三章-2
「あなた泳げるかしら」
そんな一言から始まった、水属性エリアの大規模クエスト。
「なんで、こうなるんだ……っ!」
水属性エリア【粟立つが故 焔火消え 水は立ち上る 陽炎瞬く 昼行灯】海底・常夏。
そこでヴィオはいまだかつてない切迫の表情で問うように叫んでいる。僕も激しく同意する。なぜならここには総勢十四名、ジェミニで会うことのできる僕の知り合い全てが揃っていた。
「えーと、成り行きで?」
首を傾げるが、理由なんてないのだろう。あるならば僕だって知りたいぐらいだ。
「どうせなら大勢で行きましょう」
マチルダのその一言が原因である。この海底エリアはその名の通り、道が海底に広がる為、人数が必要なクエストである。ヴィオもマチルダの言葉に同意し、シトラスを呼んだ。というのも、「これ以上女を増やされてはたまらない」「男の地位が……」などいう理由で男性プレイヤーを誘い、結果的にユグドラシルのメンバー全員が来る事になり、余計に男女比が偏った。今度もまた同じ理由からバジリスクのメンバーだったロードに久しぶりの連絡、そこに同ギルドのカルティエッタまで着いてきた。そしてカルティエッタはパラドックスのメンバーを(なんといって呼び出したのやら)……そして(やめておけばいいのに)またヴィオがジョインとレイス(ログしていなかった来住と寿々原を態々、携帯で連絡とって)呼び出した。結果、十四名にぼる豪華メンバー勢ぞろい。
実際、パーティは最多でも五人のため、三パーティに分かれないといけない。普通ならその時点でパーティ別に行動するところだが、それを固辞する者が一人、以上いた。もちろん、言いだしっぺのマチルダ。それに面白がって女性一同、賛同者として追加される。
「嫌ね、それじゃ大勢集めた意味が無いじゃない」
あくまで、表面上は穏やかに。けれど、冷え冷えとした回答だった。もっともですが。
僕としてはパーティ別にランクでも競うのかと思っていたのだが、――マチルダはこの海底洞窟という場所が怖……気味悪いようだ。大事な事なので二度確認するが、このエリアを選んだのも彼女、いいだしっぺである。
選んだ理由は「気分だったからよ」と答えられて、“肝をも冷やす”エリアと相成ってしまったのだな、と納得。彼女の為にも口には出さなかったが、大半の人は分かったと思う。何せ、この海底洞窟のエリアは幽霊が出る、という曰くつきなのだ。もしかしたらMISSINGかもしれないな、と推測する。どちらにしろ、僕の不運が伴っている、ここで何かが起きることは確定といえた。
どちらにしろ、パーティは決めなければならないのだが、男性陣が渋る。その理由は男女比らしいが。ちなみに、シトラスは変異士の能力を使って水着で完璧に女装中。シトラスが男だと知るのは男性陣の中でヴィオのみなのだが、ツッコミが無いままなので彼の性別は他の誰にも気づかれていない。そのことが僕にはやけにひっかかる。
(僕が女だということに気づかないのだから当然、なのか?)
なんとなく反発心が生まれるのを不思議に思った。
「……じゃんけんは恐ろしい結果になる可能性があるぞ」
「俺は別にいいけど~。三人の美女に囲まれる俺、なんて楽しそうだし!」
「男四人の可能性があることも忘れんな」
「よし、交渉によりメンバーの交代は有効で」
女性が苦手な僕の隣の人物と、女性が大好きなかつての仲間の会話をよそに、僕は僕でレイスに声をかける。
「ああ、確かに。ヴィオってモテるくせに女に近づこうともしないからなぁ」
「今回、レベルも戦闘スタイルもバラバラで集団行動も向かない人が多いんだよ……」
まとめるのには苦労する。いや、誰がまとめるんだ。全員に面識があるのは僕ぐらいなのだが、嫌だぞ。個性が強すぎてまとまらないし。女性陣の勢いには対応できない。
「今日も遊ぶつもりだったからそんな気にすんなよ。逆にこれで呼ばれない方が嫌だったよ。知らない人は多いが、こんだけ集まってるんだもんな」
その言葉に慰められる。けれど、何か違和感を覚えた。
レイスの視線の先を見てわかった。――ジョインとアシュレイが会話している。
「あいつの兄貴」
「……アシュレイとジョインが?」
「名字が……」と続けようとして、控えた。義理の兄だと聞いたのはつい最近だ。
「ん?何してんだよ、二人して」
会話を終えた来住がこちらに向かいながら話しかけてくる。その様子はいつもの明るさとまではいかないが、暗いとも言えない。複雑な感情を抱えているのは間違いない。