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初めに竜があった  作者: 最黒福三
竜の時代
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それぞれの育成

亀は楽園にやってきて竜と再会するが竜の機嫌を損ねて楽園を追放されてしまう。しかし竜の命令である蛇と蛙の楽園建設はきちんとやる、と亀は言った。





 蛇と蛙それぞれの楽園を亀が完成させるまでにかなり時間があった。

 しかしその間蛇も蛙も遊んでいたわけではない。



 楽園には飛び切り大きな広間がいくつもあるが、蛇と蛙はそれぞれその内の1つを選び、自らの暮らす部屋とすることにした。

 何をするかといえばそこで卵の孵化を待つのである。

 そして生まれてきた子どもを自分の忠実なしもべとしてしつけるのだ。

 この世の支配者として君臨するために。

 蛇も蛙もやっきになって卵を温めた。






 蛇の部屋


 


 まず卵にひびが入ったのは蛇の部屋であった。

 ひびは縦に一筋に伸びていき、やがて卵は割れた。

 中からはぬめぬめとした液に覆われた蛙が這い出してきた。

 その蛙は生まれて初めて視界に入れた蛇にとにかく擦り寄っていった。

 しかし蛇はその蛙の赤ん坊を足蹴にして怒鳴りつけた。


「甘えるな!お前にはこれから厳しい訓練が待っているのだからな…」


 赤ん坊はぶるぶる震えながら蛇の目を見た。

 そこに優しさは全くなかった。

 しかしここは密室で逃げ場はない。

 蛙は恐ろしい形相の蛇に従うしかなかった。

 そうする以外に一体どういう道があったというのだろう?


 

 蛇は蛙を鍛えた。

 蛇は何度も蛙の体を打ちつけ、切り裂いた。

 蛙の体には常に傷がついているような状態になった。

 傷が治ってもまたその上からすぐに傷をつけられるので蛙の皮膚はどんどんごわごわに固くなっていった。

 亀のように背中だけではなく、全身が固くなっていったのだ。


 さらに蛇はどこかから固い岩を持ってきて、それを噛むように蛙に言った。

 そうすることで牙と顎を鍛えるのだという。

 蛙は言われるままに来る日も来る日も岩を噛み砕いた。

 その結果確かに蛙の牙は鋭く、顎は強靭になった。

 しかし無理をしたせいで蛙の口は醜く伸びきってしまった。


 これらの過酷な訓練の結果、蛙の体は生まれたときは似ても似つかないほどに変貌してしまった。

 その蛙の変わり果てた姿を見て蛇は言った。


「ここまで変わってしまったらもう蛙とはいえないな。お前はこれからは鰐と名乗るがいい。お前は弱弱しい蛙なんかじゃない。鋭い牙と強靭な顎で全てを噛み砕く獰猛な鰐だ。そのことを忘れるなよ…」


 鰐は深く礼をしてその名前を受け入れた。

 こうして蛇が貰い受けた卵から生まれた蛙は鰐として生まれ変わったのである。





 蛙の部屋


 


 一方、蛙が貰い受けた卵はなかなか孵化しなかった。

 卵を早く孵化させるためには愛情か、あるいは恐怖が必要であった。

 しかし蛙は愛情を受けるのは得意でも与えるのは苦手だった。

 そして孵化を早めるための恐怖も蛙には与えることができなかった。

 結果、蛇の部屋の卵よりも大分孵化は遅れてしまったのである。



 しかし時間は流れ、ついにその時が訪れる。

 ひびは2つ同時に入った。

 卵は割れ、2匹の蛙がはいずりだしてきた。

 1匹はとても明るい色をしていて、もう1匹はくすんだ暗い色をしている。

 2匹は目を閉じたり開いたりさせたり、体にまとわりつく液をわずらわしそうにぬぐったりしていた。

 なかなか蛙の方にやってこないので、じれた蛙はついに自分の方から2匹の元へとやってきた。


「おい、お前たち。この僕に何か言うことはないのか。」


「言うことってなにさ。というかあんた誰?」


 と、明るい色の方の蛙が言った。


「僕は蛙さ」


「それを言うなら僕たちだって蛙だよ」


 暗い色の方の蛙がそう答えた。


「同じ蛙でも、僕の方がずっと偉いんだ。だって僕は君たちよりもずっと早くに生まれたのだからね。君たちは僕のことをちゃんと敬って、僕の言うことを何でも聞かないといけないんだよ」

 

 新しく生まれた2匹はこう思った。確かに自分たちは生まれたばかりで、この世界のことについては何も知らなさすぎると。この世界のことについてある程度知ることが出来るようになるまでこの目の前の巨大な蛙の言うことを聞くのも悪くないかもしれない。そんな風に2匹は考えたのであった。


「わかったよ。僕たちは蛙さんの言うことを聞くよ。」


「そうだそれでいいんだ。…となると後は名前だね、うーんと…」


「名前ならちゃんとわかってるよ。僕たちは蛙だよ。」


「2匹とも蛙だと紛らわしいから駄目だよ。それに僕だって一応は蛙なんだからね。ちゃんと区別できるように名前はやっぱり必要さ。よし、じゃあ君は明るい色をしているから赤蛙、暗い色をしている君は黒蛙、それが君たちの名前だ!」


「はーい。」と赤蛙。


「うん。」と黒蛙。


 手を挙げて返事をする2匹の蛙を見て、今や2匹をしもべとして従えることになった蛙はうんうんと頷いた。

 後はきちんとこの2匹を育てあげさえすればもう蛇に嫌な思いはさせられないですむぞ、と蛙は鼻息を荒くした。


「ねえ蛙様、ところでここは狭苦しいよ。僕は外に出たいな。」


と、アカガエルが言った。


「え?そうだな。ま、いいか。生まれたばっかりだもの、色々見たいものね。じゃあ今日はこの楽園を色々と案内してあげるよ。ただし明日からはみっちりと特訓をするからね。」


 

 しかし翌日からもなかなか特訓は始まらなかった。

 「川に行きたい」とか「かくれんぼ」がしたいとせがむしもべたちについつい乗せられて蛙王は特訓の先延ばしをしてしまうのであった。

 蛙からすれば自分と同じ姿形のしもべ達は可愛かった。

 その可愛いしもべ達の喜ぶ姿を見ていると、憎き蛇とか、楽園の奥深くの部屋に放置している竜のことなどはどうでもよくなってきてしまうのであった。

 蛙は楽園の完成が待ち遠しかった。


「僕だけの楽園でこの可愛い赤蛙や黒蛙とずっと遊び続けることができたら…」


 蛙はそんなことを考えるようになっていた。



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