蛇の楽園を目指す旅 赤蛙と黒蛙の王国脱出
蛇は楽園の中を探すが蛙がいないことに気付く。蛙に出し抜かれたことを知った蛇は急いで楽園を離れることにする。
蛇は部屋に戻り鰐に声をかける。
「おい鰐!すぐに出かけるぞ!支度をするんだ。」
鰐は詳しい理由など聞かない。
ただそれが蛇の命令であるから従うまでである。
そうなるように蛇がしつけたのだ。
「確かに楽園がどこにあるのか俺は知らない。しかしいくら広いといっても大地には限りがある。あきらめさえしなければいつかきっと見つかるはずだ…」
蛇はものすごい速度で駆け始めた。
鰐もかなり頑張ってその速度についていった。
一方蛙の王国。
蛙王は日々しもべと遊ぶ生活を繰り返してはいたが、全てが順風満帆、というわけではなかった。
「さあ赤蛙に黒蛙。今日は追いかけっこをして遊ぼうじゃないか。」
それに赤蛙が答える。
「嫌だよ。僕は今日は黒蛙と水遊びに行くって約束したんだから。それにもう僕らは3日も追いかけっこをしている。もうあの遊びには飽きたよ。」
「そ、そんな。水遊びも確かに楽しいけど僕は今は追いかけっこがしたいんだ!お前たちは僕のしもべなんだから言うことを聞かなきゃ駄目だ!さあ、この蛙様の言うことを聞くんだ!」
蛙は泣きながら駄々をこねた。
まったくどちらが子どもかわからない。
その様子を見て赤蛙はしぶしぶ追いかけっこをすることを承諾する。
しかしわだかまりはぬぐえない。
ある時、丁度蛙が遊びつかれて寝入っている時に黒蛙が赤蛙を物陰に誘う。
そしてひそひそ話しを始める。
「ねえ、赤蛙。ここは確かに素晴らしい場所だ。色々な楽しいものがあるし、気持ちの良い川だって流れている。でもここにいるかぎり僕たちはあの蛙の言うことを聞き続けないといけないよ。それはなんというか、とても窮屈なことだと思わないかい?」
赤蛙は頷く。
「僕はもう最近ずっとそのことばっかり考えているよ。でも僕たちはこの楽園までやってくる途中で世界を色々見てきた。ここよりいい場所なんてどこにもなかったよ。ここを出てもどこにも行くところがないなら、出て行っても意味がないよ。」
「そこなんだよ。」
と、一際首を赤蛙に近づけて黒蛙は言った。
「僕は昔のことを思い出していたんだ。あの亀っておじさんが会いに来たときのことさ。覚えているかい?」
「うーん。そんなことも確かにあったような。」
「あのおじさんが蛙に楽園は完成したって言った。その後僕らはここへやってきたんだ。」
「そういえばそうだったような気もするね。」
「それで僕は思い出したんだ。あの時亀のおじさんは”蛇の楽園も完成した”って言っていたことを。」
「と、いうことは楽園がもう1つあるっていうことか…でも場所がわからないんじゃあしょうがないよ。」
「その時おじさんはその楽園の場所も言っていたんだ。僕はおぼろげだけどその言葉も覚えている。大丈夫きっと時間をかければたどり着くことができるはずさ!」
赤蛙も興奮しながらその話を聞いていた。
しかし自分を落ち着けるようにこう言った。
「でもそれって”蛇の”楽園なんでしょ?そこにはすでに蛇って奴がいて、蛙みたいにふんぞり返っているんじゃないかな?」
「大丈夫だよ!蛇ってのがどんな奴だったとしても蛙よりはわがままじゃないはずさ。それに僕はもうここより良い場所があるかもしれないってことを思い出しちゃったんだ。もうここに留まってはいられないよ。君がいかないって言うなら僕1人でも行くよ。」
それを聞いて赤蛙は黒蛙を引きとめる。
「待ってよ。君がいくなら僕もいくさ。あの蛙とここに残されるぐらいならたとえそこが荒野でもそっちのがましだよ。」
「よし来た。なら今すぐに出かけよう。蛙が目を覚ましてしまわないうちに…」
そう言うと赤蛙と黒蛙は足音をたてないようにこそこそと楽園の中を歩き、そして楽園を出て行った。
2匹が楽園を出て行ってかなり時間がたってからようやく蛙は目を覚ました。
あたりに2匹の姿がないのを見ても蛙はあわてなかった。
ああ、かくれんぼをしているんだなと思ったからだ。
だから蛙が赤蛙と黒蛙の2匹が自らの楽園のどこにもいないと気付いたのはそれから随分と後になってからであった。