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Distorted  作者: ロースト
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四章-3


「酒飲めー酒ぇ!」

 酒臭い息をする彼女の近寄る顔を手で押しのけ拒絶する。

「いや遠慮します」

「――あぁん?あたしの酒が飲めないってぇいうのぉ!」

 彼女は見事な絡み酒だった。先ほどの、場の雰囲気を盛り上げるような掛け声は本心だったのか、と納得する。彼女はそういう器用なことが出来る人物ではないと思い出した。

「僕は未成年ですよ。法律って言葉覚えてます?わかってます?勧めないでくださいよ」

 軽い犯罪教唆の彼女に苦笑を覚える。柏は大丈夫だろうか。様子を見たいが先程からここを離れられない。何故か女性陣・男性陣というようにグループが分かれてしまっていて、女性に気圧される状況は以前ジェミニで海底洞窟エリアに行った時のようだ。

「隊長に見られたら――」

「なによぉ、嫌われたくないからってぇー!」

 反論に一番の常識人を持ち出せば、変に気を引いてしまったようだった。食いつくように顔を見られ、次の瞬間には背中を強い力でバンバンと叩かれる。

「ちょ、……痛っ」

「ということで、示崎は新しい恋を探したほうがいいのよ」

(――どんなふうに『ということで』なんですか)

「報われない片恋・失恋には新しい恋っていうのが解毒薬なの!」

(――病気ですか?ていうか失恋って?誰のことを言ってるんだか)

 抗議も聞かずにジョッキ片手でクドクド話し続ける海和に冷めた視線を送るが効果はなさそうだった。

「あら、恋は病よ?ほら、同じクラスの寿々原くんは?」

「はぁ?なんで寿々原が出てくるんですか」

 カルティエッタが悪ノリして会話に入ってくる。――というか、どこからそんな情報を手に入れたんだ。

「イケメンだし、仲いいんでしょ。あんたら」

 友人をそんなことにあげないでほしい。

「向こうも意識してると思うのよねー。ぐふふふふ……」

「すみませんがどこからそんな間違った見解を?僕よりも来住の方が随分仲いいですし」

「あら、つまんない」

 本人のいない場で証拠も無しに決定的のように言うのはどうだろうか。好き勝手言われている二人も顔をあわせたことも無い人たちの肴になったあげく批難されているとは思いもよらないだろう。不運なことだが僕の不運体質とは今回、関係なさそうだ。

「示崎、あんたって本当――性格歪んでるわね」

 何故いきなりそんなことを言われなければならないのかはともかく、

「数少ない友人ですよ」


「……そこらへんの事情は私には分からないけれど。だから、アンタは隊長が好きなのよね……」


「――はぁ!?ちょ、待って!勘違いですソレっ!」

「なんですかそれっ!」


 何をどう解釈したんだと二の句を告げる前に跳び入る悲鳴のような抗議。志浩だ。他にもう一つ、遠い場所で変態(ジン)の声が聞こえた気がしたが、それはまぁ、いい。

「いいのよ、慌てなくて。皆分かってるし」

「く、詳しく教えてくださいっ!私が、私がぁぁ――!」

「何を!?隊長には憧れるけど、一個人としては苦手な部類です!恋愛感情は持ってないっ!」

 わかったような口調で勝手に人の心情を語るな、と言いたいが酔っ払い相手には暖簾に腕押しだ。

「――って言われてますよ、たーいちょう?」

 視線を後ろに流すカルティエッタと海和に釣られて、動かす視線。

「……俺にどういう反応をしろと?」

 ……僕もどんな反応をすればいいと?

 自己分析は珍しく自分に行えない事態であったし冷や汗をかいていた。

「では私がっ!」

「「それは違うだろ」」

 名乗り上げる志浩にツッコミが入った。僕と、葛原。そのことになぜか多大なるダメージを受けた気がする。

「いいえ!性別なんて越えてやる、ぐらいの気概がなきゃだめなんです!好きなら当然でしたっ」

「変なこと悟んないで!」

 その宣言には悲鳴のような言葉が出た。

「変なひと多くなってないかしら……?」

(あなたが原因です)

 急に正気に戻った海和に心の中で呟いた。




「――隊長。相談、乗ってくれませんかね?」

「酔っているのか?」

「ははっ!そう、かもしれないです。うん、酔ってるんですよ、今は」

 今はもう、ただ仲間という存在の有り難さに浸って。

「僕は……間違っているでしょうか」

 縋るような、祈りのような、問いかけ。

「後悔はするつもりがなかった。けれど、けれど……っ」


「初めから、どこか掛け違えていたような気がするんです。それでもここまで歩き続けて、見ないように目を伏せていて、本当にあるかどうかもわからないものに怯えていたんです……」

 僕は酔っている。だからこんなことを言っているんだ。でも、だからこそ、こんなことを言えるのは十二しかいなかった。冷静に、聞いてくれる大人がよかった。親身になり過ぎない人が良かった。事情を詳しく知らない人が良くて、でもそれでは理解できないから――ちょうどいい距離の他人。聞くには十分な事情を知っていて、でも深入りしない人。そんな人が、十二だった。


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