決戦
トカゲ達は大トカゲに奇襲をしかけることができる道を発見した。トカゲ達は勢いづき、近々大トカゲに総攻撃をしかけることを決断した。
大トカゲは山を背にしてその麓に横たわり、じっと考え事をしていた。
すっかり巨大になった自分の体のこと、食らってきたトカゲのこと、鰐の恐ろしさのこと。
色々な考えが頭の中に浮かんできては消えていった。
そもそも自分は何のためにここにいるのか?
そういう考えても意味がなさそうなことまで考えてしまう。
今まで活発的だった奴が急に大人しくなると、その反動で余計なことを考えてしまいがちである。
大トカゲもその例にもれなかったのだ。
「俺はただ、流されてきただけじゃないのか…」
恐ろしい蛇に言われるままについていって、さらに恐ろしい鰐が現れたらそれに服従して、そして今ではその鰐すらもうしなくてもいいんじゃないかと言っているトカゲの虐殺を続けている。
自分でも一体何のために戦っているのかわからない。
かつてはぐうたらと毎日を過ごしているトカゲ達が醜悪に見えたこともあったが、今のトカゲ達はかつてとは見違えたように活発的だ。
あちこちに罠を張り、断続的に攻撃をしかけてくる。
私が虐殺に積極的でなくなったのは下手に攻撃をしかければこっちがやられてしまうかもしれないという不安があるからかもしれない。
いや実際、こうやって後ろからの襲撃の心配のない山の麓でなければ、安心して眠ることすらできないのだ。
話し合いを試みようとすることもあった。
しかしトカゲ達は私に数え切れないほどの仲間を殺されている。
今さらそれをちゃらにして私を仲間に入れることもできないのだろう。
それは仕方のない話だと自分でも思う。
ああ、私は本当に流されて生きている。
何事も自分で決めたことがないのだ!
思えば生まれた時からそうだった。
誰もいない荒野で生まれ、行く当てもなくただあたりをさまようしかなかった。
そして私はある分かれ道に行き当たって…
そうだ、あの時私は左の道を選んだ。
そしてあの時右の道を選んだトカゲがいた。
そのトカゲは生まれた時から私のそばにいたんだ。
あいつも私と同じように荒野に捨てられた卵から生まれた。
しばらくはずっと一緒に荒野を旅をした。
しかしある分かれ道にさしかかって、私たちは別々の道を歩むことを決めたんだ。
思えばあの時左の道を行くんだということだけは自分で決めたことだったな…
懐かしいな、あの時右の道を進んだあいつはどうしているんだろう?
今も生きているんだろうか?それともどこかで野垂れ死んでいるのだろうか?
あの時はあいつも私も名前なんてないただのトカゲだったな。
そんな風に半ばうつらうつらとなりながら昔の思い出に浸っていた時のことである、不意に大トカゲは背中に衝撃を感じた。
振り返ると背中に何匹ものトカゲがしがみついて攻撃をしかけている。
しっぽや腕を振り回して蹴散らそうとするがすでに完全に包囲されていて、どこを向いても背後の死角からの攻撃は避けることができなかった。
戸惑っている間にも自らを取り囲むトカゲの数はどんどん増えていく。
どこからトカゲ達がやってくるのかとあちこち見渡し、最後に頭上を見ると、山の上の方に開いた穴から次から次へとトカゲが自分に向かって飛び降りてくるのが見えた。
あんなところから…と思う間もなく今度は遠巻きにされて角ばった巨大な岩を投げつけられた。
これには大トカゲも完全に参ってしまった。
このままでは殺されてしまう、と思った大トカゲは力を振り絞って包囲の正面突破を試みた。
かなり全身に傷を負ったもののなんとか包囲を突破したが安心したのも束の間、正面から大量のトカゲが迫ってくるのが見えた。
まともに相手している余裕はないとトカゲのいない道を選んでとにかく後先のことを考えずに逃げていった。
そして、ようやくトカゲ達がまわりにまったくいない、見晴らしのいいあたりまで逃げ込んできて、やれやれと一息つこうとした瞬間、ぐらぐらと足元の大地が揺れた。
見る見るうちにあたりの地面は砕けていき、ついにはぽっかりと穴が開くに至った。
罠か、と思う暇もなく大トカゲは深い深い穴の底にずしんと背中から落ちて、その衝撃のあまりに気絶してしまった。
穴のはるか上、その縁にかがみこんで、トカゲ達が穴の中を覗き込む。
その奥底には仲間たちを数え切れないほど殺した憎き大トカゲが確かに横たわっていた。
初めはその光景のあまりのすさまじさに誰も声をあげることすらできなかった。
しかしドロンがそばにいたジジの肩を抱きしめ、涙ぐみながら。
「ありがとうジジさん!これも全てあんたのおかげだ!これからも俺は何があったってあんたの助言だけはないがしろにしないことに決めたぞ!」
と叫んだのを合図として、歓声があちこちからあがった。
その歓声はあたりの山や川をはるかに越えて届き、また全く止む気配がなかったが、穴の奥底で横たわっていた大トカゲは一向に目を覚ます気配がなかった。
トカゲの攻撃をずっと警戒していたから、大トカゲが自身で思っていたよりもはるかに疲れていたのだろう。
皮肉なことに、トカゲ達につかまってはじめて大トカゲはぐっすりと何の心配もなく眠ることが許されたのであった。




