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初めに竜があった  作者: 最黒福三
竜の時代
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亀の話

旅を続けるボラとアンナの前に高い崖が立ちふさがる。途方に暮れている2匹の前に亀が現れた。







「まあとりあえず僕も座らせてもらいますよ、どっこいしょ。もう大分年なんでね。」


 そう言うと亀は近くにあった岩の上に腰を下ろした。

 ボラとアンナは亀のことをじろじろと眺めていた。

 見れば見るほど変な体をしていた。

 ボラもアンナも自分たち以外のトカゲを見たことはなかったけれど、目の前の亀と名乗った奴がトカゲではないことはなんとなくわかった。

 あまりにも亀は自分たちと違いすぎる。



「さて、とにもかくにも君たちはこの目の前の崖を越えることができなくて困っているね?」


 と、亀は首だけ動かして崖を見た。

 ボラとアンナはとりあえず声は出さずに頷く。


「先に安心させるために言っておきますが、崖の向こうへは僕が連れていって差し上げます。だからご心配なく。君たちの長かった旅はもうすぐ終わりが近いですよ。だからもうちょっとだけ頑張ってください。」


 ボラとアンナは目をぱちくりさせた。

 あまりにも話しが突拍子すぎてうまく理解することができなかったのだ。

 亀は特に間もあけずにこう言う。


「まあこう言ってもなかなか信じてはもらえないでしょう。話の整理もできていないでしょうからね。だからまずはおしゃべりでもしましょうか。大丈夫ですよ。君たちが納得できるまで僕はおしゃべりを続けることができますのでね。さあ、何でも聞きたいことを聞いてください。」


 しばらく沈黙が場を支配した。

 亀はにこにこしながらボラとアンナの顔を見つめていた。

 意を決したようにアンナが顔を上げて口を開く。


「あ、あのあなたは一体誰なんですか?なんで私たちを助けてくれるんですか?」


「さっきも言ったとおり僕は亀です。君たちを助ける理由は、この目の前の崖は僕が作り出してしまったからです。つまり君たちが先に進むことができないということの責任は僕にあるのです。だから僕は君たちを助ける。わかりますか?」


「崖を作る、っていうことの意味がわからないんですけど。」


 懐かしそうに空を見上げてから亀は語った。


「君たちは知らないだろうけどね。世界には竜という存在があるんだ。竜はこの世界の全てを作り出した。もちろん僕も、君たちはかつて全て同じく一つの竜という存在だったんだ。その竜からかけらがこぼれて僕たちが生まれたんだ…まあそれはともかく僕はその竜を追いかけた。理由は…ごめんね、うまく説明することはできないや。ともかく僕は竜を追いかけて追いかけて…ついに今僕たちがいるあたりまで竜を追い詰めた。ああ、やっと想いを果たすことができるんだと想った僕は油断した。すると竜はその大きな爪を一振りした。するとあっという間に見渡す限り大地が盛り上がって今あるような崖ができてしまったんだ。僕は仕方なく果てしなく長い時間をかけて崖に穴を掘った。しかし穴を掘りきって崖の向こう側に出た時にはすでにそこには竜はいなかった…」


 ボラは一応ふんふんと聞いていたが全く話の内容は信じていなかった。

 竜というのはまあいるのかもしれない、わからないけど。

 亀なんてのもいたくらいだから。

 だけど全てが最初は竜だった、なんてのは嘘に決まっている。

 僕らも、大地も、元も一つだったなんて、そんなの信じるのはどうかしてる。


 亀はなおも話を続ける。


「まあ僕はあきらめずにまた竜をおいかけたけどね。…でもとにかく崖はここに残ってしまった。世界の各地にはそんな風に僕が竜を追いかけてしまったがゆえに出来てしまった山とか谷、崖なんてものがいっぱいあるんだ。僕はね、最近になってそのことが気がかりになってきたんだよ。そういう僕のせいでできた地形で困っている存在があるのかもしれないってね。だから僕は地の底から這い出してきた。ま、なんていうのかな、ちょっとした後片付けをしようと思ったんだね。だから僕は君たちを助ける。どう?納得できましたか?」


「そんな、今の話を信じろっていうんですか?それはちょっと無理ですよ。」


「まあ、竜のこととかは信じなくてもいいさ。それはまあ君たちには確かに関係のないことだからね。問題なのは、君たちが僕のことを信じてくれるかどうか?ということだと思うんだ。」


「あの…」


 と、アンナが立ち上がって言う。


「私は信じます。亀さんのこと。あ、竜の話も信じてみたいと思います。」


「おいおい。そんなすぐに誰かを信じていいのかよ。」


 と、ボラはたしなめるように言った。


「だってこの亀さんの力を借りなきゃ崖の向こうへいけないのは確かじゃない。ここまで来てこの先へはいけないなんて、そんなの私はいやだよ。それに…」


「それに?」


「竜の話なんて面白いじゃない。それだけで私は亀さんの話は信じてもいいと思えるよ。」


「うーん…」


「ボラが行かないっていうのならいいよ。私だけでも崖の先へ行くから。ボラはずっとここで待っているといいよ。」


 ボラはあわてて言う。


「そんなのは駄目だよ。どこへ行くのも2匹は一緒じゃなきゃ…」


 ほっほっほと亀は笑って言う。


「どうやら話はまとまったようだね。なあに、しっかり責任を持って僕が2匹を向こうへ送り届けるよ。」



 




 亀が歩き、その後ろをボラとアンナがついていった。

 しばらく歩くと、亀は崖の前の大きな岩の前で歩みをとめた。

 そしてその岩を体全体で押して移動させた。

 すると大きな穴が姿を現した。

 

「さあ、僕の後についてくるんだ…」


 中の道は狭く、曲がりくねっていた。

 腰を折り曲げてボラとアンナは進んだ。

 体勢のきつさに音を上げそうになったとき、ようやく出口が見えた。


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