竜の号泣
竜が大泣きして大地のまわりに海ができる。
竜は食料である卵の殻をくいつくしてしまった。
だからこれ以上体が大きくなることはもうない。
大地もこれ以上広くなることはない。
竜は大地の果てにたち、その先に広がるわけのわからない虚無を呆然と見つめた。
しばらくの間ずっとそうしていた。
やがて竜の心には怒りが芽生えた。
それはそうだ。
生まれて初めてこの世のどうしようもないことに出会ったのだから。
竜は大地の上で地団太を踏み、荒れ狂いながら踊り、あちこちを爪でひっかいたり
炎を吐いたりした。
その結果それまでほぼ平坦だった土地には起伏ができた。
山や谷や丘ができたのだ。
暴れ疲れると竜は寝入った。
そして目を覚ますと竜の心は落ち着いた。
そして目の前の惨状を見た。
大地をこんなめちゃくちゃにしてしまったことが初めは恥ずかしく、やがて悲しくなった。
竜はその場で背中を丸めてしくしくとないた。
涙はとめどなくあふれ、あたりを水浸しにした。
自分の体が泥まみれになってきたので竜は翼を広げて空を飛び、なおも泣いた。
涙は雨となり、大地へと降り注いだ。
山の頂上へと降り注いだ雨は幾筋もの急流となり、それらは裾野で合流して大河となった。
そういう大河はあちこちにできて、最終的に大地の外の虚無に注いだ。
虚無は初めはひたすらに水を吸い込んでいた。
しかし竜はいつまでもいつまでも泣くことをやめなかった。
虚無もかなり頑張った。
しかし竜の悲しみの方が深かった。
とめどなく流れる水は少しずつ虚無を満たしていった。
なんだかわけのわからない、ぐにょぐにょとした虚無は、こうして海となった。
涙が虚無を埋め立てたのだ。