竜の誕生
一番最初に竜があった。
竜といっても爬虫類だ。
だから卵から生まれたということだけはわかる。
その卵がどこからきたのか?
これについてはちょっとよくわからない。
どこかの親切な人が宅配便か何かで届けてくれたのかもしれない。
卵を突き破って竜は卵から這い出してくる。
初めは目も見えないし耳も聞こえない。
じっと黙って静かな闇に耐えている。
やがて段々と目も耳も使えるようになってくる。
だけどあんまり変わらない。
大したものは何もなかったし、聞こえるものといっても自分の鼓動と呼吸の音ぐらい のものだったから。
竜は腹が減ったら自分が出てきた卵の殻を食べた。
本当に大きい殻だった。
どれくらいかといえば東京ドームくらい。
それで一噛みすればおなかは膨れたから竜はしばらくは飢えることがなかった。
竜はどんどん大きくなっていった。
ある程度まで大きくなるとそれまでの皮を脱ぎ捨ててプルプルの胎児のような肌に生まれ変わり、さらに大きくなっていった。
脱ぎ捨てた皮はあたりに積み重なっていって、やがてそれが大地となった。
竜は今まで宙に浮かんでいたのだ。
そんなの簡単。
だって竜だから翼がある。
でも大地ができたから竜は飛ばなくてもよくなった。
竜も大地もどんどん大きくなっていったけれど、やがてそれも止まった。
竜は卵の殻を食い尽くしてしまったのだ。
「もう全部食べてしまったんだ…」
食い尽くしてから竜は気付いのだ。
だけどもう襲い。
あの暖かな、自分を包んでくれた暖かい殻はもうない。
自分の体がこれ以上大きくなることもない。
したがって大地もこれ以上は大きくならない。
そのことに気付き、竜は生まれて初めて戦慄した。
自分はもしかしたら取り返しのつかないことをしてしまったのではないだろうか?