表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Distorted  作者: ロースト
58/106

二章-29


【並々 そそがれる杯 涙の雫は告知 悲しみ 未だ癒えず】



「リスタ」

 聖堂に声は響いた。


 ギィイ――と古めかしい音を立てて聖堂の扉は開かれる。中央を眺めていた僕は紡ぐ。


「これは神像――ジェミニの四神の本来の姿だ。ナヴィアとフェノーバはルッツとレティス、二人を取り込み、世界の真実を知ったんだ」

 世界の残酷さ。世界の歪み。思い知った神。



 振り返り、来訪者――ヴィオを見た。視線が交錯する。

 ヴィオは一人だった。仲間と来るように含めておいたはずなのに。

「――バジリスク、ユグドラシル、ニケ、そしてリアル」

 ヴィオは、居場所がたくさんある。ロキが消え、ジェネスが去り、イーリアが眠っても、それでも彼は、日々を生きてきた。

「一人で来たの?何故?みんな、ともに真実を知りたがっているじゃないか。僕は連れてきていいと、言ったはずだけれど。真実を知る覚悟があるなら、誰でも」

(君はロキと同じ?)

 ――あんなに共に過ごしてきたのに、ロキはヴィオを本当の意味で仲間だと思っていなかった。利用するために近づき、利用するにたる、便利な“駒”だと……欠かせない、けれど“駒”だと思っていたんだ。


「……俺の仲間は、たくさんいる。けど、これは俺の問題だから。俺が一人で来なきゃいけないと思ったから」

「周りはそうは思わないよ。頼られてない、って思うだろうね。何故なら彼らもまた、傷を負う者――同じものを追っているから」

 一人で背負う必要はないのに、それでも君はそうするのだろう。誰かのために。

「君を心配する人も仲間だと言ってくれる人もいなかった?どれも朽ちてしまったと君は思っているようだけれど、どれもまだ生きている場所」

 僕にも、ロキにも、もうない居場所が、けれどヴィオにはある。再び迎え入れてくれた場所が、仲間だといってくれる人たちがいる。


「お前は――仲間じゃないのか」

 その問いかけに弾ける様に顔を上げた。

 信じられなかった。僕を、

(――リスタを仲間だと?)


「俺の仲間は、共に歩む仲間は、おまえだよリスタ」

(そんな馬鹿な)


「いくつも嘘をついて、隠して、何にも教えてくれないけどな」

(ありえない)


「それでもお前はいつでも俺の仲間だったよ、リスタ」

(信じられるわけがないじゃないかっ!)


 笑いがこみあげてくる。

「裏切り者のフォックスである僕が?仲間に?――君は馬鹿かッ!」

 また、裏切られるだけだ。信じて、裏切られて――そして繰り返す。


「裏切ったって、何をだよ」

「何って――」

 間に合わなかったこと。行われる暴挙を止められなかったこと。嘘をついていたこと。何も教えなかったこと。突然いなくなったこと。――いくらでもある。いくらでもあるからこそ、何一つ裏切ったといわないヴィオに絶句する。


「フォックスは、いつもそんなばっかだよな。――俺は裏切ったとか思ってないから。お前の行動にはいつも理由がある。意図的にやったことじゃないだろう。悪意あってじゃない」


 ぐらり、と地面が揺れたような気がした。見つめられる瞳が痛い。

(なんで、そんなに……)

 真っ直ぐな視線に怖いくらい見つめられて、引き込まれそうな魅力を感じる。変哲もない黒い瞳が今は強い意思によって彩られ、人を篭絡させようとするかのように魔的なものが混じっていた。

(何でそんなに真っ直ぐ、信じられるんだよ君は――)



「でも、変われよ」



「お前はリスタだ。ここにいるのは、フォックスじゃない、リスタだろ」

 リスタ――そうだ、フォックスとの区別をつけるために、僕は新たに僕を作り上げた。数か月、けれどその間ずっと僕はリスタでいた。フォックスでなく、リスタで。


「リスタがフォックスである必要、ないだろ」

(ああ、これだからヴィオは――好きなんだ)

 僕を僕と認めてくれる。


「フォックスを背負って立て、リスタ」


(――もう一度会いたい)

 その願いは、いけないことだったのか。再会を願う事の何がいけないのか。

 けれど僕は出会ってしまった。知ってしまった。

 ロキとジェネシス、両方で希望と絶望を与え、そして闇の深遠へ、真実の淵に落とした。

 僕には信じられない。かつての仲間は、僕らが利用した彼は、それだけのことがあってなお、前を向いていた。未来を信じられる事を。挫けて、絶望して、立ち止まったまま動けなくなっても、それでも未来を信じられる、その強さを知った。

 ヴィオは自分の意志で立ち上がった。彼は選んだ、世界に刃向かう選択を。たった一人、悲しみに彩られても立ち上がって、足掻き続けているんだ、今も。

(――ねぇ、ヴィオは凄いね。君の言ったとおりだ)


 だから、こんなに駄目な僕でも、自分というものをやめてしまった僕でも、それでも彼の為に何かが出来ないかと、そう思ってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