捨てられたトカゲの卵
ボラとアンナは最終的に海に行き着いた。2匹はそこでずっと暮らしていくことを決意する。一方他のトカゲ達は…
大地に今だかつてないほど多く繁殖したトカゲ達、そのトカゲ達を率いる母なるトカゲは悩んでいた。
トカゲ達が卵を生まず、新しい命が生まれてこないことに。
確かに卵を生めば死んでしまう。
しかし新しいトカゲが生まれてこないことによってトカゲ達の集団は明らかに活力を失ってしまっていた。
やはり、新しいトカゲを定期的に受け入れていかないと集団は駄目になる。
毎日岩の上に寝そべってぼけーっと空を見るばかりで何もしないトカゲ達のていたらくを見て、ついに母なるトカゲは自ら卵を生むことを決意した。
自分の行為に勇気づけられて、きっと続いて卵を生んでくれるトカゲも現れてくれるだろう…
母なるトカゲは父なるトカゲを呼び出して相談する。卵は1匹だけでは産めないものだったからだ。
父なるトカゲはただ、自分は「あなたの意思に従う」とだけ言った。
母なるトカゲは父なるトカゲに感謝し、そして交尾をした。するとまず父なるトカゲが命を落としてしまった。始祖のトカゲ2匹には大分力が残されているはずだったが、あまりにも長く生きすぎたためにいつのまにか力が失われていたのかもしれなかった。父なるトカゲの死骸を見て母なるトカゲは深く悲しんだ。最早長く生きながらえようとは思わなかった。卵を2つ産むと、母なるトカゲも後を追うように死んでしまった。こうして始祖のトカゲは2匹ともこの世界から消えうせてしまったのである。
2匹が暮らしていた洞窟には2匹の死骸と2つの卵だけが残された。
なかなか洞窟から出てこないトカゲ王とキミを心配したミズミというトカゲが洞窟へ様子を見に行った。
そして異変に気付いた。
「ああ、トカゲ王もキミさまも卵をお生みになられたのだ。おいたわしや。」
そして後に残された2個の卵を見て、こう呟いた。
「トカゲ王とキミさまが卵を自ら生んだことを知ったならば、後を追って卵を生むトカゲが次々と現れるだろう。ああ、新たに生まれた活力にあふれたトカゲたちはきっと老いてしまった僕のようなトカゲをのけ者にするだろう。ああいやだいやだ。そんなのは嫌だ。かといって卵を生んで死ぬのも嫌だ。僕はもっと長く生きて、もっとずっと空や川や山を見ていたいんだ。…こんな卵があってはろくなことにならない。こっそり遠くへ捨ててこよう。」
そういうとミズミは卵をトカゲ王が行くことを固く禁じた方角、すなわちトカゲ王が旅をしてきた方角に随分深く歩いていって、そこに2つの卵を置いてすぐに帰ってきた。さらに残された始祖2匹の死骸は誰にもわからないような地の奥深くに埋めてしまった。
ミズミはそれからトカゲ王とキミが後のことは全てミズミにまかせて旅に出てしまった、と他のトカゲ達に伝えた。
トカゲ達はあらまあ、なんて驚きの声を少しはあげたが、後はさしたる動揺もなくミズミの言うことに従った。
ミズミは始祖のトカゲたちが暮らしていた上等の洞窟とか丘で暮らすことが可能になったが、特に他に得したことはなかった。
トカゲを率いる、といっても特別にすることなんてなかったのである。
こうしてミズミの下でトカゲ達は以前と変わらぬ停滞した生活を今しばらくし続けることになったのである。
やがて、置き去りにされた始祖のトカゲたちの卵が孵化した。
幼いトカゲ達は卵の外に出れば当然誰かいるだろうと思っていたが、そばにいるのは自分と同じく幼く未熟なトカゲだけであった。
2匹は心細くてしばらく泣き続けてが、やがて泣いても仕方のないことに気付き、あたりを歩き始めた。
初めは2匹で歩いていたが、やがて巨大な山にいきあたった。
とても目の前の山は登れそうではなく、先に進むためには迂回する必要があった。
それで、右に迂回するか左に迂回するかでもめた。
やがてそれぞれ別の道を進んでいく、ということで決着した。
右の道は険しかった。
山あり谷ありでとにかく先に進むのだけで一苦労だった。
しかしトカゲは若かったのでくじけることなく前へ前へとひたすら進んでいった。
左の道は易しかった。
特に起伏もなく、ただ気持ちのいい一本の川が流れているだけであった。
トカゲは鼻歌を歌いながら遠くに見える山並みを眺めながら歩いていった。
すると、上流の方から誰かが歩いてくるのが見えた。
目をこらしてみるとそれはとても怖い顔をしていて、するどい牙と爪を持っていた。
自分とは全く姿形を持つものに生まれて初めて出会い、トカゲは思わず身を震わせた。
左の道を進んだトカゲはこうして蛇と出会った。




