誘い
クララは名も無き1匹のトカゲに捕らえられるが、事情を話して解放される。そしてそのトカゲに案内されて巨大な建造物の中を見て回ることになった。
クララと名も無きトカゲは巨大な建造物の門の前までやってきた。
クララは少し中に入ることを躊躇したがトカゲはどんどん先へと進んでいく。
だから仕方なくクララも後からついていった。
中は外見以上にすごかった。
あちこちから泉は湧いているし、洞窟が複雑に張り巡らされていてちょっと油断したら自分がどこにいるのかわからなくなってしまいそうだった。
かなり長い階段を登って屋上に出るとそこには広い泉があった。
「ここは本当にすごい場所だな。自然に出来たものとはとても思えない。なあ、あんたはここは誰が、何のために作った場所なのかということを本当に知らないのか?」
クララにそう尋ねられた名も無きトカゲはこう答えた。
「あるわけないさ。俺はずっと1人で旅をしてきたし…この場所にたどりついてからもずっと1人で暮らしているからな。何か知っているとしたらむしろ数多くのトカゲと共に暮らしているお前の方だと思うぜ?」
「そんな、未だかつてこんな北の果てまでトカゲ達がやってきたことはなかったんだ。これが一体何なのかということなんて俺が知るはずもないさ。」
「それならこの建物のことについては俺たちは何も知らないってことさ。それでいいじゃないか。重要なのは物事の成り立ちなんかじゃなくてそれが今の俺たちにとってどういう意味合いを持つか、だ。ここは少なくとも俺にとっては気持ちがよくて楽しい場所だ。あんたはどう思う?」
クララは頷いてから言った。
「素晴らしい場所だと俺も思うよ。」
「だったらさしあたって何の問題もない。さあ、今度はあそこの展望台に登ろう。本当にいい眺めなんだ。」
クララたちは展望台の中に作られた階段を登ってその一番上まで登った。
そこには豪勢な作りの椅子が一つだけ置かれていた。
トカゲはそこにどっかと座り込んでふう、と息を吐いた。
「ここにおあつらえ向きに椅子がある。ここに座るとあたりの景色を一望できるんだ。どうだ?実に素晴らしい場所だと思わないか?お前もここに座ってみろよ。」
そう言うとトカゲは立ち上がり、半ば強引にクララを椅子に座らせた。
確かにそこからは随分の遠くの方まで見渡すことができた。
クララはそこから世界を見ると、まるで見渡す限りの大地が全て自分のものになってしまったかのようだ、と思った。しかし…
「なあ、確かにここからの景色は素晴らしい。ここからの景色だけじゃない、ここの建物には何でもそろっている。しかし、どうも俺には足りないものがあるように思える。」
「なんだと?一体何が足りないと言うんだ?」
「仲間が足りないさ。どんなに素晴らしい場所でも、1人で遊んでいてはやはりいつか飽きが来てしまうだろう。あんた、ずっとここに1人でいて、実は少し寂しかったんじゃないのか?」
「…寂しいっていうのとはちょっと違うな。ただちょっと最近思い出すだけさ。卵から生まれてしばらくの間一緒にいたあいつのことを。」
「俺が言うところの大トカゲのことだな。」
「多分そうなんだろう。一緒にいる時は腹のたつこともたくさんあった。実際それで道も違えてしまったわけだからな。そして別れてからあの険しい道を通って、この場所までやってくるまでの間は色々と目新しいことばっかりだったからな、あいつのことは思い出しもしなかったんだ。でもあれから途方もないほどの時間がたって、色々なことが目新しくなくなってくると、あいつのことがやたら懐かしくなってくるんだよ。」
「そういうものなんだろうな。」
「ああ。でもお前の話が本当ならあいつは大トカゲになって、お前たちの集落を襲って死んでしまった。もう俺はあいつには会えない。なんていうか、それも悲しいとはちょっと違うんだな。ただ、ああそうなんだな、って思うだけさ。」
トカゲは遠くを見ながらそう言った。
2匹の間にはしばらく沈黙が流れた。
重々しい空気の中最初に口を開いたのはクララであった。
「なあ、あんた俺たちの集落にやってこないか?大トカゲの兄弟ともいえるあんただ。きっと歓迎されるぜ。なっといっても大トカゲは俺たちの集落ではトカゲを救った英雄としてあがめられているからな。大トカゲのことを知る手がかりを探しにこんなキタの果てまでやってきた俺としても、そうしてもらえると仕事をちゃんとこなしたことになって都合がいいんだがね。」
トカゲは少し悩んだ後でこう言った。
「それもいいのかもしれない。…実はこの建物の探検もあとちょっとで終わるんだ。でも俺はそれをずっと先延ばしにしてきたんだ。それを終えたら後何をすればいいのかわからなくなりそうだったからな。でも、あんたの暮らしていた集落に行くという目的ができたのなら、探検を終わらせてもいいのかもしれないな。」
「ああ、ここもいいが、きっとトカゲの集落の中で、大勢とともに暮らした方がきっと楽しいぜ。」
クララは自分が嘘をついているということがわかっていた。
自分はトカゲの集落の暮らしていて、楽しいなんてことは一度も思わなかった。
それにも関わらず目の前のトカゲに移住を勧めたのは、こんなに素晴らしい場所で、ずっと1匹で暮らしつづけてきていた目の前のトカゲに対する妬みの感情のせいだったのかもしれない。
しかし仮にそれが事実だったとしても、クララはそのことを認めたりはしないだろう。
それぐらいにクララはプライドの高いトカゲだったのだ。




