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初めに竜があった  作者: 最黒福三
竜の時代
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蛇と蛙

蛙のおねだりを受けて竜は産卵をするために洞窟にこもった。トカゲは楽園を去っていった。蛇は産卵をさせまいと竜と蛙がいる楽園へとひた走る。





「なんじゃこりゃ。」


 竜は目の前の構造物を見上げて息を巻いた。

 一つの山を切り出して作った楽園。

 あちこちに水路が流れ、回廊が走り、竜を模した巨大な石像までが設置されている。

 蛇はその壮大さに一瞬気おされたがすぐに気を取り直して中へと入っていった。


 

 正面の門から入り、いくつもの階段をあがり、壁をよじのぼり、行き止まりにぶちあたりながらもようやく見晴らしのいい高台に出た。

 そこには巨大な泉があり、そのそばに展望台がのびている。

 その展望台の上で蛙がふんぞりかえっているのを蛇は見た。

 蛇はすごい勢いで展望台を登りその頂上に出る。

 蛙は豪勢な玉座の上に座って広い大地を見渡していた。



「おい蛙。親父はどこにいるんだ?産卵とは一体どういうことなんだ?」


 蛇は蛙の正面に回り、蛙のたぷたぷの胸をつかんでそう話しかけた。


「なんだ、蛇の兄さんか。…というか痛いよ、胸をつかまないでよ。爪が食い込んで痛いってば。」


 蛙はうっとおしそうに蛇の手を払いのけた。


「産卵は産卵さ。僕は自分と同じ姿形をパパに何匹か生んでもらうのさ。それの何がいけないんだ?」


「お前は自分の仲間を増やして、そしてこの世界を竜に支配するつもりなんだろう?そんなことはさせんぞ!」


「ちょっと待ってよ。僕は何もこの大地全てを支配しようとは思っていないさ。僕は僕の楽園でだけ王様になれればいいと思っているのさ。」


「楽園、とはこの山のことか?」


 蛇は眼下に広がる構造物を指差しそう言った。


「違う違う。もう一つ僕専用の楽園を作ってもらうつもりなのさ。」


「お前はそんなことまで親父にしてもらえるというのか…?」


「兄さんがいない間に僕はずっとパパのご機嫌をとっていたからね。そんなことは簡単さ。そうだ、僕がパパに頼んで兄さんの楽園も作ってもらおうか?僕が頼めばきっと二つ返事でOKしてくれるよ。」


「ふーむ…。」


 腕力は蛙よりは蛇の方が圧倒的に強かった。

 だから蛙は蛇があらわれて内心びくびくしていた。

 蛇にひどいことをされないためにはどうすればいいかと考えた結果、蛇の楽園の建設を蛙は提案したのである。

 後のことよりもとにかく今の身の安全を蛙は確保したのである。



 蛇は腕を組んで考えていたが急に目をかっと見開きそしてこう言った。


「その話乗った!」


「そうかい。じゃあパパの産卵が終わった後で僕が頼んであげるよ。そのかわり僕には危害を加えないって約束してくれよ。」


「ふん…いいだろう。ただしそのためにはもう一つ条件がある。」


「な、なに?」


「親父に生ませる卵…その半分は蛇にしろ。」


「な、なんだって?それはさすがに無理だよ。」


「無理かどうかはお前が決めることじゃない。交渉は俺がする。お前は親父の居場所を教えてくれるだけでいい。」


「ええ?そ、それは…。」


「嫌なのか?それならお前の生涯はここで幕を閉じることになる。短い付き合いだった、じゃあな。」


 といって蛇はぎらりと輝く爪を蛙の首につきつけた。

 蛙は飛び上がって首をぶんぶん振った。


「わ、わかったよ。教えるよ。でもパパがこもっている洞窟の扉は固く閉ざされているよ。パパが自分で閉めた扉だから僕では開けられない。多分行っても意味がないんじゃないかな…」


「いいから早く教えろ!」


「は、はい!この展望台を降りて…」


 洞窟の場所を教えると蛇はふんぞりがえってそこを目指して歩き始めた。

 蛙も一緒についていくことを強要された。

 蛇の後ろからついていきながら蛙はいつか絶対こいつに復讐してやるぞ、と固く心に誓ったのであった。






「ここがそうか…」


 蛇は巨大な石の扉の前に立った。

 扉は蛇の背丈ほどもある上に分厚く、打ち破ることは不可能なようであった。


 蛇はどんどんと扉を叩いたり蹴ったりしてみる。

 しかし扉はびくともしない。


「確かにこの扉でしっかりと洞窟は封印されているな。」


「で、でしょ?だから無駄だっていったんだ。こ、ここにいても無意味だから上の泉で一緒に遊ぼうよ。きっと楽しいよ!」


「おい。」


 蛇はどすの利いた声で言った。


「な、なに?」


「俺に媚びは通用しねえ。俺は親父みたいな老いぼれとは違うんだ。わかったら二度とそんな気色悪い甘えた声で話しかけてくんな。次そんな声を出したら問答無用でぶっ殺すからな。」


「わ、わかったよはは…ごめんね。」


 笑顔でなんとか取り繕ったものの蛙の腹の中はもうぐっつぐつのぎったぎただった。蛇のような力のある奴にはわからない…非力な者の執念を。蛙は何度も何度も頭の中で蛇を八つ裂きにするところをイメージした。




「しかしとはいえこんな風に閉ざされたんじゃ親父とは産卵が終わるまでは会えそうにもないな。」


「そ、そうだね。とりあえずここは狭いしとりあえず上に。」


「いや、ここで待つ。」


 と言って蛇は扉のそばに腰を下ろした。

 蛙も仕方なく蛇に続いて腰を下ろす。

 そして気まずい沈黙が場を支配した。

 蛇は目を閉じて何か考え事をしてるし、蛙は蛇を怒らせるのを恐れて何も話さない。

 ただ聞こえるのはどこかの水が流れる音ばかりであった。



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