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初めに竜があった  作者: 最黒福三
竜の時代
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卵の分配 亀の地下迷宮

竜は蛙の卵を生むために力を使い果たしよぼよぼになる。洞窟の奥に置かれた卵めがけて蛇と蛙が走り出した。




 曲がりくねった洞窟の奥に回りよりも高くなった台があって、その上に卵が3つ置かれていた。

 先についたのは敏捷な蛇であった。


「こいつが蛙の卵か。確かに3つあるな。」


 蛇は卵を叩いたり蹴ったりして様子を見ている。

 まもなく蛙も洞窟の奥へやってきた。

 ぜーはー言いながら汗を流している。


「その卵に触るな!僕の子どもだぞ!」


「正確にはお前の子どもではないだろうに。」


「僕の忠実なしもべになるようしつけるんだから子どもも同じことだよ!さあ、卵は生まれたんだからもういいだろ!兄さんはちょっとどこかへ行っててくれよ。」


 そう言うと蛙は卵の下へ駆けつけようとした。

 しかしその前に蛇が立ちはだかる。


「そうはいかない。親父はもう卵を生むことはできまい。あんなに弱ってしまってはな…」


「そ、それがどうしたというんだよ。」


「俺も蛇の卵を親父に生んで欲しかったのになあ。お前が抜け駆けするからそれができなくなってしまった。さて…これにはどう責任をとってもらおうか。」


「ぼ、僕のせいじゃないよ。それはパパが弱ってるのがいけないんであって…」


「お前がいけない!」


 蛇は勢いよく洞窟の床を踏みしめた。

 みしみしと洞窟全体が揺れて上からぱらぱらと砂が落ちてくる。

 蛙は心底からぶるぶる恐怖で震えて何も言えなくなってしまった。

 蛇は蛙に近づき、にっこり微笑んで肩を組んで話しかけた。


「…俺も話しがわからないわけじゃないさ。だからな、卵を一つ、つまりしもべを俺に一匹くれよ。そうすれば許してやるさ。な?兄弟の間にわだかまりが残るのはよくないだろ?だからそれでこの話については手打ちってことにしようや。」


 蛙はしばらく迷ったあげくにその話を受け入れた。

 どの道受け入れなければひどい目に会うのだ。

 蛙には選択権はなかった。





 蛇は卵一つ、蛙は二つ抱え、二匹は洞窟から出てきた。

 洞窟の前では竜が苦しそうに息をしながら横たわっていた。


「おお、蛙に蛇。すまないが移動するのを手伝ってくれないか。恥ずかしいことだがもうそんな体力も残っていないのだ。ごほごほ。」


 蛇はあからさまに嫌な顔をしたが蛙は流石に駆け寄って竜に肩を貸した。

 ここで竜に嫌われたら楽園の建設を拒否されてしまうかもしれない。

 蛇はそう思いなおししぶしぶ竜に肩を貸した。

 親子は3匹つれだって上の泉を目指していった。










 丁度その頃、亀は長い旅を終えてようやく3つの卵の殻が横たわる荒野に戻ってきていた。

 しかしそこには竜も蛇も蛙もいなかった。

 みんなどこにいったのだろうな?と亀は考えた。

 この近くに亀が竜のため特別に作ってあげた泉へでも連れていったのだろうか?

 しかしあそこは竜が大変気に入っている場所だ。

 あまりに気に入りすぎてそれを作った亀でさえも容易には入れてもらえなかったのだ。

 そににぽっと出の蛇や蛙を竜が案内するわけはない。

 そう考え、泉をめざそうとは亀は考えなかった。


「とりあえずここで待っていることにしよう。」


 そうつぶやいて亀は近くの岩に腰掛けた。

 青い空で白い雲がゆっくりと動いている。

 特にすることもなかったので亀は考え事をすることにした。





 蛇はどんどん竜が堕落していくと言った。

 確かに竜の力は弱まっている。

 そこにつけこんで蛙やトカゲ、あるいは蛇などが竜を堕落させるということはありそうな話だ、と亀は思った。


 亀は、自分が竜に疎まれている、ということも十分わかっていた。

 竜が亀を始末してしまおうと決断しない、と言い切ることはできなかった。

 確かに大地のことについて竜よりもはるかによく知っている亀は竜にとって邪魔者かもしれないのだ。


 しかしそれが一体なんだというのだろう?

