飛翔
竜は自らを外に連れていってくれと3匹に懇願する。
赤蛙は竜に言った。
「あんたを外に連れてけっていうのか?外に出ていって何をするというんだ?」
竜は目を閉じ、へたりこみ、こう言った。
「説明するのが面倒だ。…とにかく外に連れていってくれ。そうしたらわかる。体力のいることだから、少しでも力を温存しておきたいんだ。頼む。」
頼む態度としてはどう考えても横柄だった。
しかし竜の言葉にはどこか有無を言わさない響きがこめられていた。
赤蛙とクララと名も無きトカゲは3匹ともしばし顔を見交わしていたが、やがてクララが口を開いた。
「まあ…この竜ってのも老いぼれきって、いつ死ぬかわかりやしない状態じゃないか。そんな奴のたっての願いなんだから聞いてやってもいいんじゃないかな…?」
トカゲがそれに同調した。
「この竜は俺がずっと住んでいた場所の主なんだ。まあ、それぐらいしてやってもいいと俺は思ってるぜ。」
それから名も無きトカゲとクララが赤蛙の方を向いた。
「僕はこの竜の言っていることを完全には信じていないんだけどね…君たちが竜を手助けしたいっていうならまあ手伝うさ。」
そう言って、竜に近づいていった。
竜はただ目を瞑ってじっとしている。
自分のために誰かが働くのは至極当然であるかのように。
赤蛙は全く自分からは動こうとしない竜をどうにかこうにか背中におぶった。
そして後ろから竜の巨体をクララとトカゲが支える。
それでどうにかこうにか竜を移動させること体勢が整った。
見かけほどは重くないんだな、と3匹は感じていた。
中が空洞になった岩を持ち上げているような気持ちだ。
それでも地上に出るまで、何度も休憩をしなければならないぐらいの重さではあったのだが。
竜は運ばれている間も口を一切開くことなく、ただ小さく呼吸を繰り返すばかりであった。
やがて、無数にある地下通路の出口の内、一番近くにあった場所からどうにか竜を出すことに成功した。
アカはもうへとへとで、外に出るなり地面に寝転んでしまった。
「くはっ。疲れた!もう一歩も動けないね。」
クララもトカゲも疲れ果てていた。
しかしその中で竜だけが平然と目を閉じ、大地の上に体を横たえていた。
クララは竜の鼻先をぽんぽんと叩いて言った。
「ほら、ご待望の地上だよ。照り付ける太陽も青空も見える。これで満足かい?」
「ああ…」とだけ竜は言って、また黙り込んでしまった。
それからも竜はしばらくその場に横たわるだけだったので、思わせぶりなことを言って、本当はただ外で日向ぼっこがしたかっただけだったのじゃないかと思い始めた。
これで「俺はもう満足した。さあ、また地下へ俺を運んでくれ…」とか言い出したらぼこぼこに殴りつけてやろうと3匹は考えていた。
しかし間もなく竜は目を見開き、首を上げ、体を起こした。
それまでにないくらい機敏な動きだったので3匹とも思わず後ずさりをしてしまった。
竜は小刻みに体を震わせたかと思うと、徐々に背中に張り付いていたしわくちゃの皮のようなものが大きく張り出していった。
それはあちこち破れ、崩れていたけれども、完全に伸びきると信じられないほどの大きさになった。
竜は太陽を背にしていたので、その皮に光はさえぎられてあたりが薄暗くなってしまうほどであった。
思わずクララが声を漏らした。
「これは一体…何なんだ?」
それに答えて竜が言った。
「翼さ。」
「何のためについているんだ?」
「見ていればわかるさ…」
そう言うと、竜はその翼をばさばさと動かしはじめた。
すごい風が巻き起こった。
クララとトカゲなど、アカにしがみついていないとはるか遠くまで飛ばされそうになってしまいそうなほど強い風であった。
3匹ともとても目を開けていることができなかった。
しかし細目でもう一度竜の方を見るととんでもない光景が広がっていた。
竜の体が宙に浮いていたのだ。
竜が翼を上から下に動かすたびに竜の体は少しずつ上空へと浮き上がっていった。
初めて見る光景に、とても目なんて閉じていることなんてできなかった。
みるみる内に竜ははるか空高く、太陽の近くまで飛び上がっていった。
大空に行ってしまうと、あれだけ巨大だった竜の姿もほんの点のような大きさになってしまうのだな、と3匹は口をあんぐりとあけながら考えていた。
竜はしばらく楽園のあたりの空を旋回していた。
しかしやがて竜ははるか空の彼方へと飛び去っていってしまった。
3匹がたった今見た光景をどうにかこうにか理解するのに十分な時間がすぎる前に、次の異変は早くも起こった。
小さな小さな光の玉が無数に降り注いできたのである。
初めは微かだったが、すぐにあたりはその光の玉で満ちた。
本当に小さい、指先でつまむことができる程度の大きさであった。
手のひらを掲げると、その上にその光の玉はいくつも落ちてきた。
手のひらの上に落ちてしばらくするとその玉は光を失い、ただの白い小さな玉となった。
光の玉は、荒野にも、丘にも、谷にも、川にもどこにも分け隔てなく降り注いだ。
「これは、どう考えても雨じゃないな。状況から考えるとこれは竜の仕業のように思えるが…」
と、クララが手のひらの上の玉をまじまじと見つめながら言った。
それに対してアカがこう言う。
「仮にそうだとして、この玉は一体なんなんだ?竜は一体何をしているんだ?というかあんな風に空を飛んで…あんな体力が残ってたなんて!ああ、不思議なことだらけだ。」
トカゲは他の2匹から少し離れて、ひたすら地面に落ちていく光の玉を見ていた。 そして、何かに気付いたように「これは…」と呟いた。
その呟きを聞きつけてトカゲの下へと他の2匹が駆け寄っていった。




