二章-30
「ロキは――ジェネシスだよ」
「え」
「あの日、真理の扉をロキは目指した。ジェネシスもだ。あの日、現実でのロキは死んだよ。だが、意識はまだ、ここに漂っている――真理の扉の向こう、君を待っている」
意識と肉体が分かたれた。その心はまだ、真理の扉の向こうでヴィオを望んでいる。願いを叶えるための最後の布石。
きっと、ロキはヴィオに酷いことを言う。当たり前のような顔をして、いつも通りに宣告する。それは感情を求め、人になりたいと願った先の出来事。
ロキはジェミニで再構成する身体の祖体として、ヴィオを求める。
「力を得た時、初めて開く道。進む資格は君が持っている。……道を選ぶのも、君だ」
すべての秘密はそこに集まる。僕にはまだ、答えが分からない。
「ロキが、ジェネシスが生き返る術があるなら、君はどうする?」
今度こそ、絶句するヴィオ。
ただ硬直して、何も言わず、身動ぎすらしない。
「ジェミニの統括意識体AI――それがMISSING。作成された神は真実を求め、自らの失ったものを求めて人々を襲う。人のようになりたい、感情を得たいと――そしてプレイヤーはその意識を食われる。それが、意識不明者の謎」
ジェミニの神はどこかが欠けている。真実を知らないまま停止している。だからこそ、不完全な神は心を求め、真実を求め、自らの補完を目指す。――そして資格者に出会った。
「四つに分かたれた存在は、四つの感情を司り、四人の資格者を求める」
つまり、ニケ。過去、ジェネスがどこかで零したはずだ。四つの感情と神、そしてプレイヤー。――その力を自分で操作できるように、ヴィオへ教えていた。
その力が、扉を開く鍵となる。必要なのは、力の制御と、感情と、代償――四つの人柱。
「MISSINGはプレイヤーの強い想いに引き寄せられる。そして、その感情の情報を蓄積する為に行動している――プレイヤーの意識は情報ごと、囚われ、糧となる」
MISSING――それは不完全な神の姿であり、人の意識収集体。集められた意識を吸収して成長する化物。
「ゲームのプレイヤーがあの化物になるというのか……!?」
激昂する言葉に、頷く。
「現実で昏睡になった者たちの意識はMISSINGに統合されている。解放は代理者、人柱たるニケの役目。実体化は補完された神がジェミニの意志に沿っているだけだ」
その多大なる影響は存在するのみならず、他の情報体――例えば実際の質量などを持った人間にも影響を及ぼし、統制を失くし、――攻撃によって情報にアクセスして壊す。
それがために、OVERに接触した者は記憶を、その部分が覚えていた情報を奪われる。
「ジェミニの意志――AIか?」
「そう、そしてロキだ」
「ジェミニでは毎日、何百万というプレイヤーがアクセスしている。MISSINGやOVERも含めて情報の収集は完璧だ。その情報で構成された情報体はロキという人格を模倣――いやロキの意識こそがAIを乗っ取って動いている。情報によって肉体を構成したロキは再び現実に生きるー―肉体を変えて蘇るんだ」
その時は迫っている。そして、僕がヴィオの隣にいることの出来る時間も、同じだけ。
(だから、――今だけ。今だけは僕だけのヴィオでいて)
優しく残酷な君は、僕のことを同じ意味では想ってくれないだろうから。彼女を取り戻す間だけでいいから、その隣にいたいと思った。
(――最後に、僕は笑えるだろうか)
すべてを失った後で、僕はまた、笑えるのだろうか。
二章、終了です。
次回より、三章に入ります。(全四章+終章)
三章予告、ゼブルクの怒り・ザメロの喜びが今、開口される。それはすべての終わり、すべての始まりを迎えるための前哨でしかなかった。