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Distorted  作者: ロースト
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三章-14

「ああ、すまない。湯と服を貸してもらうぞ」

「あ、ああ」

 男の勢いに押されたのか、意味も解らないままに許可を出す。

 パタン――

「……なんで間取りを知ってるんだ?」

 当然のようにバスルームへと向かった初対面の男に視線を向ける三人を目の前に、僕は溜息をついた。……なんであんなのと知り合いになったんだ、と改めて思い返して溜息をつく。やはり、親切心など出さなければよかったのだ。それは強制的に、余儀なくされた事態だったが。


 数十分後。

「いやー、さっぱりした。どうもすまん」

「浮浪者が金髪王子に化けた……」

 湯気と色気をまとい立つ金髪王子ジン。もといストーカーもどきの僕の友人だ。いくつもの外国語を母国語のごとく話す天才で変態な男だ。来住が評すのを横目に僕はジンがいない内に用意した武器、木刀を喉元に突きつけて一定距離を保つ。そして詰問。

「ジン――なぜここにいる?」

「ふむ、彼らに調べてもらったのだ、可及的用件といってな。主の姫にも会いに行ったのだが門前払いの拒絶を受けてしまった」

「当前だね、ストーカー男」

 木刀だからか、突きつけられているにも拘らず近づくジン。それには僕の方が下がった。

 ジンの言う“彼ら”とは架火の騎士たちか。なまじ、両方が天才だからこそ天才同士のコミュニティーなのか仲は密だ。基本的に世俗を避ける人たちばかりなので“凡人よりか”と注釈がつくが。

「……なんか、示崎きれてね?」

 着実と踏まれる歩みに、僕はといえば壁際へと追い込まれる。

 評す余裕があるならばこの男を何とかしろ、と鋭い視線で来住を見やるが、我関せず、と勉強を進めようとする寿々原が眼に入った。来住は空気の険悪さに勉強へと注意が注げないらしいが。

 スッ――と僕の前に影が出来た。

「あんたが誰でもいいがここは俺の家だ。従えないなら出ていってもらおう」

 柏がジンに向けて放つ。多少の威圧が混じっているのは先ほど押されてシャワーを許可した経験からか、ジンが図に乗るタイプだとわかったからか。


「……何様のつもりなのかな?君は」


 一方、ジンは怯まないどころか挑発的だ。その瞳が猛禽類のように鋭く輝く。

「まさかまさか我を従えるだけの存在だとも?我は我を高く評価するつもりはない。だからといって低く見るわけではないのだ」

 自己評価の正当評価。いや、やや自己卑下が混じっているだろうか。

 ジンの言葉は重い。それは数多なることばにより装飾された言い回しにより加重されている部分もあるが、彼を知っているものならば彼に刃向かえる者はいないだろう、威圧。

「我が力を行使することに躊躇いなければ君を赤子のようにねじ伏せるのは可能。だが、我とて君を嫌うわけでもなんでもなく平和主義なのだよ、我が主と等しくね。力を行使する理由があればこそ、揮うものだよ、我の力は。君には暴力に同じかもしれないがね」

 ジンは強者だ。何においても強者。知能、精神、武力――天才と呼ばれる所以はその完璧性。潔癖症と言ってもいいほどの、完全無欠。僕はジンが恐ろしいと思う。同時に、寂しい人だと思う。その完璧性は生来のものだ。王者の気質は類を見ないほどに超越している。だから並び立つ者はいない。だから畏敬を持たれる。

 恩恵に肖りたく近づく人。褒め囃す人は心の内で利用を考える。化物と罵る者がいれば、人より高位の存在と扇ぐ者。天才ゆえにその人生は他者踏み躙られ揺るがされてきた。パラドックスたちのように他から嫌煙されるならばどれほど良かっただろうか。しかし、ジンの持つ王者の気質は本人の意思にそぐわず人を集め続けた。

 だから僕が珍しかったのだろう。ジンの気質に左右されることのない人間。ジンの外観を気にしない人間。ジンを気にしない人間。ジンを無碍に扱える人間。ジンを対等と扱ってくれる存在。

(――ジンとシェリーが会ったなら)

 同じ悩みを抱える者だ。どちらが上かなんてわからない。けれどきっと仲良くなれる。……当分はジェミニの経験がないジンを鍛えることから始めて貰わなければならないが。

「して、何様なのだ?大統領とて恐れ屈することなき我を従えたき者よ」


「――俺はこの家の家主だ。さっきも言ったようにな」

 少しばかり怯みながら、けれど柏は言った。理由としては弱く、けれど絶対的だった。

 立場の顕示はこの場合においてのみ有効打がある。権利として、主張できる。たとえ、それがどんな相手にだろうと、日本という法律国家では個人の権利は守られる。そしてこれも範囲内だ。


「……なんとまぁ、これほどに驚いたのは久しくないよ。情けない言葉だ」

 長考という程の時間でないが矢継ぎ早と圧倒的な言葉を舌の回転に任せるまま口に乗せるジン相手には長い時間だ。若干、呆れの声ではあったが。


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