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初めに竜があった  作者: 最黒福三
竜の時代
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クララ

大トカゲは穴に埋められ死んでいった。ドロンは大トカゲの墓で墓守として生きていくことを決意する。ジジはドロンの代わりにトカゲ達のリーダーになることになった。






 その後、トカゲ達はジジをトカゲの長としてまた平和な暮らしをすることができるようになった。

 しかし大トカゲや鰐に殺されてトカゲの数は大分減っていたので、その規模は鰐たちが来襲してくるよりもはるかにその規模は小さいものになってしまっていた。

 もちろん卵を生めば生んだトカゲは死んでしまうという状況は変わらない。

 減ってしまったトカゲを増やす当てもないものの、それでも懸命にトカゲ達は生きていた。

 懸命とはいってもすることといえば遊ぶことくらいのものなのだが…




 トカゲ達は大体2つのグループに分かれていた。



1つはジジについて地下空洞で暮らすグループである。


 ジジは長年生きることによって得た知恵と経験で集団内の様々な問題を見事に解決していき、今やすっかり信頼されるトカゲ達のリーダーとなっていた。


 ジジは老いることは素晴らしいことなのだということをトカゲ達に説いてまわった。

 卵を生んで死ぬことを禁止まではしなかったものの、そういう話を聞くとジジはあからさまに嫌な顔をした。

 だから段々と地下空洞のグループのトカゲ達は卵を生まなくなっていってしまった。

 簡単にいえば、鰐来襲前のトカゲ達のように、彼らは段々と戻っていってしまったのである。



もう1つはドロンについて大トカゲの墓で暮らすグループである。


 大トカゲは死後トカゲ王の称号が与えられ、墓に祀られるようになった。

 ドロンは墓守としてそこで今も暮らしつづけている。

 大トカゲの墓は随時増築され、今では立派な宮殿のようになっている。

 自らを犠牲にして鰐と戦って死んでいった大トカゲに深く心酔するトカゲはドロンに従いこの墓に暮らすようになった。


 ドロンは別にトカゲたちがペアを作り、交尾して卵を産むことに反対しなかった。

 というかグループ内のトカゲ達に何か口出しするということがほとんどなかった。

 ただドロンは1日中部屋にこもって死んでいった大トカゲに感謝し、謝るということだけを繰り返していた。


 それでも何か意見を求められれば言った。

 頼まれれば問題の解決もした。

 だからそんなドロンの下に多くのトカゲ達が集まったのである。

 

 

 別に2つのグループが対立していたとかそういうことはない。

 時々ジジは墓参りにドロンの下を訪れ仲良く話しなどをしている。

 それに対立が起こるほどにトカゲの数も多くなかったのである。



 鰐を撃退したことによって変わったことは他にもある。

 トカゲ達は鰐のことを気兼ねする必要なく旅をすることが出来るようになったのである。


 しかし北の方角へ積極的に旅をしようとするトカゲはあまりいなかった。そもそも鰐がやってきた方角がそちらだったからである(ついでに言えば、そもそも始祖のトカゲが竜たちに愛想をつかしてやってきたのが北の方角だった)

 わざわざ北へ行かなくても遊ぶ場所ならたくさんある。

 なんといってもトカゲの数は以前よりも圧倒的に減ってしまったのだから…


 

 とにかく、そうな風にトカゲ達は生きていたのであった。






 墓で暮らすトカゲのグループの中にクララという名前のトカゲが一匹いた。

 クララは頭が良い上に力のある、勇敢なトカゲであった。

 しかし能力の高いトカゲの例にもれることなく、クララは他のトカゲを見下す傾向にあった。

 もちろん他のトカゲはクララが自分たちを低く見ているということをちゃんとわかっていたので、クララを仲間はずれにするようになった。

 そういうわけでクララはいつも1匹で行動していた。


 しかしクララは孤独を特に辛いとも思わなかった。

 時々どうしようもなく寂しくなるときはあるけれど、他のトカゲ達と無理して馴れ合っても寂しくなるときはなるのだ。

 だったら別に孤独でもいいじゃないか、というのがクララの考えだった。

 

 


 そんなクララが、ある日ドロンの部屋に呼び出された。

 ドロンは余程の用事がない限り自分から誰かに会おうとはしない。

 だからクララはびっくりした。

 一体ドロンが自分に何の用があるのか?

