一章-8
とにかく話を戻すと――この少女は露出系ロリータファッションの格好なのだ。それも見事なピンク。現実でもこんな格好をしているのだろうか、それはどこかの街の一部の人たちに熱狂的なファンが着くだろうが、多くの者は引く、少なくとも他人の目が気になってさり気無く距離を置くことは間違いない。
「大丈夫……と言いたいけど平気じゃない。でも気にしないで、見っとも無いだけだしさ」
「そ、そうですか……」
関わりたくないという思いを隠して格好つけてみせる。相手も若干引いた。
これまで多種多様な言葉を飾って思い浮かべたキャラとは性格や外見のことを指すが、役とは人格のこと、というのが主な概念だ。それだけが共通認識として分かっていれば問題はない。なぜなら、現実的にロールを替える者もログを二つ持つ者もいない。めったに、いない。僕の場合は特殊なだけだ。このログでの僕はプレイヤー・リスタ、職業は傀儡士、その外は詳細不明などという中々に謎な役となっている。もう一つの方は既に過去で、持っているだけ、もうずっと使用していない。
「僕に用があるの?そうじゃないなら向こう行ってほしいんだけど」
「へ?」
「あ、いいや。僕が行くし」
じゃあね、と言い置く。とりあえず、レベル1からなので適当に経験値を稼ぐことにする。随分間が空いたことだし勘も鈍っているだろう。何せ留学期間中はやっていないので約二年のブランクだ。けれど戦場で戦うことの勘なんて取り戻すことに意味はあるのだろうか。この日本という国はとても平穏な平和主義国家なのに。しかしまあ、僕の歩くところに危険がある、というような体質だから日本でも危機に陥る可能性はあるんだけどね。
二年間の留学先であるアメリカでは凄いことが起こった。ある有名大学に通っていたのだが実質はNNMというちょっとおかしな人の集まるサークルに出入りすることが多かった。名前だけは世界的に有名な変人が揃っていた。サヴァンの集合体じゃないかというぐらいに偏った欠陥品の天才たちが集結していたのだ。まぁ、超一流有名大学だから当たり前だけれど。しかも何故か僕はそんな奴らに気に入られる体質でもあったらしくまとわりつかれていた。行く先行く先で問題を起こしてくれる凶悪なトラブルメーカーたちに何度命の危険を感じさせられたか。本人に悪気はないんだろうけど。
ただし、僕の体質により物事がより大きくなった可能性は考えないことにする。
(とりあえず、何をするにもメニューからだ)
意識すると視界の上部にメニューが表示された。横にスライドする画面は携帯かパソコンのデスクトップに似ている。半透明のシールが張ってあるサングラスをかけているような置き型の状態にもできるが、何より見辛いのでメニューは小さく隅に追いやって視界はクリアにする方向だ。補助機能として、コントローラー代わりに携帯がプレイヤーには配られている。バッグの役割も兼ねていて、視界スクリーンは行動系のもの担当。現実世界から初めに降り立つこの街、ホームタウンからエリアへ出かけるにも、エリアから帰って来るにも、この視界スクリーンで操作することになる。僕は視界に映し出されたメニューを、感覚のみでクリック。思考の動きから画面が開く。
この世界には神がいる。金の属性のナヴィアは黄金を液体のようにして掲げ、嘆きの涙のように掌から雫を零す。火属性のフェノーバは祈りを炎に飛び散る翼に預け首を垂れる。水属性のゼブルクは人に罰を与える大自然の怒りのように水柱を迸らせる木属性ザメロは喜びを示すように足元から生命の息吹を広げて芽吹かせる。僕の解釈は違うが、通説はそんなもの。この世界は信仰する神に従いエリアの属性も変化する。さて、どこから浸食を始め(でかけ)ようかと神を眺めた。