四章-9
「これが、晩の望んだもの?」
「これが、おまえの結果か?」
問の意図が重ならない。
二年間の空白に、けれど何も変わっていない晩。成長期の二年間で伸びるはずだった背も同じ、停止した時間のままそこに存在していた。――更新されない情報は不変だ。
そして、晩には自身の成長と言う未だ見ぬ、そして今後もありえるはずもないそれに情報を更新する事はできない。……それに比べれば、僕と架火は、成長していたのだろう。
眼に見えぬ形で、変わっていった。
架火は今、自室にて寝ているだろう。静もそれに付き添う形でマンションの中にいる。
架火は晩のことを感じ取っていたのだろうか、それとも偶然だろうか。普段は取らない睡眠を早い時間から行っている。現在は意識を深い闇に沈めるがそと時も経たずに目覚めるだろう。何も知らせずにいた。だが、何かを予期するように、架火は窓辺に座り込む。
僕はフォックスを横に従え、リスタとなった。それを見て、晩も一瞬でこの空間を理解した。ロキへと変わり、武器をその手に構えた。面白い、と表情が言っている晩。表情がころころ変わる晩はやはり、
「変わってないな」
「変わったよ」
ロキの発言は僕の心と同調したが、それは指し示す対象が違った。
人は成長する。それが定義だ。じゃあ、成長しなければ人ではないのか。
(人外だ。だが、化物じゃない)
この二年、僕と架火は停滞していた。変わらないまま。
。
「ねぇ、僕は変わったよ。二年間なんて比じゃないほど、ここに帰ってからの日々は僕を変え続けた」
そうして僕は武器を手に踏み込む。――晩は、この二年で変わらなかった。けれど、今、僕が変えてみせる。そのための、日々。
「そのわりに、成長はないようだな?」
ガキンッと音を鳴らして交差するロキの剣と僕の短刀。強さで押される前に、と弾き飛ばす勢いで力を入れる。だが、わずかな隙間も出来上がらない。(さすがに、強いね)
やはり、強いのだ。相変わらず、伝説の名はジェミニに刻まれている。再スタートのせいでも、上がりきらなかったレベルでもなく、僕の存在が、ロキという存在に負けている。死してなお、その輝きは失われない。死してなお、その天賦の才は失われない。
近距離は合わない、と僕は距離を開けるタイミングを見る。
「弟の癖にどこ見てるんだよ。訴えるぞ、主に架火に」
「言われたくなきゃ着飾るぐらいしたらどうだ?」
「してるよ、たまには。つい最近にも。でも、晩に見せなきゃいけない道理はないと思う」
「静兄か?ヴィオ?それとも別の誰かか?」
剣呑になったロキの眼に、苦笑した。こんな状況でなければ、普通の双子でいられたら、どんなによかっただろう。どうにもならないことを、僕は夢見る。
「晩、昔を思い出さない?僕ら、いつも一緒に戦ってたよね」
「一緒に、な。敵対はしない。勝てない相手には刃向わないのがおまえだろ?それとも、俺に勝てるつもりなのか?――だったらお前はただのバカな」
そういって、ロキは武器を下げた。――二年前から停滞し続けるロキ。
「僕は、言ったはずだよ。二年前とは、違う」
黒の手袋に鋼糸を持ち、言葉と同時に放つ。ロキの剣に向けた糸は、けれど一瞬で細切れにされた。
「ヴィオに入れ知恵したのもお前か、杏」
見据えた先、先ほどとはまったく違う意味合いの剣呑に光る瞳が貫く。やっと口に出した名は、けれど“僕”じゃない。
「……違うよ、今は。杏じゃない。フォックスでもないんだ」