蛇の遠征
捨てられた卵から生まれた2匹のトカゲは別々の道を進む。左の道を進んでいったトカゲは蛇に出会った。
蛇は日々の生活に満足していた。
毎日遠くの山やそばを流れる川を眺めたり、あたりを駆け回ったりしている。
毎日駆け回っているので昔よりもさらに足は速くなった。
今日も丁度川沿いに散歩をしている途中だったのである。
蛇は遠くからすでにトカゲの姿を確認していたが、それが以前にすれ違った、自分の兄弟のトカゲとはどこか雰囲気が違うことにすぐに気付いた。
また、そのトカゲは蛇と比べてあまりにも弱弱しかった。
だから蛇は特に警戒することもなく、トカゲに近づいて話しかけた。
本当に、次元が違うといってもいいほどそのトカゲは力がなかったのだ。
「お前はトカゲだな?どこからやってきたんだ?」
トカゲは恐怖でろくにしゃべることができず、ただ自分が歩いてきた方角を指差すことによって質問に答えた。
「お前もきっと卵から生まれたのだろう。その卵を生んだ奴は誰だ?今どこにいる?」
「知らない。生まれた時、そばには同じように卵から生まれたばかりのトカゲしかいなかった。」
「ふむ、捨てられた卵から生まれたというわけか。一緒にいたトカゲはどうした?」
「途中で別れた。」
「ふーん…」
蛇は考えた。
恐らくこのトカゲは蛇の兄弟のトカゲの子どもか、あるいは子孫だろう。
トカゲはなんらかの方法で自ら卵を生んだのだ。
蛇も何度も試みたが結局生むことができなかった卵を。
段々と気にかかりはじめたのは目の前のトカゲのそのあまりにもひどい弱々しさであった。
竜から生まれたトカゲも確かに強くはなかったが、これほどではなかった。
奴もやはり竜の子ではあったのだ。
普通にトカゲが卵を生んだとするのならば、これほどまでに弱々しいトカゲが生まれてくるはずがない…
そこに蛇は違和感を持った。
だからちょっと目の前のトカゲが出てきた卵を生んだ奴を探してみようという気になったのである。
「おい、トカゲ。お前が生まれたところへと俺を連れて行け。きっとそこに何か手がかりがあるはずだ。」
トカゲは恐ろしい蛇の言いなりになって道案内を始めた。
とても逆らえる雰囲気ではなかった。
しかしすぐに蛇はトカゲの歩みのそのあまりにもひどい遅さにうんざりとした。
「お前は実にのろいな。亀よりもはるかに遅い。これでは埒があかない。俺の背中に乗れ
…」
蛇はトカゲを背中に乗せて走った。
トカゲは生まれて初めて体験する理解をスピードに早々と失神してしまった。
やがて蛇たちはトカゲが生まれた場所へとたどり着いた。
そこには蛇からすればあまりにも小さい卵の殻が2個置かれていた。
「お前たちは生まれてから、あっちを目指して歩いたわけだ…」
と、蛇はたった今自分がやってきた方角を指差した。
「ならば今度はこっちへ行ってみよう。何かがわかるかもしれない…」
と、蛇はその真逆の方角を示してからすぐに走りだした。
トカゲは今度はしばらく耐えたが、まもなく泡を吹いて気を失ってしまった。
蛇は深い谷に行き当たった。
その向こうに行くのは困難そうだったので谷に沿って走ることにした。
するとやがて2つの崖が狭まる細い道に差し掛かった。
蛇はその前で走るのを止めた。
その道の先から何者かの気配を感じたからだ。
蛇はその場にじっと留まるようきつくトカゲにいいつけてから物陰にひそみながら慎重に細い道を進んでいった。
細い道をぬけた先にはとんでもない光景が広がっていた。
そこではおびただしい数のトカゲが生活していたのである。
彼らは歩いたり、寝転んだり、遊んだり、話し込んだりしていた。
1匹1匹のトカゲの力はゴミくずのように弱かった。
しかしその数があまりにも多く、蛇は圧倒されてしまった。
そこにいるのが全てとも限らないのだ。
蛇は初めて見る「圧倒的な数のトカゲ」というものに全く驚かされてしまった。
無理もない、今までは極々少数の者たちの間で生きていたのだ。
初めて見るものに接して、蛇は多少冷静さを失ってしまったのである。
蛇はトカゲ達を自らのことを脅かしうる存在であると認識した。
だからなんとしてでもあのトカゲ共を1匹残らず滅ぼさなくてはいけない。
そう蛇は決意した。
蛇は一旦来た道を戻り、トカゲを連れてじっくりと物事を考えることができるような場所へと身を潜めた。
そこで色々と作戦を練ることにしたのである。
トカゲは世にも冷たく笑った蛇の目を見て恐怖にうち震えたが、どうすることもできなかった。
逃げることすら思いつかなかった。
それほどにトカゲと蛇の力の差は圧倒的であった。