 自分は竜のおかげでこの世界に生まれることができた。

今また竜の勝手で殺されたとしてもそれは竜の自由ではないだろうか?

少なくとも一度は竜は亀を確かに子どもだと認めてくれたのだ。

どんな幸せも永遠ということはないだろう。

仮に今竜が亀のことを嫌っているとしても、かつてあったあの幸福が消え去ってしまうわけではないのだ。


 だとすれば今の自分に必要なのはあくまでも竜に服従し続けることではないだろうか。

 たとえどれだけ堕落してしまったとしても竜は竜だ。自分の父親だ。

 かつてしてくれたようにまた竜が自分を抱きしめてくれるかもしれない、という打算で服従するのではない。

 あのとき抱きしめてもらえて僕は本当に嬉しかった、幸せだったということを証明するために誠心誠意真心をこめて僕は竜に服従するのだ。

 それはとても前向きな行為なのではないだろうか…




 と、まあ亀はとにもかくにも色々と考えた。

 そして思考の道筋は複雑な経路をたどった末に結局自分はたとえ何があっても竜を裏切るまい、という決心をさせるに至ったのである。

 亀もなんだかんだで竜の次に年寄りだった。

 そして頑固だった。

 知恵があるから頑固、なのか、知恵があるのに頑固、なのかわからないがとにかくその頑固さえゆえに亀はどうも一番報われなさそうな決断をしてしまったのである。



 竜のためにあくまでも頑張ろう、と一度決心すると亀は元気になった。

 何か自分にできることはないか、と思って辺りを見渡す。

 すると真っ先に目に入ってきたのは蛇、蛙、トカゲが出てきた卵の殻である。

 それを見て亀は2つの記憶を思い出した。


 1つ目は竜がかつて話してくれたことである。


 竜は自分が生まれ出てきた卵の殻を口から入れて食べた。

 すると竜の体はどんどん大きくなっていった。

 ある程度大きくなると皮を脱ぎ捨てた。

 そして脱ぎ捨てた皮が重なって大地となったのだ…

 竜は卵の殻を食べると大きくなるだけでなくもりもり元気がわいてくるとも言っていた。

 今では卵の殻は食い尽くしてしまったのでもうない。

 もう一度食べたいぞ。

 そう竜は言っていたのだ。



 2つ目は二度目の産卵を終えてすっかりやせ細ってしまった竜の姿のイメージである。

 空を我が物顔で飛び回っていた竜の姿を知っている亀にはそれは直視するのも辛いことであった。



 亀はその2つの記憶と、目の前の卵の殻を総合させてこういうことを考えた。


「これを食べさせれば竜は少しは元気になってくれるのではないか?」


 そう考えると亀はすぐに行動した。

 亀は卵の殻を3つかきあつめるとそれを持って近くの崖へと向かった。

 亀は崖に寄り添ってある岩のひとつを体全体で押して移動させた。

 すると地下深くへと通じる穴がぽっかりと顔を見せた。

 これは亀がかなり広範囲にはりめぐらせた地下迷宮への入り口であった。

 地上への出入り口はあちこちにあって、この地下を移動することによって地上のとんでもないところに不意に亀は姿を現すことができたのである。

 この存在は竜も知らないことであった。

 亀はこの迷宮に卵の殻を一旦隠すことにしたのである。

 蛇や蛙の前で卵の殻を竜に差し出したらきっと奴らは自分にも食わせろ!と言い出すに決まっている。

 だから後でこっそりと竜だけここに連れてきて卵の殻を食わせることにしよう。

 そう亀は画策したのであった。


「これも全ては父である竜のため…」


 深く暗い迷宮をはいずりまわりながら亀は自分を奮い立たせるようにつぶやくのであった。


 

 

 

 





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