三章-4
そんな、どうやっても役立たずな僕に向かって水着美女たちから手渡される、水着のテンプレート。
「あなたにプレゼントよ」
ビキニにワンピース。パレオ系にホルタ―ネック、ベア……いくつもあるが、全部が女性もの。差し出された映像に眩暈を感じる。だが、そんな僕の意見を聞くこともなく、どれがいいかと騒ぎ出す女性陣。
それにしても、僕が何も言わないにも関わらず、現実では男と誤認され、ジェミニでは女と“間違われる”――僕は何一つ、述べていないにも拘らず。……否定しないからだろうけれど、周囲は歪んだ認識を得る。まぁ、久しぶりのおしゃれと楽しめばいいのだ。
「まぁ、観念なさいよ」
カルティエッタは救済とはならない、たぶん。
「リ、リスタおま――お、おお、おん……」
「怨念?怨霊?」
「女!だったのか……!?」
指差し叫ぶアシュレイ。開いた口が閉じない、と行動で主張するレイス。リアクションは様々ながら男性陣が一様に驚いている。明確に知っていたヴィオも交じっている。
「ひどいな、アシュレイ。僕ってばそんなに魅力ない?女の子としてダメ?」
「っ」
言葉を飲み込むアシュレイ。そのまましゃがんで頭を抱え込んだ。
「いや、女に見えないわけじゃなくてっ!リアルでのイメージが強いから……ってそっちも女!?」
ジェミニと現実世界では性別に変化はない。なぜならジェミニは仮想“現実”――現実を逸脱することはない。見た目は本人をもとにしている。性別も変わらない、のだが。
「てか美少女に見える美少年だと……あんまり触れられるの嫌かなって、話題に出さなかったし」
「何故そこで訂正を加える」
ジョインに即座に返せばきっぱり「雰囲気だ」の一言。硬直から帰って来たヴィオは視線を外し、罰の悪そうな顔を見せる。そして、人耳を憚るように話しかけてくる。
「……いいのか、隠してたんだろ」
「ああ、別に全然。ヴィオに対してだけだから」
僕の答えが意外だったのか、僕を見て目を見開いたヴィオ。。
「ほら、ずっと仲間だったのに気づかなかった、とか。僕も原因だし悪いかなーって」
「ッ」
ヴィオは絶句する。それほど予想を斜めいく回答だったのか。
「ロキがわざとそういう言い回しをしていたから。フォックスは謎ってキャラにしていたし、余計に」
懐かしい記憶は、けれど語るには切なさを伴いすぎている。
「ほらヴィオ、行こう」
いつまで呆けているんだ、と腕を引っ張れば息を呑むヴィオ。細身とはいえ男なのでヴィオの体は僕には動かせなかった。困って見つめるのだけれど、もともとが無表情なので意を汲んでもらえたかわからない。
「――戦力外ね」
「何いって――……っ!」
溜息を吐いて酷評するマチルダ。彼女はさっさと踵を返し、他のメンバーと攻略の会議を始める。そんな彼女に当然の如く食って掛かったヴィオは、けれどその言葉が終わることも待たずに、その行動を止めた。マチルダが僕をヴィオに押し付けたからか。
「リスタが戦闘で傷ついたら大変ねぇ。こんな格好だもの、あられもない姿で動き回るわけにも行かないし」
「ッ」
(……戦闘中は水着装備ではないのでそれはないんじゃないかと)
そういえば、イベント時にはテンプレが解除されないのだった。戦闘に限る場合じゃないのが原因だが、この格好で戦闘のあるイベントが発生したら堪ったものじゃないな。
「そんなに変かな……」
(やっぱり、通常装備になるかな……)
騒ぎから外れて立つグランシャリオの傍に並んだ。普段から寡黙なのだが、現在の姿はカルティエッタの行動に振り回されて頭が痛いのだろう、と思った。常識人をやっているのはこのメンバー相手では疲れるのだ。
「――似合ってる」
ふいに静かな言葉が落ちてきて、視線を上げた。だかその閉じられていて、お世辞なのだろう。とりあえず言葉を反しておく。
「はぁ、ありがとうございます?」
どうせ言われるのならばヴィオがいいけれど、なんて。まぁ、いいけど。
「あっさり、告白もスルーされちゃってるわけだしさ」
途端、詰め寄られた。
「何それ、詳しく聞かせなさいっ!」
「ちょ、」
後退した背がグランシャリオに受け止められる。
「あ、すみません」
「いや……」
「グランはそのままリスタを拘束しなさい!上司命令よっ!」
カルティエッタの無茶な命令を忠実に再現するグランシャリオに降参するしかない。そうとなれば僕はため息交じりに嘘を囁くしかない。
「いいんです、ヴィオは僕のことなんか……だって、ヴィオにはイーリアがいるし」
「女嫌いのヴィオがまさかの二股宣言!」
「いや、ちが……イーリアはそんなんじゃー―」
しどろもどろに言葉を募ろうとするヴィオを遮って泣くふりをする。ノリだ。
「僕、僕……そんなヴィオが好きだから――」
「何を無表情で言ってるんだっ!」
ヴィオが顔を寄せて怒鳴ってくる。顔が近い、がヴィオは自覚してないらい。僕はキリリと真剣な顔で迫真に迫る演技する。
「何を言ってるんだい、僕はいつでも無表情じゃないか!」
爽やかに言う僕の頬に手を伸ばすヴィオ。
「にやけてるぞ、この口が」
「アイタタタタタ」