トカゲの大繁殖
寂しさに苦しんでいたトカゲはついに卵を生むことに成功する。
トカゲは自分と全く同じ姿形の存在を前にしてどぎまぎしていた。
そもそもこんな風に誰かと向き合った経験がないのだ。
まず何から話せばいいのか。
悩み、迷っている間に時間はすぎていった。
そしてついに、目の前の相手の方から先に話しかけてきた。
「あなたは誰?」
「私はトカゲだ」
「私は誰なの?」
「君も…トカゲだ。私と全く同じ姿形をしている」
2匹は近くの泉のほとりに行き、お互いの姿をそこに映してそれを確かめた。
「ねえ…この世界には私たちの外に誰かいないの?2匹だけじゃ寂しいわ」
後から生まれた方のトカゲがそう訊ねる。元からいた方のトカゲはそれまでのことについて話をした。世界には他に竜や亀や蛇などといった生物がいること。それらは争いあってばかりの仕方のない生物であること。自分はそんな連中に嫌気がさして逃げ出してきたこと。その途中で孤独を覚え、そして2匹目のトカゲが生まれたこと…。そういったことをもう1匹のトカゲに話した。
「なるほどね。そういえばそうだったような気がしてきたわ」
「記憶があるのかい?」
「なんとなくね。でもそれも当然よ。元々私はあなたから生まれたのだから…」
不思議なことに、2匹のトカゲの力は同じぐらいのものであった。
最初のトカゲもなんとなく竜を見て、卵を生めばそれなりに力が弱まるということは知っていた。
しかし最初のトカゲの力はきっちり半分、後のトカゲに受け継がれたようであった。
これが珍しいことなのか、そうでないのかは最初のトカゲにはわからなかった。
もしかしたら、ひたすらに最初のトカゲが寂しさを紛らわせることを目的として卵を生んだことが理由だったのかもしれない。
交流が目的であるなら、対等ぐらいの力が一番しっくりくるのだ。
しかしまあ本当のところはわからない。
トカゲは話し相手ができて楽しかった。後に生まれたトカゲも楽しんでいた。
最初のトカゲは自分がしてきた旅のことを面白おかしく話した。後のトカゲは笑い転げながらその話を聞いた。
それを見て嬉しくなった最初のトカゲはさらに張り切って話す。
2匹がいるところでは笑い声が絶えることがなかった。
ある時、後のトカゲはこんな提案をした。
「ねえ、あたしはあなたといることができてとても楽しい。あなたは1匹だけのときと2匹のとき、どっちが楽しい?」
「考えるまでもないよ。君といるときの方が楽しいよ。」
「だったらまた卵を産んでくれない?もっとトカゲの数を増やしましょうよ。そうすればもっと楽しくなるはずだわ」
最初のトカゲは悲しそうな表情で後のトカゲを見た。
「私もそう思って何度か試みてみたんだけれど…。駄目だった。どうしても卵を産むことが出来ないんだ」
「そうなのね。1度は産むことが出来たのに、どうして産むことが出来なくなってしまったんでしょうね?」
「君を産んだことによって力が半分になってしまったことが原因かもしれない」
「そうなのね。だったら私を食べてみる?私を食べて、私とあなたがもう1度1つになったらもう1度卵を産むことが出来るようになるかもしれない」
「そんなことをしたら君がいなくなってしまうじゃないか。そんなのは嫌だよ。1匹だけで生きるのが嫌になったから君を産んだんだ。君を食べてまた1匹に戻るなんてことは嫌だよ。何か方法があるはずだよ。2匹に分かれたままの状態で、しかも1つになる方法が…」
そして2匹は色々と試行錯誤した。抱き合ったり、噛み付きあったり、転げあったり色々なことをした。2匹だけであれこれとやり続けた結果、ついに方法を見つけたのであった。つまり現代、その辺でトカゲだの何だのといった生き物が子孫を残すためにやっているようなこと、すなわち交尾という方法を見つけたのである。この2匹のトカゲこそは今の世界に満ちているありとあらゆる生物の祖先。我々全ての父と母とでも言うべき存在であった。最初に卵を産んだトカゲ。すなわち竜や蛇たちの世界から逃げ出してきたトカゲは最初の「雌」であり、最初に産まれてきたトカゲは最初の「雄」であった。
最初のトカゲはまず2つだけ卵を産んだ。卵はすぐに孵化し、ほとんど同じ姿のトカゲがさらに2匹生まれ、トカゲは全部で4匹になった。最初のトカゲはそれからも卵を次々と産み、そして新たに産まれたトカゲも2匹で組を作って卵を産むようになった。こうして次々とトカゲはその数を増やしていった。そのあたりの荒野が大量のトカゲで埋め尽くされるのに時間はかからなかった。全部でトカゲがどれくらいいるのか?なんてことは途中からはとても数えることはできなくなった。
しかしトカゲはみな卵を生む度に力を失っていった。
しかし力なんてトカゲにとっては不要なものだった。
力なんてあっても、戦う相手がいないじゃないか。
トカゲのほぼ全てはそういう考えだったから、卵を生んで生んでその数を増やすのをやめはしなかった。
何より仲間の数が増えると楽しかったから、トカゲたちは卵を生むのをやめなかったのである。
しかし段々と、卵を産まないトカゲが増えてきた。なぜかというと、あまりにも個々のトカゲの力が弱まりすぎて、交尾をすれば2匹とも死んでしまうようになったからである。卵を生んで数を増やし続けてきた結果、個々のトカゲの力はそこまで弱まってしまっていたのだ。




