちに木材でできた家が建てられた。
寝床を確保することができなかったトカゲ達は争って家を作ってそこに住んだ。
材料は余るほどある上に、うまく作ればそこは洞窟や穴ぐらなどよりも居心地がよかったのだ。
間もなくかなりいい洞窟に住んでいたトカゲ達までもが家を作って暮らすようになっていった…
そういうわけでトカゲ達が暮らす領域にはあちこちに木の建物が作られるようになったのだが、そういった建物の内、群を抜いて巨大かつ豪勢な作りの建物が二つあった。
ジジの暮らす城と、ドロンの暮らすトカゲ王の墓であった。
ジジはあちこちに生えた木々の内、特に硬い性質を持つ木でもって、かつて暮らしていた地下空洞の上に巨大な城を作らせた。
そしてジジはその最上階で暮らすようになった。
ジジは能力のあり、かつ彼が気に入ったトカゲをより高い階に住まわせた。
そして下の階に暮らすトカゲを働かせ、城の増築などをどんどんしていった。
よく働くトカゲは上の階にあがることができたが、そうでないトカゲはどんどん下の階に落とされていった。
とはいっても怠け者でもうまくジジにおべっかを言えるトカゲは上の階にいけた。
これは、働き者でもジジが気にくわないと思ったら下の階に落とされてしまうことも意味する。
しばらくするとジジは下の階に暮らすトカゲとは会うことすらしなくなった。
あまりにもトカゲの数が増えすぎたせいで、いちいち会っていることができなくなったということもある。
ジジもかなり老いていたから、自分の気持ちのいいことばかり言ってくれるトカゲにだけ会いたいと思うようになっていたということもある。
とにかく段々とトカゲ同士の間に明確な序列というものができ初めてきたのである。
やがて城の上階にいる者は下階にいるものを、下階にいる者は城の外で暮らす者を見下すようになっていってしまったのである。
無論こういう状況に耐えることができなくなり、城を離れるトカゲも多くいた。
しかしジジはそんなことは気にしない。
何しろ減る以上にトカゲの数はどんどん増えていくのだから…
ジジは城の最上階、自分の部屋の窓から遠くを見た。
ずっと向こうの方にジジの城に勝るとも劣らないほど巨大な建物が見えた。
ジジはそれを苦々しい顔で眺めながらこう言った。
「目障りな建物だ…あれさえなければわしの城がこのあたり、いや、きっと世界で一番高い建物のはずなのに…」
ジジが見ていたその高い建物こそがドロンの暮らすトカゲ王の墓であった。
そこは、ジジの下から離れたトカゲ達が逃げ込んでいく場所でもあった。




