二章-7
「いくらゲームといってもジェミニはすべてがフィードバックされます。死にますよ」
志浩の言葉は冷たいが、心配によるものだろうか。ジェミニでの死とはつまり臨死体験。通常ならば殺される前に安全装置が働く。だが、それは通常アクセスの場合。今回、僕がパラドックスを案内したのはゲームセンターの地下端末。モンスター程度では早々に死ぬことのない熟年者専用ということになっているが、つまり安全装置のリミッターが解除されているもの。現実再現実験場としての本来のジェミニ接続だ。そこでの死は精神の死に繋がりやすい。つまり脳が死んだと誤認するショック死がジェミニによって肉体の死にまで引き上げられる。
「実際はそこまでじゃないよ。“代行くん”が僕の代わりに攻撃を引き受けてくれるから」
これを使用すると僕は攻撃を受けるけれどフィードバックだけが取り外されるというチート仕様。もっとも、消耗品なわりにバカ高い。現実価ならば一個でうん十万。フォックス時代にアジトに予備確保していたのでよかったと心底安堵する限りだ。もっとも、消耗するばかりなのでストックが既に少なかったりする。
「代行くんってあれですか、専用アイテムで消耗品なのに一つが何十万もする……」
「呪いの藁人形か!ただのイカレタアイテムじゃなかったんだな」
「あんたいったいどういう神経してんのよ!」
三者三様の反応をありがとう、という感じだ。だが、地下端末からの接続の意図を正確に理解したかどうか不明だ。まぁ、すぐに理解することになるだろうが。
その脳に送られる情報は現実のものと同じ、ゲームでキルすれば現実には殺人罪に相当。逆にキルされれば地下で意識不明、病院に運ばれるだろう。最悪は脳死。――ただのゲームじゃない。地上端末でのアクセスもフィードバックはあるが軽減されているため吐き気などあるが、死の疑似体験は意識上死んだと錯覚するだけの現象で、走馬灯が巡ることさえない。――一般プレイヤーと、そうでない者の区別は外からじゃまったく区別がつかないので、ともに行動することはかなり危険。その点、地下端末から接続するプレイヤーから一般プレイヤーへ遠慮がなかったりする。いや、僕もだけど。
「でも、ジェミニってすごいのね」
心から感心したようなヴェローナに、ジェミニが作られてよかったと僕も素直に喜べる。
「ええ。本当に、本物の世界のようでしょう?」
そういって嬉々としグラフィックやら世界構造やらの説明を始めようとした僕に、「え――?」僕の耳に届いた言葉は、僕の心を揺るがした。アイツが望んだ世界。僕が祈った世界。彼女が作り出した世界。僕と彼があった世界。一瞬で駆け巡る、この世界との思い出。
「だってそうでしょ。同じ顔、同じ体、同じ性格、同じ生い立ち。でも、別の名前で、別の動きをして、別の場所に生きている。ここにいる私は私であって私じゃない。そっくり同じ自分がもう一人いる」
「だから、双子みたいだなって」
「――っええ、ええ本当に」
不意に、泣きたくなった。零れ落ちそうになる感情を、唇を噛み締めて堪える。
他人から聞かされた、“双子”という言葉。アイツが、架火が、僕が、なぜこの世界をジェミニと名付けたのか。そんな理由はわかりやすすぎて僕を涙脆くさせるのだ。