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初めに竜があった  作者: 最黒福三
竜の時代
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竜の産卵

竜は卵を手に入れようとする。しかしなかなか見つからない。




 大地には雨が降るようになった。

 空には様々な形の雲ができるようになった。

 竜は最初はそれらの変化を楽しく見ていた。

 しかし段々と飽きてきた。

 ずっと何もかも変わらなければそれが「つまらない」ということにも気付けないが、竜はすでに変化を体験してしまった。

 だからもっと激しい変化を求めるようになったのだ。




 竜は自分がもう一匹いればいいのにな、と思うようになった。

 そうすれば一緒に話すことができる。

 遊ぶこともできる。

 これがもし神様だったらこんなことは思わない。

 神は寂しがったりしない。

 しかしここにいるのは竜だった。

 竜は、泣き、笑い、時には怒り狂い、そして時には寂しがる、そんな生物に過ぎなかった。




 竜は腕を組んで考えた。

 どうすれば自分をもう一匹作り出すことができるのかということを。

 竜の頭はそこそこ。

 だから自分は卵から生まれた、だから卵をどうにかして手に入れればきっと自分がもう一匹そこから生まれてくれるという考えに至るのにそう時間はかからなかった。




 竜は色々とやってみた。

 泥を集めて卵の形のようなものを作ったり、海に飛び込んで卵が落ちてないか探したりした。

 でもそんなことをしても無意味だった。

 竜は疲れ果ててしまい、川のそばの平地に座り込んで休んだ。

 すると空には雲がもくもくと集まってきた。

 そんなことはもう竜にとっては珍しいことでもなんでもなかったから竜は空を見上げることすらしなかった。

 しかしすぐに異変に気付いた。

 今までに見たこともないくらいに雲は厚く黒くなっていた。

 それだけでなく雲はパチパチと鋭い光を放っている。

 それは雷雲だった。

 空に雲ができるようになったのだからいつかは雷雲ができるに決まっている。

 むしろ今までできなかったのが不思議なくらいだ。





 瞬く間に空は真っ黒な雷雲に覆われた。

 竜は直感的にこれは恐ろしいものだと感じた。

 どこかに身を隠さなければ、そう考えて羽根を広げた瞬間、竜の体めがけて一筋の矢のごとき雷が落ちた。





 竜の視界は真っ白になりその場に倒れた。

 さすがに竜の体力はすごいからそれで死ぬことはない。

 それでも相当のダメージを負ったのは事実のようだった。

 その後も何発か追い討ちをかけるかのように雷は竜の体を撃った。

 瀕死になりながらも空の猛攻を竜はなんとか凌いだ。

 やがて雲は晴れ、青い空が戻ってきた。

 しかし疲れきった竜はなかなか目を覚まさなかった。





 気の遠くなるような長い時間を竜は目を覚ました。

 痛みで目を覚ましたのだ。

 どこが痛いかといえば腹だった。

 竜は腹をおさえてのたうちまわった。

 どうしてこんなに痛いのか竜にはわからなかった。

 それまでの竜は外からの痛みしか感じていなかった。

 今回の腹の痛みは内からの痛みだった。

 ズキズキと鈍い痛みがずーーーっと続く。

 そのいやらしい痛みに

 竜は耐えた。





 段々と痛みは具体的な形をともなってきた。

 自分の体の中に痛みのもととなっている何かがある。

 竜はそう直感した。

 自分の体のことは自分が一番よくわかる。

 だから竜は疑わなかった。

 この痛みのもととなっている何かを体外に吐き出せばきっと楽になる。

 そう思った。

 竜はイメージした。

 痛みが体の外に這い出していくのを。





 「それ」は意外と簡単に外に出た。

 それは卵だった。

 卵はごろごろと転がって丁度川岸のあたりで止まった。

 卵を出すと竜の腹の痛みは綺麗さっぱりとなくなってしまっていた。

 卵が竜の痛みの原因となっていのだ。





 痛みで鈍くなっていた頭ではそれが卵だと最初は気付くことができなかった。

 竜がイメージする卵とはもっと馬鹿でかいものだったからだ。

 竜がまじまじと不思議そうにその卵を眺めていると卵には小さなひびが入った。

 ひびは段々と大きくなっていき、やがて卵は2つに割れた。

 そして中からでてきたぬらぬらとした体液に覆われたものが口を開いた。




「こんにちわお父さん。僕は亀です…」




 

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