表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Distorted  作者: ロースト
5/106

一章-4




 転入2日目。

 なんだか見られている。質問攻めにもあった。転入生とはこんなものだろうか。ノートに授業内容を書き付けてゆく。内容は以前に学んだはずのものだが、すっかり忘れていて成績を期待できそうにはない。試験勉強は必要だな、と学生らしい考えをしてみる。頭の性能はよくないのになぜ留学したのか、自分でも疑問だ。膠着状態から逃げたくなって、その手段に留学を選んだ。だが、逃避だと自覚していた。

 自立、という言葉に状況は当てはまるのかもしれないが実態はただ一人、空間に閉じ籠っていただけだ。――思索はいつだって意味を成さないまま終わる。答えが出る頃には思考の意味さえ無くなっている。それが僕の現実だ。


「ゲームセンターってそばにある?」

 放課後になって、親しくなった寿々すすはらに尋ねた。彼は優男の印象のある爽やか系男子だ。背丈は恨めしくなるほど僕との差が甚だしい。眼鏡をかけて制服でも着れば優等生に見えるが、もう少し色気と年齢を足してスーツを着せればホストが登場。もっとも、寿々原はそういうノリは遠慮するだろうけど。

「ゲーセンなら西商店街だ。わかり辛いだろうし、連れてこうか?」

「うん、頼んだ。僕、方向音痴だからさ」

 帰り仕度をしながら寿々原に返す。一度だけ、隣を見た。柏は机に突っ伏していた。

 かせ 糸闇しあん。昨日も今日も授業中は寝ているところしか見ない。背の高さは僕より少し高いくらい。顔色は青白く不健康。身体もひょろひょろとしていて印象は悪い。人込みでは早々に見失ってしまうだろう凡庸とした服は、不潔やだらしないとまで思わないにしても、お洒落に興味があるようには見えない。野暮ったい。私服登校ができるというのが特色な学校だというのにそれを便利とも長所とも思っていないのがまるわかりだ。何事にも面倒だと思っているのが前面に押し出されている。始終、寝通しの学校生活をしているせいもあるだろうが柏に自ら寄って話す人もいない。

 顔立ちだけなら高級感あふれる服装も違和感ない。アーティスト系統の派手な服装もスーツも似合うだろうな、と眼に浮かんだ。柏の黒髪は独特な色気があり、その容姿はどこか異国の雰囲気も滲み出ていて、どこかの国の貴族だといわれたらそれも納得できる。それだけに残念だ。現在の彼は目の下に濃い隈を作り、陰鬱に俯く。その姿にどこか痛々しさまで感じるのは僕の主観が過ぎるのだろうか。

(――毎日夜更かしをして何をしているんだか)

 思うまでもなく思い当たる。夜更かしして授業中に眠らなければ眠気を抑えられないようになるまで、身体を壊すほどに、夢中になるソレ――ジェミニだ。目的が、あるのだろう。そして目的遂行のためには何を惜しむことなく、すべてをかける。

「にしても示崎ってそういうところ行くんだな、なんていうか……」

「塾とかなんとか教室とか行ってそーなのにさぁ。優等生っぽい」

 感心した様に言葉を紡ぐ寿々原の前、来住きしが会話に参加する。蜂蜜のような色の短い茶髪をワックスで固めて跳ねさせたスタイルの来住は服装も派手だ。着崩した様は、他人が真似出来ない独創性があって、けれど来住にはやたらと似合っている。同年代より低い背丈と童顔が、軽いを打ち消してやんちゃにみせる。見ている限りではムードメーカー。人当たりが良くお年寄りにも親切な不良。

「そうでもないよ。ゲームは好きだよ、ロマンだよね」

「は?ロマン?」

(……あれ、選択ミス?)

 ゲームに求めるものは仮想現実、日常では得られないスリルという名の刺激ではないのか。最も、僕の目的であるゲームはその条件に当てはまるのだが、僕自身にはその目的は当てはまらないのだ。僕が求めるのは残滓。残響のように僕の心に残る出来事の真実を知る手段。あるいは未練。あるいは願い。

「示崎くんっ私たちも行っていいかなっ?」

 急に会話に入る女生徒・アヤカに思考は打ち切りだ。彼女の後ろにも何人かの生徒がいる。何故、僕に許可を取るのか。放課後の学生は集団行動を義務付けられていないのに。

「好きにすればいいんじゃないかな」

 僕の許可はいらない。本人の自由意志だ。世界にはそれを一人で実行に移せない者もいるけれど、今は関係ない話。

「柏、一緒に行こうよ」

 いつの間にか起きていたらしい柏に笑いかけて誘えば少し驚いたように目を見開いた。それもすぐ、いつも通りの顔となる。どこかを見ているようで、どこも見ていないその瞳の先を、知りたいと思った。けれど、同時に決して壊してはいけない、侵してはいけないものだとも強く思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