三章-21
「……甘やかしすぎです」
「それしかできないからな。――大人に甘えるのが子どもの役割だ」
「余り年が変わらない異性ですよ?」
「心配するなよ、後見人なんだ」
「ですね」
“そういうふう”に見て欲しいと思ったことがあるというのは秘密だった。
彼が僕のことをどう思っているのか、そんなことも分からない。
分からない事は僕にとって嫌なものだ。理解もなしに嘘をつけるわけでもない。彼がわからない。嘘が通じない彼が苦手だ。――それなのに、僕は静さんの傍にいるのを心地よいと思っている。
「静さん、もう暫くここにいていい?」
降りてきた掌を取って頬を寄せる。大きな掌だ。この手が、いつも僕らを守ってくれている。本当に、身勝手な未成年たちだから。迷惑をかけているのは解っていても、何も代われない。
「余り年の変わらない異性だ」
「心配ないです。後見人ですから」
苦笑した。その頬を触れば随分と冷たかった。そして、ジッと眼を見つめる。
「……敵わないな。いつバレた?」
「疲れた顔、してますよ。睡眠取って下さいよ。身体が資本っていうでしょ?」
すっかり眼を縁取る隈が出来ているのに、それは化粧でなのか随分と薄められていた。
周囲にも気を使って、疲れていることを誰にも悟られないようにして、そうして苦労を重ねていくのだ、この人は。だからせめて、僕は僕に出来る事をやるのだ。
手を放して袖を捲り上げる。この執務室、続き間にキッチンと小さな部屋がある。部屋は休憩室として、キッチンは軽食用に。こんな執務室だから静はここに半分住んでいるようなものなのだ。
「飯が出来たら起こせ」
「……まったく、寝つきがいいのは兄妹そろって同じだ」
言うだけ言って先程まで僕が寛いでいたソファーに横になりさっさと目を瞑る。それを見て、僕は料理の前に毛布が必要だな、と小部屋へと向かった。