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Distorted  作者: ロースト
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四章-10

「おぃおぃ、俺らは無視か?フォックス」

「……」

 一瞥のみを向け、ロードに視線を合わせ直した。周囲で怒気が膨れ上がるのを感じたが、今この場でもっとも警戒すべきはロードに違いない。仲間であったことに違いはない。しかし、ロードはギルド内でも有数の二つ名を持つ者だ。その実力は一番の新参者であったにも拘らずロキに気に入られ連れまわされていたことからも、よくわかる。

「ちっ!裏切り者はこれだから――」

「裏切り者?――ロキがそう言ったのか?」

 一人の漏らした言葉を、聞きとがめて確かめるように自らの口で木霊させた。

 運が良かったのか、悪かったのか。その言葉は閑静な世界に広がり、回収された。

「何言ってやがる。歴然とした事実だろ」

「……ロキが?」

 再び、口にして。――確信した。


「示崎杏って言うんだな、本当は」

 一人が口を開く。

「ずいぶんかわいらしい名じゃないか、高校生活はどうだ?――お前がここで俺たちに犯されたら、クラスメイトたちはどう思うよ?」

 それはヴィオが隣にいることを考慮した揶揄だった。

 彼らの登場によって、それは驚きでない別の物によって、固まり身を縮こませていたヴィオは戦闘意欲が失せていた。――二年前の事件。ロキの裏切りとはまた別でありながら、連続するように因果で結ばれた事件。……かつての仲間からの暴行。

 集団で一人を追い詰めるやり方はヴィオが知るものではなかった。卑怯な手、とロキならば言ったろう。そこに幹部クラスの人間が一人でもいれば止められただろう、一方的な復讐。それは一般に仲間殺し(プレイヤーキラー)と呼ばれる、ジェミニでもっとも重い、それでいて法というものに縛られない、無秩序なる思考からの行動だった。死を予感させる感覚を強制する行為。

 かつての仲間は裏切り者への制裁を掲げた。対象は、何かを知らされることなく、同時に被害者でもあったヴィオ。裏切り者の汚名を被され、仲間に抵抗することも出来ず、一方的に嬲られた。真に“裏切り者”と呼ばれるべき僕は、その間、ログインすることも出来ず、止めるどころか、知ったのはもう一人の仲間、カルティエッタからの連絡があったからだった。――合わせる顔もなく、カルティエッタにヴィオのことを任せて国外へ逃げたのは僕だ。卑怯で情けなくて、何も出来なくて。……そして、二年の時間が過ぎた。

「淫乱?すげぇって?そのすました顔がいつまで持つか楽しみだぜ。ネットで全国に見せてあげなきゃな」

「……とんだ馬鹿もいたもんだね」

 ヴィオのことを聞き知っていると思い、動揺を誘う言葉を発する彼らが哀れに思えた。

 確かに聞き知っている。ヴィオが何をされたのか――それに、僕は怒っているのだ。

「素直に従うとでも?前提が違うよ。僕が負けると思うの」

 勝手が違う。ヴィオは仲間に手出しが出来なかった。戦闘スタイルが適応しなかった。実力が足りなかったわけじゃない。一方的な暴行は受けない。もちろん、僕への強姦なんて、現実でも仮想でも、ありえない。

 手を、握り締める。

「お前の糸は相手にどれだけ悟らせないか、死角をつく。罠と誘いが常套手段のフォックスにはこの奇襲は鬼門。さらに大規模攻撃を行うには事前準備と場所が必要」

 思考を読んだかのタイミングの言葉に笑いが出そうだった。

 僕のキャラである傀儡士の武器は糸。それのみ。範囲攻撃も単体攻撃も自由に行える利便性と軽さが利点。しかし、その悪癖は前もって対処しなければ扱い辛いどころか己を傷つける諸刃。――けれど、“だからこそ”だ。


「人が来ることを予想していなかったお前は罠を張っていない上、ここを壊すような事態は避けたいはずだ」

 言い終わることもなく、ロードは凶刃を無造作に振るった。それに伴い、神像を壊さんとする意図に絡める、白。

 ――ヒュン!

 音が後に届く。どちらも本気ではない。ただの確認動作のようなものだ。

 しかし、実力は一般プレイヤーと隔てられている。そのことをロードは自覚しているのか。――異常な急成長に、現実を認識しているのか。

「ほらな。この柱が壊れたらその扉は閉まる。お前はヴィオの戻る道を残すためにここを守って戦う必要がある。どこに負けるだけの理由がある?」


 哂う。

「ヴィオ」


「行って。大丈夫、ここは任せて」

「だが」

「自信があるから。負けない、絶対の確信を持って言えるよ」

 己の唯一つの武器を、握り締めた。

「……わかった、気をつけろよ」

「そっちこそ。――すべて、終わったら話したいことがある」

 その言葉に、僕はただ頷いた。


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