北へ
クララはドロンの命を受けて北の方角への旅に出発する。
クララは北の果て、かつて始祖のトカゲが暮らしていた集落があった場所までやってきた。
昔はこの辺りに一番多くトカゲが暮らしていたらしいが、今ではトカゲは1匹もいない。
こんなところまでやってくる物好きなトカゲはいないのだ。
自分だってドロンの命令でなければこんなところまでは来なかっただろう、とクララは思った。
クララは集落を抜けさらに先へと進んでいった。
しばらく歩くと崖が両脇から狭まっている細い道のところまで行き着いた。
ここから先に行ったことのあるトカゲはいない、恐らく大トカゲ以外は。
クララはくねくねと曲がりくねった道を進んでいった。
やがて視界が開ける。
目の前に広がるのは荒野だった。
物寂しいのは確かだけれど、こんな感じの地形ならどこにでもある。
特に呪われているとも思えない。
それはそうだ、この世界は全て地続きなのだから、そんな、ちょっと歩いただけで全く違う景色が広がるなどということがあるはずがないのだ。
そんなことを考えながらクララは荒野の中を進んでいった。
やがて、遠くの地面に何かが転がっているのが見えた。
走って近づき、それが何かということがわかる。
それは卵の殻だった。
それも2つ。
クララはこれはトカゲの卵に違いないと思った。
それはあまりにも自分たちトカゲが生む卵の形に似ていたのだ。
これがトカゲの卵の殻なのだとしたら、ここから生まれてきたのは誰か?
クララには1つの答えしか思いつくことができなかった。
大トカゲだ、そうに違いない。
ここで大トカゲは生まれて、そして長い距離を歩いてトカゲの集落までやってきたんだ。
しかし殻は2つある。
となればもう1匹生まれたトカゲがいるということだ。
そのトカゲは大トカゲと何か関係があるのだろうか…
とりあえずもうちょっと旅を続け、そのトカゲを探してみよう、とクララは思った。
会って話しをしてみれば何かがわかるかもしれない。
クララはさらに北の方角を目指して進んでいった。
随分長い距離を歩き、クララは巨大な山に行き当たった。
とても目の前の山は登れそうではなく、先に進むためには迂回する必要があった。
クララは悩んだ末に右の道に進んでみることにした。
右の道は険しかった。
山があり、谷もある。
地形が入り組んでいてとても前に進むことは無理なように思える場所に何度も行き当たった。
しかしクララは困難に行き当たる度に力と知恵と勇気を費やしてそれを乗り越えた。
危ない目にも何度か会ったが、そのことは決してクララの歩み止める理由とはなりえなかった。
クララはむしろ充実感を覚えていた。
全身全力を費やして道を進んでいる間は頭を空っぽにしていることができた。
この道は俺にふさわしい、この道は俺のためにあるような道だ。
この道は俺に乗り越えられるのを待っていたんだ…
クララは心地いい高揚の中で段々とそう考えるようになった。
そして、この道を進みきった先にはきっと何かがある、クララにはそう思えてならなかった。
やがて険しい道は終わった。
そして緩やかな起伏や、川が何重にも広がる平野に行き当たった。
もの足りなさを感じながらもクララはその道をひたすら北に向かって進んでいった。
長い長い時間クララはその道を進んだ。
そしてようやく平野の彼方に何か今までに見たこともないような巨大な建物が建っているのを見た。
それは、1つの山がそのまま建物に改造されてしまったようにも見える、それぐらい大規模な建造物であった。
近づけば近づくほどにクララはその大きさに圧倒された。
あまりにも高くそびえているので上の方はかすんでみえるほどだ。
これが何なのかはまったく見当もつかなかったが、ただこれがトカゲによって作られたものでないことははっきりしていた。
トカゲが何匹集まってもこれほどまでにすごいものを作ることはできない。
鰐か、あるいは何かべつの存在がこれを作ったのだろうか?
クララは決して鈍くはない頭で考えたが、それでも答えなど出るはずもなかった。
クララはその建造物の正面の門の前にたった。
門のあちこちに今まで見たことのない奇妙な生物の像が彫られている。
これは一体何なのだろう?と、気をとられていたから、クララは背後に誰かが近づいていることに気付くことが出来なかった。
クララは不意に頭に強い衝撃を感じ、気を失った…




