竜の三度目の産卵
蛇は蛙を力でねじ伏せる。蛙は蛇の楽園も作ってもらえるよう竜に頼んであげるといって難を逃れる。二匹は竜が産卵をしている洞窟の前に座り込んで竜が出てくるのを待っている。
竜も蛙もあまりにも長い時間待っていたのでうつらうつらとしていた。
しかし「ゴゴゴゴ…」という重い石扉が開く音で目を覚ました。
産卵が終わり、竜が出てこようとしているのだ。
蛇にとっては久しぶりの再会なのでさすがに緊張した。
唾をごくりと飲んで徐々に露わになってくる竜の姿を見つめる…
「うぉっ。」
「げぇっ。」
開かれた扉の先から現れた竜の姿を認めて蛇と蛙は奇妙な声をあげて驚いた。
目の前に現れた竜は以前の屈強な姿などは面影もない、よぼよぼの骨と皮だけの姿になってしまっていたのである。
翼は薄く小さくなり背中にゴミのようにはりつき、あんなにするどかった爪や牙は全て抜け落ちてしまっていた。
鱗などは全て泥のようにくすんだ色になってしまっていた。
(力が弱まっているとは思っていたけれど、ここまでとは。産卵でほとんど力を使い果たしてしまったんだ。)
蛙はそう思った。
こうまで弱まってしまってはもう蛇にすら力では敵わない。
楽園はどうせ作るのはほとんど亀だろうから、亀に対して楽園の建設を命じる体力ぐらいは残っているだろうか。
いずれにしてもそれさえ済めば竜はもう…
(用済みだな。)
蛙はそう思った。
蛇はあまりにも竜の力が弱まっているので最初は驚いたが、すぐにこれは好都合だと思った。
これだけ竜が弱まったのなら今この世界で一番強いのは俺だ。
後は蛙の卵さえどうにかしてしまえばもう蛙でもどうにもできなくなる。
永遠の俺の天下だ!
へばりつく竜を見下しながら蛇は話しかける。
「おい親父。卵はどうしたんだ?一体いくつ生んだんだ!」
竜は目だけギョロリと動かして蛇をにらみつけた。
しかしそこに威厳は微塵もなかった。
「お前は蛇か。この俺にあんな口をきいておいておめおめと帰ってくるとは…げほげほ。待ってろ、今お前を痛い目にあわせてやるからな…」
「そのことについては謝るさ。この通りだ、許してくれ。そんなことよりも今は卵だ。っ卵はどこにあるんだ、ええ?産卵していたんだろ今まで!」
竜はムッとしたものの張り合う気力ももう残っていなかったので蛇のことはもう許すことにした。
竜はゆっくりとした動作で洞窟の奥の方を振り向いて言った。
「奥にあるよ。3つ生んだ。今の体力ではそれが限界なんだよ。」
それを聞いた瞬間蛇は洞窟の奥へとむかって駆け出した。
蛙もそれを見て駆け出した。
脇を通り過ぎていく蛙を竜は呼び止めようと話しかけた。
「おお、俺の愛する子ども、蛙よ。俺はお前のために卵を3つも生んだぞ…どうだ…俺はいい父親だろう、げほげほ。」
「あ、ごめんねパパ。ちょっと急ぐから。」
と言うと蛙は竜のことを見もせずに蛇の後を追って洞窟の中へ入っていった。
急ぐなら仕方ない、と竜は自分に言い聞かせてその場に身を横たえた。
瞳ににじむ涙は悲しいからじゃない。
ただ大仕事をやり終えることができて嬉しいからだもんね。
竜はただただ目をつむってそうに違いないと頭の中で呪文のように唱え続けていた。