地下の部屋
化物は赤蛙という名前だった。クララと名も無きトカゲは赤蛙と話した結果意気投合する。
赤蛙が言った。
「まあ、とはいっても僕は今はちょっと疲れてるからね。少しぐらい休んでいってもいいよね?急ぐことじゃないんだろ?」
と、アカは図々しく言った。
確かに急ぐ必要なんて全くなかったのでクララもトカゲももう少しこの楽園に滞在することを受け入れた。
「いやあ、悪いね。お礼に何でも頼みを聞いてあげるよ。僕は君たちよりもずっと力が強いからね。きっと君たちじゃできないこともたくさんできるはずだよ。」
そのアカの言葉を聞いてクララはひらめいた。
クララはトカゲに向かって話しかける。
「なあ、あの地下通路に、瓦礫でふさがれていた道があったじゃないか。あそこの瓦礫さ、このアカの力を借りれば取り除くことができるんじゃないか?」
「ああ、確かに…。そうだな。でもお前よくあんなふさがれた道のことなんて覚えていたな。」
「いや、何か知らないけれど、ずっと気になっていたんだ。」
「なんか知らないけれど、道をふさいでいる瓦礫を取り除けばいいんだね?いいよいいよ。そんなのお安い御用だよ。ああ、でももちろん今すぐは駄目だよ。今の僕は疲れてるからね。とりあえず屋上の泉にいこう、そこで疲れを癒して、話は全てそれからさ…」
そう言うと、赤蛙は建物へ向かって肩をとんとんと叩きながら歩いていった。
赤蛙はとても明るい性格だった。
常にどうすれば楽しく遊ぶことができるかということを考えていて、そして考えたことはすぐにクララやトカゲに話した。
初めは戸惑っていたクララとトカゲも、すぐに赤蛙のペースに巻き込まれていった。
3匹で新しい遊びを編み出してはそれを楽しみ、あちこち探検した。
そんなことをしている内に3匹は大の仲良しになった。
しかしあまりここに長居しているわけにもいかない。
アカの体力ももう十分に回復していた。
そこでクララは他の2匹にこう提案した。
「なあ、俺たちはもう随分長くここに滞在してしまった。そろそろ出発してもいいころなんじゃないか?」
アカが答える。
「ああ、それはそうだね。ここは楽園と言われるだけあって居心地がいいからね。つい僕たちは出発する予定になってたんだってことを忘れてしまっていたよ。…ここでできるような遊びはもうしつくしちゃったしね。そろそろ旅に出発しようか。」
「まあ待ってくれ。約束したじゃないか、出発する前に例の地下通路をふさいでいた瓦礫をどかすのを手伝ってくれるって。」
名も無きトカゲがクララにこう言う。
「クララは本当にあのふさがれた道が気になってるんだな。俺は言われるまであんな道があったということすら忘れていたぜ。」
「なぜだかわからないけどな、頭からこびりついて離れないんだ。あの道が。」
アカは首をぽきぽき鳴らしながらこう言う。
「まあ、やるって約束したからね。ちゃっちゃと終わらせてしまおう。」
3匹は地下通路の例の瓦礫にふさがれた場所までやってきた。
巨大な瓦礫がぎっしりと道を埋めている光景を見てアカは声をあげた。
「はー。これはなかなかだね。1つ1つの岩がでかくて重そうだし、これは意外に時間かかっちゃうかもね…」
「できそうか?」
と、クララが聞いた。
「いやあ、僕の怪力をなめちゃいけないよ。多少時間はかかるけれど、こんなのは楽勝さ。…でも君たちもちゃんと手伝ってよね。」
3匹は力を合わせて瓦礫の撤去作業を行った。
とはいっても役に立っているのはほとんどアカ1匹だった。
なにせクララとトカゲが2匹がかりで、しかもたっぷり時間をかけてようやく運び出せる瓦礫を、アカは両脇にかかえて小走りですいすい運び去ってしまうのだから。
