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Distorted  作者: ロースト
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一章-7

「あー。酔った、かも」

 ガヤガヤと騒ぐ作り物の街を前に早くも挫けそうになった僕だった。

 色鮮やかな街並みに往来する人々は皆が活き活きとしていて、風にそよぐ草花が優しげに街を見守る。ホームタウンという名の通り、そこは“故郷”として人々に安心と居心地の良さを与える。もちろん、表があれば裏もある。少し入り組んだような暗い道に逸れれば人柄の悪い人たちにも出会う。――街並みに昔も今も変わりはない。

 しかし、乗り物酔いにも似た感覚は久しぶりのせいだか、身体に上手くなじむことなく、景色を歪ませる。踏み出した足が覚束無いのに気づいて、一端、目を閉じて呼吸を深く意識する。ある程度の落ち着きが出てから改めて浅い呼吸と深呼吸を繰り返して体の調子が何処もおかしくない事を確認した。以前同じ感覚を受けてから既に二年が経っていた。


 僕はかつてこのゲームの参加者だった。

 ユーザー数が五千万人を超えるという驚異的数字をたたき出すこの世界――ジェミニを作ったのが何を隠そう、悠木架火であるからだ。この六年間で一体幾つのバージョンを作ったのか、改良版は毎年出ているため最新型のジェミニはバージョンⅥ。僕もその権限で遊ばせて貰っていた時期があった。もっとも、現在ではその権利云々が架火個人の元から“悠木家”に移ったので特別扱いはなくなった。それによる影響というのは僕のポケットマネーに甚大な被害を出す以外ないのだけれど、お金はジェミニによって“稼ぐ”ことができる。

 電子世界でやり取りされる株と同じでジェミニでの金銭は現実に影響する。だから、ジェミニを遊ぶのにお金が掛かったところでジェミニというゲーム内で稼げばいい。そしてその方法としては当たり前に商売、モンスターハント。

 現実と同じような街並みの広がるジェミニの世界には、けれど現実にはないものが幾多も存在する。代表的なものに場所と場所を繋ぐ転送装置の役割をする“門”がある。現存の技術には興しきれない科学技術の結晶のだ。進化する科学世界・情報化社会の象徴である門だが、“エリア”は時代が後退する。門によって移動するエリアという場所は多くの時代が切り取られている。中世ヨーロッパ風な場所、氷河期の到来かと思える場所、宇宙にでも行ってしまったのかと勘違いしてしまいそうな場所……。また、そこにはモンスターが存在している。

 現実に無い生物は凶暴性だけを特性とするわけではないにしろ、人に害をなす場合が多い。それを、ハンターが仲裁し、場合には命を刈り取る。人に害をなす生物を刈り、人を護る。それがハンターだ。人との待ち合わせや第二の社会としての機能が発達してしまった今では、現実の痛みを伴うハンター職は全体の半分以下しか利用されていないが、エリアを探索・モンスターを倒すというRPGゲームとしては根源的な遊び方だ。


「お兄さん、大丈夫?」

 立ち止まって思考する僕にピンクの髪の少女が話しかけてきた。

 関わり合いになりたくない、反射的に思う色センス。

 ジェミニの仮想空間でユーザーはキャラクターを操り自らの等身大とする。身体能力・性格・容姿・職業・経歴は一番に規定する。だが、現実に限りなく近いという設定上、容姿は現実を基準としている。髪に関して言えば色や形しか変えられないし、顔については輪郭など変えることはできない。これはキャラチェンジと呼ばれ、後からイメチェンとして修正できる。現実で言う整形技術はロールチェンジといって、この初期設定を無視して変更できるためキャラチェンジは行ってしまえばリセットボタン。ジェミニに対するログも別になるので新しいプレイヤーとして登録され、レベル1から始めるのだ。

 つまり何がいいたいかというと、このジェミニはゲームでありながら、ネット内で軽々しく素顔を晒しているのが殆どだということだ。顔見知りに会えば気づかれる可能性もそれほど低くはない世界で、法のない世界にいるわけだから、互いの行動は監視されている。注視している。下手な行動は出来ない。大半がそのことに気を使っているこの世界はやはり、第二の社会として成り立っているのだ。

 職業に至ってもゲームというものから逸脱し、現実性を持ち合わせている。通常のRPGでは種族から選べる職種・運動能力が固定されている。しかし、ジェミニは転職が制限なく可能。種族ごとの属性値はあるが、それは得手不得手の範囲でできないことはない。ドワーフが商人でもいいし、エルフが職人でもいい。各自が最初に持つ基本ポイント一〇〇〇からパラメータを差引きしていくので、自由に割り振れるのだ。

 パラメータとなる基本ポイントはその時点で固定されるが、後にストーリー進行上で入手したポイントはキャラを強くする上で必要不可欠ではあるが、課金もできる便利品。交渉や譲渡もできるのでそれで稼ぐ職もあるほどだ。

 ちなみに僕の職は傀儡士。防御と素早さにのみ特化し、技能取得が神業的に困難なため能力値を満杯にするのがセオリー。僕は以前ジェミニで使用していたロールと同職のため能力値が枯渇状態でも技術は習得済み。ポイントの入手が困難なことからも戦闘に有利になるパラメータにポイントは振り分けた。ちなみに仮想現実というだけあってジェミニで習得した技能とはすなわちプレイヤー自身の技術となる。現実でも同じ武器を持ったなら同様に戦えるということだ。現実で戦うという行動が必要とされる状況が無いだけで。

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