一章-25
「示崎、海和から聞いた。詳細を聞きたい」
呼び出された。といっても断じて校舎裏などではなく、会社。パラドックスの本部。休日返上業務に加え日付変更直後の活動。もちろん、化物に対して時間帯なんて常識を求めるほうがおかしいけれど、対応する僕らは常識人なわけで、明日も学校あるのにな、とか思いながら深夜の出勤。もしかしたら僕の体質が何らかの影響を及ぼしたのかもしれないけれど、それは波状であって作用ではないので僕は無関係を貫き通す所存。
「なんのことでしたっけ。OVERについて?」
何をそんなに慌てる必要があるのか、必死な彼らとは大差の温度で僕は対応。名称など便宜上の便利だけしか意味はない。けれど、名前とは性質を現し縛る。今回のことをそれに当てはめるならば、このOVERという名称は――越えたもの。規格外。人外。その能力は桁外れにして、この世界の理から離れた化物。世界から浸透した蓄積物。カスみたいな記録の集合体。世界の欠片。
「詳細も何も本部が知っているでしょう?名称も、彼らはそう呼んでいたってだけですよ」
「少し待て、確認を取る」
僕の困惑が分かったらしい。無線を仕込んでいたのか、十二はそちらに何事かを言付けてから携帯を取り出し部屋を出て行く。いったい何処までを確認するのか。少なくとも、彼の上司――日本での責任者には問い合わせるだろう。そして、本国。
NNMはただのサークル。だが、その影響力は世界規模だ。手下と成って働く者は世界各地にいる。その規模で行動しているのだ、目的意志も組織としても明確なはず。だが、僕の事は知らず、名称もなく戦っていた。日本は平和な国だ。電子機器も優れている。ジェミニの発展もそれに比例している。そしてOVERの出現率も格段に高い。――ジェミニというゲームから侵食してきた情報の意志結合体OVER。
ジェミニを通して世界に感染してゆくため国を問わず、時も問わない。ジェミニ発祥国である日本に出現が多いのはそのせいであり、また僕の不運体質がそれを跳ね上げている。
危険性も増すが被害も大きくなる。――そう、OVERならまだしも、アレに遭えば一般人は対抗の術を持たず、殺されないとしても、……廃人になる可能性は高い。
――秘密にしていられるのも時間の問題、かな。
「ねぇ、あんた有名人?」
ぽつん、と座る僕に海和が話しかけてきた。それに一呼吸置く為、考える為に出された茶を飲み干す。すっかり冷めてしまったが、猫舌なのでちょうどよい。話し通していたせいもあるが、らしくもない緊張から喉がカラカラだったことが飲み込んでから分かった。
「さぁ?でもある意味、そうでしょうね」
どこまで教えるか。何を開示するか。有名人。テレビやなんかで紹介される人物。違う。名が通っている。一部の奴らの間では。矛盾だ。少数においての有名は有名か。
「はっきりしないやつね」
「はっきりとさせることって悪だと思うんです。極端すぎますか」
「……あのね、そう聞くこと自体、はっきりさせたいってことでしょう?」
違うの?と問う視線が向けられたのは分かったが、僕の意識は既に違うところへと向かっている。会議室の向こう、窓の外へと視線が動く。微かな振動に窓が分子単位で震えていることは人の視覚では捉えることは出来ない。また、その音域も高音で人に届くことはない。けれど、僕には届いていた。
痛いぐらいの気持ち、想いの塊がこの世に生まれ出たということを。
「――行かなきゃ」
僕は窓を開けて、転落防止のガードを乗り越え外に身を乗り出した。
いきなりリアルです。すいません、飛ばしです。後で説明入りますです。
リアル見せ場、来ますから。