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Distorted  作者: ロースト
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一章-14

「問題起こさずに帰れよ」

 教師の言葉を皮切りに、ざわついた空気が一瞬にして広がる。

「示崎くん」

 帰り支度をする僕に声がかかる。だが僕は止まらない。……暴走列車でもなんでもないけれど、単に話すだけならば手の作業を止めなくてもいいだろう。

「今日も行くの?」

「そうだね、そのつもりだよ」

「毎日行くよね、何してるの?」

「ゲームだよ。ゲーセンだからね」

 三週間が経った。僕が帰国して、僕が転入して、僕がジェミニを始めて、三週間。毎日をルーチンワークで過ごすのは僕も架火も同じ。僕は学校に通い、幼馴染のもとへ通い、ジェミニへ通う。そしてたまにOVERと出会い、十二含む能力者集団に出会う。毎日、習慣となるように、刻み込むように連続して行う。ジェミニ最深部攻略――真理の扉という最難関クエストに到達するため、真に迫る仮想空間へと没入する。主にレベル上げだが。

「何のゲーム?」


「――皆が知っているものさ」

 そう、ジェミニは誰でも知っている。たった数年で急激に世界へと広がった。菌の繁殖か生物の蠢きのようで僕にはある種の恐怖だけれど。

 ネットを繋げば出来るそのゲームをゲームセンターで行うものはそれほど多くはない。ジェミニはオンラインで登録・ゲームする事が出来るのだ、付属品など必要なものは多数あれど、毎回バカ高い使用料を払って行うよりも自分でセットごと買ってしまう方が早い。だがゲームセンターでジェミニを行う者は絶えない。それは、ゲームセンターのみの特別仕様――フィードバックがあるからだ。

 より深く、より真実へと近づくための手段。GMがプレイヤーを選定し招待する、知る人ぞ知るもう一つのゲーム。ジェミニの裏側。管理者側からの許可がないと行けない場所。選ばれた者だけに開かれた世界。


 ぴぴぴぴ。


(連絡……?)

 友達も少ないというのに掛かってくる電話に不審を抱く。機械と相性の悪い僕に、基本的に携帯は活躍の機会がない。さて、いつまでも鳴りっぱなしではいけないだろう。取らないといけない。しかし、僕は本当に機械が苦手なのだ。――黒い携帯を手に取る。

「ああいやだ。嫌な予感しかしないじゃないか」

 不吉の音を止めるためにボタンを押して、人群から離れた。夕闇に彩られ始めたグラデーションの空を窓枠に切り取られたまま鑑賞する。

「はいはい、誰でしょうか?」

『それは俺が誰かという問いか?』

「僕が誰か、という問いですよ、十二さん」

『集まりだ、――来い』


 ――プツ ツー ツー ツー


「ほら、やっぱり」

 架火に会えない。ジェミニにも行けなさそうだ。時間指定がないことに気づいたが急ぐでもなく向かう。と、その前に柏に場所を確認した。変な顔をされた。だって、指定されたのは会社だから。そんなところに学生が何の用というのか。僕にも、わからない。僕は溜息混じりに苦笑した。


 大きな会議室、中央には円状の机があり、その中央に僕は立ってまるで円卓の騎士か、と内心のみで呟く。ここでは“偉い人”十二が口を開いて質疑応答が始まるのだろう。

「揃ったな」

「そうなんですか?」

 変な沈黙が降った。最初から選択のミス。でしゃばりすぎたかと後悔、気が滅入る。


 指定された会社に入れば同年代の少女がいる。志浩ゆきひろと名乗り、僕の前を歩いた。そういえばこの組織の説明も何も受けていない。知っているのは名前だけだ。改めて考えると不審だった。いや、何故忘れていたのだろう程には重要なことだった。前提的に。教える前に携帯の番号も知っているぐらいだから僕についても色々調べてあるだろう――というところで十二からの言葉が入った。


「お前は、どこまで知っている?」

「あなた方はどこまで知っていますか?」

 出会いと同じ繰り返しの問答。書類を持って十二の隣に座っていた立ち上がる女性。

「……示崎晩。日本に帰国。知名高校に転入、2―B所属出席番号二九、年齢一八歳。行動範囲は自宅と学校、商店街、西商店街傍のゲームセンター、とあるマンションの一室。そこで人と会っているようだけれど詳細不明。中学から二年間はアメリカの大学に留学。だけど中退してるわね。特殊なサークルに入ってたらしいじゃない。でも活動内容が不明。――少なくとも、トラブル吸引体質ではあるようね」

「――ここまでで質問や訂正はあるか?」

「僕はトラブル吸引体質なんて厄介なものなんでしょうかね。変質者に好まれやすい性質ではあるらしいですけど」

 自覚はあった。しかし好んで肯定したいわけでもない。友人とも言いたくはない知人、いや恥人が数名、海向こうに生息している。俗世間に当てはめれば天才という枠の内側にいる者たちであるが馬鹿と天才は紙一重、という諺に適合する人物たちである。奇人変人、異界人。それが、相応しいように感じるのは僕だけでない。認識は別区画。

 僕が留学していたのは特殊性なんて持ちえない、ただの大学。交換留学生システムも不自然でない形で人を呼び入れるためのものである。僕はそれを頼って向こうに渡ったのだ。ただ、そこにある一つのサークルだけが普通じゃなかった。

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