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Distorted  作者: ロースト
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三章-13

「あの女の人だれなんだ?随分親しげというか、なんというか……」

「こ、恋人なのか?大人の世界なのかっ?」

「よし、来住。今すぐ摘み出してやるから安心していいぞ」

「なにが!?安心できないっ!どこから出そうとしてんだよっ!」

「ベランダ」

 いい笑顔で来住に対応する柏。それはまるでコントだ。

「でもまぁ、疑問に思うよね。あれが隣人さんなの?」

「え……っああ、そうだ。普段は会わないんだが」

 僕が質問したことに驚いたのか、瞳が僅かに逸れる。左右に動けば疚しい事を隠す動作だ。明後日を向くのもそう。――別に気にしなくてもいいのに、変な感じだ。まさかつっこまれたくないようなことがあるのか。

「僕は自分の遭遇率に自覚があるからね。何も気にしなくていいんだよ?たとえあの人と毎日会っていたとしても柏が白状しない限り知ることは出来ないしね。どんな関係でも僕はまったく関係ないもの」

「名前、戻ってるぞ……?」

 ひきつりながら指摘する柏に笑顔でにっこり、でも無言で対応した。

「……勉強するか」

 顔を蒼白させる部屋の主に変わってに寿々原が言った。ため息しながら。


 小さく振動する携帯に気づいたのは僕だけではない。恐らく、部屋の皆が気づいていた。

「示崎、今さっきから携帯、いいのか?」

「――いいんじゃないかな、僕は取りたくない」

 焦れた来住が問うのにそっけなく答えた。

 勉強時間に入る前に取り出された黒い携帯は一時的にマナーモードにされていた。けれど、微弱な振動までは無視を許さないかのように幾度目かの勉強中断を誘ってくる。

「いやでもさ、ずっとだぜ?重要な用件なんじゃねぇの」

 何度も掛けてきてさ、と気の毒そうに来住は言うが、僕に罪悪感など沸きようがない。逆に迷惑な奴だ、と批難の視線を向ける。

「いつもだよ。電源が切れるまで続くからね。――取りたいなら取ってくれて構わない」

「……えっと、」

 戸惑うような眼が向けられたのは、一つの可能性に思い至ったからだろう。僕も思う。あれはストーカーというものではないか。

 そもそも僕が携帯の電源が切れるまでほっとくようにしているのも現在電話を掛けている人物からの接触を拒否するが為だ。そのせいで、他の者との連絡も取れることがないが、今まではそれでもよかった。理解のある人物ばかりだし、頻繁に掛けてくるような友人もいない。何か在ればパソコンで良い。

「――示崎」

「……わかったよ」

 何も言えないでいる来住と口を挟まない寿々原。けれど柏は僕に促し、渋々それを取った。

「もしも――」

「主に会えないなんて我慢できない!」

「……」

 第一声にこれはない。大声のそれは柏たちにも聞えたのだろう、すごい凝視された。耳から若干離した状態で聞く。

「我は主を今一度目に焼き付けたい!できれば、この手に直に感じ取りたい!ああ、会えない時間に想いが育つというのは本当のことなのだなっ!この身が破裂しそうだよっ」

「今すぐ星に帰ってくれないかな、変人。耳が汚れたよ」

 この場にいなくとも、この世界に存在し同じ空気を吸っていると思うとそれだけで気分が悪くなる。

「いいや、今すぐにでも会いに行くぞっ!我は主とともにあることを誓ったのだ!」

「勝手に誓わないで。生きてなくていいから、変態の森に帰ってください」

 変態の森、というのがどこに存在するのかは置いといて、君が帰ったらそこを燃やしてあげよう。火に浄化の作用があるというから、それだけでも世界のためになる。犠牲は軽く忘れることにするけれど。むしろ存在自体を今すぐ忘れたい。――携帯の電源を強制的に切ると他人の家ながら放り投げる。ソファーに座ると備え付けのクッションを手に取った。反発力が強くて体が跳ね、隣の柏にもたれ掛かったのだが、すぐさま離された。……けち。

「……なんか凄い人だな」

「そうだね、傍迷惑な害悪生物だよ」

「……俺、そこまで言ってないよな?」

 何故アレと知り合いになったか。それが気まぐれな親切心なのだからもう目も当てられない。過去の自分に早まるなと言ってやりたい。――そして、数分の間にあったことをなかった事にして勉強を再開した。



 だが、それから間もなくまたもや静かな空間は遮られることになる。原因は――不快の塊。本人だった。


 ピンポーンというチャイムが鳴らされ、糸闇が立ち上がる。それを確認しつつも勉強は続く。部屋の主である糸闇以外への訪問は、普通はありえない。けれど、――それに常識は通じない。

「参ったぞ、我が愛しの者よ!」

「ひっ!」

 抱き着かれて反射的に敵でも化物でもないのに能力を使おうとした僕は褒められたことではないが、非難を受けることもないはず。

「去れ!消えろ!触るな!汚い!」

 糸闇を押しのけてきたらしきその影は背後から手を回すと僕を拘束する。“抱きしめる”なんて使いたくないけれど、それ以外に表現のしようがない状況。不快をそのままにその体を剥ぎ取ろうとしたが、自ら離れる。立ち入りを許可したわけでもないのに当然のごとく部屋の主に要求する。


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