 クララには全く見当がつかなかった。



 クララはドロンの部屋の扉の前までやってきた。

 扉の脇には2匹、屈強そうなトカゲが待機している。

 ドロンに呼び出された旨を伝えるとそのトカゲは頷き、扉を開けた。

 クララはがらにもなく緊張した面持ちで部屋の中へ入っていった。



 中は狭い上に小さな窓が一つきりだったので薄暗く、とてももの寂しい印象を受けた。

 その部屋の真ん中にドロンがひざまずいて手に持っている何かに向かってぶつぶつと呟いている。

 手に持っているのは手先が器用なトカゲに特別に作らせた大トカゲの石像であった。

 


 クララがどうしていいのかわからずにしばらくドロンの背後に立っていた。

 やがてドロンは呟くのをやめてゆっくりと体勢を変えてクララに向き直った。

 

「クララ、よく来た。まあ座ってくれ。」


「はあ、じゃあ失礼して。」


「今日お前を呼びつけたのは他でもない。頼みがあるんだ。お前に北の方角を目指して旅をしてほしいんだ。」


「北ですか…なんでまた?」


「俺はジジと色々と話したんだ。それでどうも大トカゲははるか北の方角からやってきたんじゃないかと思うようになったんだ。」


「ほう?それはどういう…」


「大トカゲや鰐が現れた時のことを知っているトカゲはもうほとんどいない。みんな死んでしまったからな。…ジジの話によればある日北の方角からやってきた1匹のトカゲがいた。そのトカゲは当時トカゲの集落を治めていたミズミというトカゲを殺そうとして失敗し、また北へと逃げていったんだ。それからまたそのトカゲは集落にやってきた、今度は凶悪な化物を連れてな…。ジジはあれが今思えば大トカゲと鰐だったんじゃないかと言っているんだ。」


「なるほど、それが本当だとするなら大トカゲも鰐も北からやってきた、ということですな。」


「俺は北に一体何があるのかということを知りたいんだ。大トカゲは一体どこで生まれて、どうしてトカゲの集落に襲いかかったのかということを。そしてなぜ自らの身を犠牲にしてまでトカゲ達を救うことができたのかということを。北にその手がかりがあるのかもしれない。だからクララ、お前に北を目指して旅してもらって、その手がかりを見つけてきてもらいたいんだ。俺はもっと大トカゲのことについて知りたいんだ…」


 そう言うと、ドロンは手に持っていた石像をぎゅっと握り締めた。


「話はわかりました。とにかく北へ行って大トカゲに関することをなんでもいいから見つけてこいということですね。まあよろしいでしょう。丁度あまりにも平和で体がなまっていたところです。きっとドロンさんの喜びそうなものを見つけてきてあげますよ…」


「すまないな。これは本当なら俺がいかなければいけないことなんだ。しかし俺はここでひたすらに大トカゲに謝り、同時に感謝しつづけ、彼をトカゲ王として称えつづけると誓ったからな。この場所を離れるわけにはいかないのだ。…それにお前は若く、力強い。まるでかつての俺を見ているようだ。きっとお前なら俺以上にうまくやってくれると信じているよ。」


「まあ、出来る限りご期待に沿うことができるようにしますよ…」




 クララは外に出て空を眺めた。

 そしてさっきのドロンの言葉について考えてみた。

 結局のところ、体よく追放されてしまったということなのではないだろうか?

 俺があまりにも他のトカゲと交わらないのを見かねたドロンが、何か問題が起きる前に厄介者の俺をどこか別の場所へ追い出そうとしたんじゃないのか?

 きっとそうだ、そうとしか思えない。

 全くドロンさんも回りくどいことを言わずにはっきり「邪魔だ」と言ってくれればこちらも察して自分から姿を消したというのに…


 

 丁度いいさ。

 俺もこのトカゲなんていう矮小な奴らに飽き飽きしていたところさ。

 キタに行けば大トカゲや鰐なんていう強大な奴らがうようよしているのかもしれない。

 そしたら俺もそいつらの仲間に入れてもらおう。

 そうさ、俺はそれにふさわしい力と知恵と勇気を持ったトカゲなんだから…



 クララはそんなことを考えながら旅支度を始めたのであった。

 

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