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Distorted  作者: ロースト
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三章-15

「あれだけの言葉を浴びせ掛けられ怯まないのは結構。しかし、どうにも、覇気がない。我の望んだものとは違う。そこ、隠れいる主を守り通さんと言葉が吐き出されると思ったが……」

 冷たい瞳が浴びせかけられる。柏を通り越して僕に向けられているそれに知らず、体が震えた。怒りか怯えか。

「何故そんなところに逃げ帰ったのか問い掛けてみても色気なき答えが返るに決まっているか。――存在意義、始まりに立ち返る必要性があったからこそ」

 しかし、と続ける瞳は柏に向いている。だが言葉は僕に対して放たれていた。


「――期待外れは否めんか。恐らく傷の舐め合い、同情にして同類根性。未知に対する危機感ですら持つに値しない関係だな」

 その言葉にそれ以上言うな、と口止めのように強い視線を向ける。僕は天敵を前に怯むような嘘吐きではない。


「――ふむ、少し喋り過ぎたかな?我が主よ」


 存在意義、などと――軽く口に出すものではない。僕の意義は、既に失われている。始まりに立ち返るというのなら、そうしたさ。けれど、

「……おまえこそ何様だ、と僕は言いたいけどね」

 逃げ帰ったのは本当だ。すべて、ヴィオに押し付けようとしていた。だが、ヴィオは前を向いていた。過去にから逃げず向き合って。状況に流されるでも、他人のためでもなく、ひたすら自分のために。だから、これは僕が納めるべきで、僕は見届け、終わらせなければならない。誰の手でもなく、自分の手で決着をつける。


「主は知っているだろう、我は懺悔者。不屈不敗の敗者」

 ジンは心の隙間を見抜く。間隙を突く言葉を投げかけ、動揺を誘う。会話は毒そのもの。麻痺した心を、毒を以て制しようという姿勢。だから不快だ。圧倒的に僕の分が悪い。嘘をつく僕を論で制そうとする。言葉に言葉を重ねるそれは天敵。けれど、ジンは僕が抱くその思いを知ってなおは近づいてくる。

(――本当にこの男は、天邪鬼だ)

 近寄って欲しくないから、近寄らない僕へ近づく。追いかけられたくないから、僕を追いかけるという理由をつけて走っている。

「主――本来の持ち主には、会えたのか?成長は如何にした?」

 さほどの変化は見られんようだが、とその瞳は僕を射抜く。空気が重くなり呼吸が一気に止まる。目眩に世界を揺さ振られるが同様。

「ふむ、今日はこれで帰るとする。日本には少し留まる。主よ、彼らの所に案内してくれ」




「恋人、とでも言えばよかったか?」

 ぽつり、と糸闇が呟いた。

「え?」


「今ここでキスでもしてみれば満足か?」

 問いはジンへと向けられていた。しかし、その意味を、柏はわかってない。軽々しく、言うものではないというのに。

 僕は唇を、噛んだ。

「満足ではない。納得もしないな。なぜならば実行する気もない偽りに意味はない」

「それは僕に是非を問うていると考えていいんだよね。なら、答えは否」

 それを、僕に答えさせるというのなら。こんな他愛もないおしゃべりで放つなら。

「出来るかと聞かれれば出来るね」

 ――そう、言うしかない。

 柏は僕を好きではないのだから、否定するしか、ない。

「それぐらいには糸闇が好きだよ。でも糸闇は別に僕のこと好きじゃないからね」

 嘘をつく時はいつでも逃げ道を作る。嘘をつく時はそうと分からないように、いつも通りを装う。背筋は真っ直ぐに、感情のない笑顔のままで。そして瞳は背けたりせず、合わせる。

「――それに、僕にそんな資格もないから」

 あの時から、止まったままの僕と架火。忘れたくないあの日々にまだ属そうとしている。そう、危ないのは晩だけではない。

 僕には架火がいる。元が欠陥のある体で、無理に成長を止めた代償。――これ以上は、待てない。晩だけでなく、架火の命まで僕の掌から零れ落ちそうになっている。何よりも優先すべきは彼女だ。

(あの時、僕は逃げたから)

 二年前ロキがいた場所にはジェネスがいて、僕がいた場所にはイーリアがいた。だから、もうなくなったのだ、あの場所は。僕が逃げたから、それは決定的になくなってしまったのだ。僕が欲しかった居場所は、もう埋まっている。圧倒的なまでに、僕に資格はないのだ。

(……放棄した僕が、その場を望むなんて)


「扉は開かれる それは祝福の招来 光り輝き未来に溢れた 明けの空は赤く、血のように赤く」



 突如、それは轟くように雷雲をまとって讃えられた。

 周囲の夜闇から滲み出すように、浮き出すその姿――神。



「我は主がための盾!それ以外の用立てここになしと知れ!」

 僕が手にしていた木刀を剣に見立て、ジンは構える。そうすればそれはもう、ただの木刀ではなくなった。本来には打撃にしか使えない、殺傷力の低いそれは、けれど高い確率で貫通性を持った。

「強いことは弱いことだ。弱いからこそ、他者を寄せ付けることを厭い、勝つことを望む。その貧弱な思考はその時点で負けているのだよ。――だから、我は敗者なのだ」

 NNM――天才の集まり。その筆頭としての力量はOVERと生身で戦い、無傷。勝負事で負けたことは生涯において世に生まれ出るという賭けに負けたことのみ、とは本人の言だ。だから不屈不敗の異名を持ちながらジンは自らを敗者と名乗る。


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