二章-6
「あんた、いつ始めたんだっけ?」
ジェミニに降り立ち、待ち合わせをした。そのメンバーはつい先ほど増えたアドレスの相手だ。つまり初心者。まあ、僕もプレイ期間の短さでいえば初心者だ。
「一ヵ月経つかな……?」
「なんなのよ、このレベルっ!でたらめじゃないっ!」
レベル三十四の僕にそんなことをのたまう初心者。頭が高い!とは嘘でも言えないのは彼女がリアルに上司だからだ。
海和――ヴェローナはゲームにも関わらず、スーツを着ているが珍しいものでもない。というのも、企業利用者も必然的に現実と同じく場を弁えた――ここでは不自然であっても――格好としてスーツの着用が多いからだ。冒険者としての旅装をしている者や街人たちのなかでそれらは目立つ。けれど、異質でも珍しくもない。そんな不自然性も罷り通っているのがこの世界なのだ。……それはジェミニ自体の歪みだけれど。
「そうでもないよ。理屈通り、経験値通りさ」
初ログインでは当前レベル1。そのレベルに対しては僕のレベルは高いだろうが、他のメンバーに比べてさほど飛びぬけた高さではない。
待ち合わせに来た他のメンバーは十二、志浩、葛原。こちらでは順に、グランシャリオ、ジェント、アシュレイとなっている。三人はジェミニ経験者だ。いや、ジェミニが経済社会に組み込まれるようになった昨今でジェミニお初という海和の方が珍しい。
ジェミニは世界的に親しまれアクセス数はこのまま増え続ければ歴史に太刀を入れるだろうが、所詮はゲームだと軽んずる者や、噂に踊らされる者も少なくない。
噂とはもちろん、真実である。現実世界に出現するジェミニのモンスター、OVER。その被害者は一様にジェミニの利用者であり、何らかの記憶障害を一時的にだが引き起こしている。世論では被害者が直前までジェミニを使用していた、ことからジェミニが原因で精神の錯乱・記憶の混乱が引き起こされているのではないか、というもの。そんな事実関係はないと悠木率いるジェミニ推奨者は主張し、多くは少数派の意見を愉快犯と称しジェミニに起因を求めない。――実際に、OVERの仕業でありジェミニに起因した事実なのだが、それ知る者はさらに少数。パラドックスも知らなかったということで、今度からジェミニ内部でも活動をしよう、と今日に至る。つまりギルド結成。近々大型ギルドが作られると以前ヴィオに話したが、ただの推測が予測から預言になりそうな時の経過である。
ゲームの中では三倍速。僕にとっては一か月でもリスタは三か月をレベル上げに費やしている。レベルは低ければ成長しやすい。本当に難しいのはここからだ。
「僕の職業・傀儡士はレベルが上がりやすいんです」
「そうなのか?俺も聞いたことない、てか見たことない」
ギルド申請中のグランシャリオ――グランに対し、アシュレイもジェントも暇を持て余しているようだ。初心者への説明に付き合ってくれる、わけでなく僕に質問している。
「でも痛いし危ないですよ。基本、傀儡士はデッドオンリーな戦法ですから」
「は?」
「傀儡士は防御値が低いけど、専用防具はナシ。武器も消耗品の糸のみ。傀儡士の専用アイテムはジェミニ中最高の品ですが高額な消耗品のためゲーム序盤では絶対手に入らないんです。まして、僕の能力は復元。しかも発動条件があるので、」
「攻撃をコピるにはコピるだけの情報源が必要ってことかですか?」
僕の言葉を引き継いだジェントに苦笑を漏らした。それを肯定ととったようで、ジェントとアシュレイの顔色が蒼褪める。ヴェローナは理解してなさそうだが。
「……なんて無理ゲー」まぁ、僕もそう思うけど。
再現。言葉では簡単だけれど、そのためにはあらゆる情報が必要だ。攻撃の威力、生み出す衝撃、作り出す被害、それ自体に加算される重量、質量、そのアクションによって生じる事態の推測と結果の現象。すべてを帳尻合わせするならば、実際に行わればいい。つまり、僕に対する攻撃は僕の攻撃のままアクションは起こされる。たとえば第三者で誰かが攻撃を受けている、もしくは攻撃をしているのを観察したところで、直接接触していないので情報の不足は否めない。――うん、実体験を前提で僕の能力は発動する、なんて無理ゲーにもほどがある。