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初めに竜があった  作者: 最黒福三
竜の時代
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竜の三度目の産卵準備 トカゲの自主追放 蛇の焦り

蛙は竜に2つのおねだりをした。一つは自分専用の楽園、そしてもう一つは自分と姿かたちが同じ蛙を産んでほしいということ。





 竜は蛙に聞き返す。


「なんと、俺にもっと卵を産んでほしいと言うのか。」


「そうだよ、ただの卵じゃない。僕とまったく同じ、すなわち蛙の卵を生んでほしいのさ。できれば一匹じゃなくて何匹も。」


「蛙を増やしてどうするというんだ?」


「蛙を僕の楽園に連れていく。そしてそこで僕が蛙の王様になるのさ!」


「王様?王様になるとは…つまりどういうことだ?」


「たくさんの蛙の上に立って色々命令できるようになるということさ。だからつまり僕たちにとってのパパみたいな存在に僕がなるってことさ。もちろんそれは楽園の中でだけだし、蛙たちだけに対してだけどね!」


「まあ正直なんだかよくわからんが蛙たちを作ってやるのは構わん。構わんが、俺の力も大分衰えてきたからな。正直卵を生むのは疲れるんだよな。げほげほ。」


「パパの力は衰えていないよ。今でもパパは強くてかっこいい、唯一無二の存在さ。だから頑張って僕のために卵を生んでおくれよ。」


「そこまでいわれたら仕方がない。いっちょ頑張ってもうひとふんばりするか!しかしやはり時間はかかってしまいそうだ。まあ気長に待っていてくれ。」


 そういうと竜は重い腰をあげて楽園に無数にある洞窟の中の一つに入っていった。

 蛙は「頑張って…」と声をかけて竜を見送った。

 竜が完全に洞窟へと姿を消してから蛙は舌をべろりと出し、顔を歪ませて笑った。







 一方トカゲ。


 蛙が独占的に竜と仲良くなるにつれてほとんどトカゲの存在は無視されるようになってしまった。

 蛙がどこかへ行っている隙に竜に近づき声をかけてみたことは何度もあった。

 しかしそんな時竜は必ず眠っていた。

 四六時中蛙と遊んでいたから竜は常に疲れていたのだろう。

 トカゲに竜を起こす勇気はなかった。

 そうこうしているとすぐに蛙が戻ってきてトカゲをおしのけ、竜を起こして遊びを再開してしまうのである。

 蛙はともかく、竜はほぼ完全にトカゲの存在など忘れてしまっていた。



 そしていつのまにか竜は蛙にねだられるままに産卵することを承諾し、洞窟へとこもってしまったのである。

 トカゲはここに至って竜に完全に失望した。

 これじゃ竜は蛙の操り人形じゃないか。

 こんな茶番には付き合ってられない…



 そう思ったトカゲは楽園を離れた。

 展望台の上からトカゲが楽園を去っていく姿を見ていた蛙はただ「邪魔者がいなくなってくれてよかった、よかった。」と思っただけだった。



 トカゲは亀ほどに忠誠心を持つことも、蛇ほどに対抗心を燃やすことも、蛙ほどに甘えることもできなかった。

 のけ者にされたトカゲはただそのことを受け入れた。

 トカゲはたとえ世界の果てまで行ってでも、自分の力だけで生きていってやろうと日差しが強く照りつける荒野の中をゆっくり這っていきながら誓ったのである。






 トカゲは自分と蛇と蛙が誕生したあたりまでやってきた。

 どこへいくともなく這っていたらここに出てきてしまったのである。

 そこには自分たちが生まれでてきた卵の殻がまだ3つ放置されていた。

 そしてそのあたりを谷から戻ってきた蛇がうろうろしていた。

 トカゲは見つからないように逃げてしまおうと思ったけれど、目ざとい蛇が先にトカゲの存在を見つけてしまった。

 蛇はものすごいスピードでトカゲのそばへ寄ってきた。


「お前は確かトカゲだったな?おいどうして親父たちはいないんだ?ここで待っていると言ったじゃないか。」


「ああ。竜と蛙は楽園にいるよ。あんまり来ないんで待ちくたびれてしまったのさ。」


「楽園?なんだそれは、一体どこにあるんだ?」


 蛇はトカゲから楽園とは何かということと、そこまでの道筋を聞き出した。


「なるほどね、そんなものもあるんだな。ま、そこへ行けば親父に会うことができるってわけだな。」


「お父さんはそこにいるよ、だけど会えるかどうかはわからないね…」


「どういうことだ?」


 トカゲは蛙のおねだりを受けて竜が産卵しようとしていることを話した。

 それだけでなく蛙が蛇と亀がいなくなっていた間に相当の寵愛を受けていて、他の子どものことなんて竜にとってはもうどうでもよくなっているということも話した。

 別に何か策略があって話したわけじゃない。

 ただ自分が感じたみじめさや孤独、そういうものをほんの少しでもいいから誰かと共有したかっただけだ。本当にそれだけだ。


「まずいことになったぜ。それをされちまったら地上で蛙にはむかうことが出来る奴はいなくなっちまう。ちくしょう、こうしちゃあおけねえ。はやいとこその楽園に行って産卵をやめさせないと…」


 そう言って蛇は駆け出す態勢になった。

 しかしそれから何か思い出したようにトカゲの方を振り返ってこう言った。


「ところでお前はどこに行くんだ?」


「私はもううんざりしたんだ。こういうごちゃごちゃしたことをしなくてもいい場所、ここからずっと遠くへ行くよ。」


「ふーん。まあ誰がどんなことをしようが俺には関係ないがね…」


 明らかに蛇はトカゲを蔑むような目で見た。

 目の前のことから逃げる愚図、臆病者。

 蛇はトカゲのことをそう認識した。

 ここからずっと遠く?大地は地続きだ、逃げ場所なんてないんだよ。

 蛇はそう思ったが口には出さない。

 その代わりに楽園の方を向き、そして風よりもはやいスピードで駆けていった。

 駆けていく内にトカゲのことは完全に忘れてしまった。


「蛙の好き勝手にはさせんからな!」


 今、蛇の頭にあるのはそればかりであった。


 

 蛇が駆けた後、まきあがる砂埃を見つめながらトカゲはぼそりとつぶやいた。


「うんざりなんだよ。」


 そしてトカゲもその場を離れていった。

 荒野には元の通り卵の殻がぽつんと3つ残るばかりである。



 







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