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Distorted  作者: ロースト
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二章-9

 いつもならば会話に乱入するアシュレイが黙ったまま会話を促しているので、どうにもこの話題から離れ難い。だがこの話題は嫌だ。触れられたくない。――二年間の僕の行動は、今の自分から見ても過去の自分から見ても暗黒歴史だ。隠滅したい、いや、既に隠滅されている記録である。……穿り返されても、恥ずかしいだけなのだ。

「ところで君たちのトップは?見たことないけど」

 無理でも無茶でも話題転換。

「事務が嫌いな人なんだよ。必要があれば話すって感じ。。今どこで何してるのか」

 そこで漸くアシュレイも会話に参加する。しかし、その口調はやけに大人びていつもと雰囲気が違う。そのロールの外見からも雰囲気の違いが際立ってくる。何より、アシュレイとジェントの雰囲気が似すぎる。

「加えて連絡は一方通行が大抵で、所在不明、神出鬼没、音信不通なんです」

「……迷惑な話ですね」

「ええ、それはもう」

 笑顔で悪態をつく志浩。会話は徐々に不在な上司の愚痴へと移る。

「ところで名前は――」



(やっぱりだ)

 告げられた名にそう、思わざるを得なかった。

「カルティエッタ」

 名前も外見もまったく別になってしまった僕。それでも旧友との再会人に笑顔が滲む。

「少しはあっちに顔を出したらどう?」

 ジェント・アシュレイと行動を別にした僕が一番にした行動はパトロールでもなんでもなく、カルティエッタの呼び出し。スカーレット・グリーンの魔女という二つ名で恐れられる彼女はかつてと変わらない、怠惰な笑顔で僕に返答する。

「私は私なりにきちんと仕事をしてるもの。現に今だって見回り中よ」

 ジェミニにおける二つ名持ちはかなり少数だ。最強のプレイヤー・ロキの失踪により美化された二つ名の強さは現在に値しないらしい。二つ名持ちとして記録されるブックリストは二年前から更新されたのはヴィオ一人だ。当然、現在少数の二つ名持ちにジェミニの大衆の注目は集まる。だから彼女がPKKに精を出していることは僕も知っている。だが、

「日本支部の責任者でしょ。顔出してあげないと、忘れられるよ?」

 彼女はパラドックスの総責任者でもあったりする。そっちの活動がなされない為に僕に被害は――色々と余計な疑惑と説明を被っている。PKK以外にも情報屋という職業を持つ彼女は確かに色々忙しいらしい。現実世界で海を越え大陸を越えてと飛び回る静と同じくらいなのではないか、と学生というのんびり執行猶予な僕は思う。中々連絡も取りにくい状態だったのだが、カルティエッタの方は僕の行動もきちんと把握しているらしい。嫌なぐらいタイミングよく、連絡がついた。噂をすれば影、ってやつだ。

「ヴィオのこともバジリスクのことも感謝してるけど、話は別」

 かつて僕がフォックスと名乗っていた頃に所属していたギルド・バジリスクの副マスター。最後のクエストで生還したのはヴィオだけだ、ということに表向きはなっている。現実には僕も参加していたが途中退場した。カルティエッタはそもそもその時、参加すらしていなかった。そんな彼女に後処理を任せてジェミニも復帰せずロキの喪失について説明する事もヴィオに会うこともせずに渡米した僕はだから、彼女に感謝している。

 PKKをしているのも、PKという行為にMISSINGが惹かれてくることを利用し、プレイヤーの敵であるPKを餌にしているのだろう。なら何故彼らに――パラドックスに上司として、指示しないのか。ジェミニとOVERの関係どころか、名称まで伏せて。

 旧来からの友人であるカルティエッタだが、その深奥を、僕はつかめたことがかつて一度たりともない。あるいはロキならば、彼女の気質も正確に読み解けていたのかもしれないけれど、それは無いものねだりというものだ。


「彼らはよっぽど僕が信用できないらしい。仕方ないとは思うけど」

 僕の言葉をまったく意に介さないカルティエッタニに告げる。元々、僕に信用を感じる必要はないといっても、疑われて掛かるのでは災時に問題がある。僕自身の気分が悪い、というのもあるのだが。彼女は可笑しそうに意味深に笑うのみ。

 僕だって、僕自身ほど信じられないものは無い。過去も詳細も、その性格さえ掴めなければ、信頼のしようがない。信用するに足る要素すら、補うことの出来る時間という共有もない僕では、当たり前のことだろう。

「あたしは信頼してるわ。信用はしないけど。だって、すぐ無茶するんだもの」

 言葉は見当違い、的外れ。でも彼女が言いたい事は額面どおりのことではないのだろう。変わらない視線を送ってくる彼女に、何か、ボタンでも掛け違えているのを視線だけで指摘されているような、そんな気分になる。笑いながらその長い髪の毛を耳に掛ける仕草に眼がいく。耳には装飾されたピアスがある。四年程前にロキがプレゼントした初心者用の対魔防具だ。外見を変えた彼女は、けれどロールは変わらずにいる。耳飾も未だ外すことができないでいる。――それはきっと、彼女なりの心残りの象徴。ロキを忘れないでいる証。

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