クララとトカゲは改めてアカはすごい力を持っているのだなと感心した。
確かに時間はかかったが、それでもどんどん道は開かれていった。
しかし瓦礫を撤去しても撤去しても道の終わりは見えてこなかった。
この先は行き止まりで、何もそこにはないのかもしれない。
そんな考えが3匹の頭の中を何度もよぎった。
でもこの撤去にはもう随分長い時間をかけていたので、今更もうきりがないのでやめようとは3匹ともいえなくなっていた。
やがて、3匹とももはや何のために自分たちが瓦礫を撤去しているのかすらわからなくなってしまうほどに疲れ果ててしまったころ、1つの瓦礫を撤去したところ見慣れないものを見た。
「見て、ここだけ何か様子が違うよ。」
「こっちもだ。…どうやら道の終わりのようだが、何かがあるみたいだな。」
「もうひとふんばりして残りの瓦礫を運んでしまおう。」
最後の力を振り絞って瓦礫を綺麗さっぱり運びさると、目の前には巨大な扉が現れた。
それを見てトカゲが声をあげる。
「はあ、こいつはすごいな。こんなに大きな扉は上にもなかったぜ。」
クララは両手で扉を力いっぱい押し、そして呟いた。
「うーむ。びくともしない。しかしどうも鍵がかかっているというわけじゃなさそうだ。赤蛙の怪力で押せばなんとか大丈夫かもしれない。おい赤蛙?何をボーっとしているんだ?」
口を半開きにして扉を見つめていた赤蛙は我に返って言った。
「いや、なんだかわからないけれど、とても懐かしい場所のような気がしてね。」
「なんだ、来たことがあったのか。じゃあ教えてくれよ、ここは一体何の部屋なんだ?ここは明らかに他の場所とは違うぞ。」
「それが、思い出せないんだ。思い出そうとしても霧の中に手を突っ込んで何かを探すみたいではっきりしないんだ。」
「うーん、あいまいだな。」
「とにかくあけてみよう。そうすりゃ中に何があるのかはわかるんだから。」
トカゲの言葉に他の2匹も賛同し、3匹そろって扉にはりついて力をこめた。
ほんのすこしだけ扉は動いた。
3匹は少し休んでからまた扉を押し、少しだけ動かした。
それを何度か繰り返し、ようやく扉の向こうにいけるだけの空間は確保した。
「よし、行こう。」
トカゲとクララが先に行き、最後にアカが狭い隙間に体をこすらせながら入り込む。
扉の向こうは洞窟のようで、曲がりくねった道がひたすらに続いていた。
3匹がおそるおそるその道を進んでいくと、やがて少し広い空洞に出た。
そこに出て、思わずクララとトカゲはアカの背後に隠れてしまった。
空洞の真ん中にはアカよりもさらに大きな体を持った化物が横たわっていたからだ。
アカは唾をごくりと飲み込んでその化物の全身を見渡した。
巨大な体は鱗に覆われていたが、どれもぼろぼろで目もあてられなかった。
顔は皺だらけで、目は開いていなかった。
全体的にひどく衰えていて、呼吸するのも大変であったが、それでも化物は生きていた。
特徴的なのは背中から生えていた2枚のぼろぼろの皮のようなものであった。
そんなものが背中から生えている生き物を、アカは見たことがなかった。
やがて、その化物は目を開いた。
しかしそこには光は宿っていなかった。
アカは話しが通じるのかわからなかったが、それでもその化物に話しかけてみた。
「お、お前は一体何者だ?」
化物は苦しそうに口を開いて何かを喋ろうとした。
その口の中に牙は1本もなかった。
ぼそぼそとその化物は二言三言話したが、聞き取れたのは次の一言だけであった。
「俺は…竜。」
それは変わり果ててしまっていたものの、確かに竜で、背中に張り付いていたぼろぼろの皮に見えたそれはかつて大空を飛び回る際にはためかせた翼であった。




