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Distorted  作者: ロースト
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一章-21

 エリア転送装置――旅立ちの門。通称、門。ホームタウンから出て行く者たちを見送る為の場所。街中にいたプレイヤーはやがてそこにたどり着く。そしてまた、己の世界へと帰っていく。現実と架空との境目でもあるそこは、やはり賑わっていた。そこをヴィオとともに待ち惚けすること数十分。

「ルッツだ、よろしく」

 独得な雰囲気を持つの青年ルッツ。髪から瞳の色、爪の先に至るまでの青と黒の二色で統一された様相は奇抜。年嵩は僕らよりも上。凪いだ瞳には歴戦の風があり、頼りになりそうだった。けれど両手でこちらの手を握ってくる大仰な動作はチグハグで可笑しい。

「じゃあ行くぞ」

 やや不機嫌そうに眉を寄せたヴィオが身を翻して門へと歩みを進める。けれど、矢山の抜けた顔でルッツは当然の事を聞いてくる。

「……もしかして、冒険行くのか?」もしかしても何もない。

「まさか、準備が整ってない、とか言わないよな?」

「あはは、正解……」



 噴水の淵に腰掛け、先ほどの買い物を確認するルッツを眺めながら僕とヴィオは軽食にありついていた。基本的にゲーム内で空腹を覚えても、それは意識的なもので現実にはまったく作用されない。つまりジェミニで飲食するのはまったくの自己満足、お金の無駄遣いなのだ。僕もヴィオも普段はそんなことをしないため奢り、という言葉に甘えて彼の横で食べ物を口に運んでいる。ルッツを待つ、という大義名分を掲げて。

「だってさぁ、女性に呼び出されてみろよ、お誘いだと思うじゃん?デートなら完全に準備万端だったんだよ」

 なんなら行く?可愛い子ちゃんがいるし。と本気か冗談かつかない言葉をかけてくるルッツ。遅れたことに謝罪もなく、本件についても知らない。けれど、そこには嫌味などなく、許せてしまう雰囲気があった。困ったものだけれど。

「お前も男なんだ、知っといて損はない。いや、今のうちに知っておかないとヤバイだろ。俺がまずお手本を見せてやるからヴィオも――喧騒か?」

 言葉の先が不意に鋭くなり、ルッツは立ち上がった。




「おいおい、ゲームでもやっていいことと悪いことの区別はつくだろ?穏便にいこうぜ」

 商人風の少女とハンター集団の間にルッツは入る。男たちはルッツの言葉をまるで見当違いというように笑い出す。彼等は彼の冷たい視線も温度のない言葉にも気づかないで、その凶行を正当化するための言葉を述べ続ける。

「ここに法はない。つまり俺らがルールだ。一人一人が自由に行動してんだ、てめぇが俺らに口出すのも違反じゃねぇが、俺らが何しようとそれも咎められる法はねえんだよ。言うこと聞かせたいなら実力勝負。そうだろ?」

 なるほど、男達の言葉には一理ある。ホームタウンでの戦闘は御法度ではない。システムの干渉が出るまでもない諍いはしばしば起きる。今回のこともその程度の事。人々が足を止めるのはただの余興としての慣例だ。決して出来事に関心があるわけではない。

「実力勝負か――。なら、ギルド名を名乗るんだな」

 だが、街に被害を出せば裁判を起す要素になるし、ギルド名を出せばその責は個人ではなくギルド全体に掛かる。そのため、嵩を着るようなことにはなるが、ギルド名が提示されると大抵が取り止めになる。こんな場所で大した意味もなく乱闘をするのは賢い選択ではない。引っ込みがつかなくなった場合でも、その提案には頷くことが出来る。けれど、

「正義のヒーロー気取りか?言葉だけの腰抜けが、ケチつけてんじゃねぇよ。テメェをカモにしてやってもいいんだぜ?」

 男は明らかにルッツを馬鹿にしていた。自分たちがやられるわけがない。敗者は搾取されるが、自分たちが勝つなら何の問題もない。搾取が出来て自分たちの力も見せびらかせられる。ストレスの発散にもなる。男達は明らかに観客に酔い痴れていた。

「……恥をかきたいなら、それでいいさ小悪党(プレイヤーキラー)ども」

 何食わぬ顔で豪快に啖呵切るが瞳は永久凍土の色を表している。はみ出しもののそれだ。臆したものなど何もない。――ならず者へと向ける。

「な――ッ」

 絶句したのは男たちの方だ。言葉にはないが、その心情は理解できる。ルッツは彼らをPKだと呼んだ。通常、PKとは相手にそれを知られないように行動している。有名なPKじゃなければ騙まし討ち、仲間殺しを方法としているわけだからそれこそ、顔を知られてはならない。だから、それを知っているとは即ち、PKされた者かあるいはPKK――PKを狙う職に着くものか。

「――正義を名乗る、青と黒の優男……!」

 誰かが恐れたようにその文句を述べて、気づく。目の前にいいる男と、都市伝説の一致。まさか、と思うがその殺気と実力には理解せざるを得ない。その扱う武器は多種多様にして隠密に優れる、と有名なファースト世代からの古株のプレイヤー。PKKの至上に君臨するというその男は“R”と呼ばれていた。規則の守人。半端者。冷酷にして慈愛を見せる者。則る者。――多くの異名はその性質を現していたが、彼の名はルッツ。

 あまりにも普通にその場を後にするルッツ。そしてヴィオも何でもないことのように対応する。だからこそ、僕は口を出す以外なかった。

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